65 / 192
耳に関する調査
しおりを挟む
「というわけで、耳触らせてくださいっす」
「イヤに決まってんだろ」
カイにばっさり切り捨てられ、フェリクスは悲し気に耳を下げた。
「そんなこと言わずに、お願いっすよ。姐さんはどうっすか?」
「えー?僕もイヤだよ」
矛先がこちらにきたので、レイは警戒して言った。
「獣人の耳について調査している人間がいるんす」とフェリクスが言い出した時には、変なことを気にする人間がいるんだな、と面白く聞いていたのだが。
その人間からフェリクスの便利屋の事務所に依頼があり、それが「獣人の耳の感度」に対する調査だったらしい。
そして冒頭の「耳触らせてくださいっす」になったわけなのだが、いくらフェリクスの頼みでも、聞けることと聞けないことがある。
反射神経の良さそうなフェリクスの不意の攻撃を避けるため、レイは自分の耳を手で押さえた。
「じゃあオレ、クローゼットに隠れてるんで、恋人に触られてるトコを見せてもらうのでもいいっす」
「妥協したふうに言うんじゃねーよ!大体、どんなプレイだそりゃ!」
「姐さんのとこ・・・ は、バレたら殺されそうだからいいっす」
「当たり前でしょ。絶っ対ダメだよ」
容赦ない拒絶にあって凹んだ顔をするフェリクスを見ていたカイが、急に笑顔になった。
「ンなに言うならよー、テメーの耳触ってやるよ。そんで感想文書きゃいーだろ」
手をワキワキさせながら言ったカイに、フェリクスは すん とすまして手を振った。
「あ、それはムリっす」
「なんでだよ」
「オレ、耳触られてもなんも感じないっすもん」
「え?そうなの?」
「そうっすよ。触ってみるっすか?」
ためらいなく頭を差し出されて、レイは思わず生唾を飲み込んだ。
他人の耳に触る機会などほとんどない。しかも偶然やわざとじゃなく、了解を得てなど。
カイも同じだったのだろう。じっと差し出された耳を見ている。
「本当にいーんだろーな?」
「男に二言はないっすよ」
レイとカイは視線を交わし、フェリクスの頭の右と左に陣取った。
「ふわーっ!本当に無反応だ!」
「かわいくねーな、オメーは」
フェリクスの耳は大きくて元々垂れている。長めの金髪も相まって、ゴールデンレトリバーのような雰囲気だ。その耳を持ち上げて撫でてみるが、フェリクスは全く意に介していない表情だ。
その表情が、しばらくした後にカイとレイを順番に見上げ、にんまりと笑顔になった。
「さ、次はお二人の番っすよ」
「は!?触っていいなんて言ってねーだろ!」
「いやいや。人の耳触っといて、後は知りませんってのは通らないっすよ」
ゆらりと立ち上がったフェリクスから、慌てて距離をとる。
しかし、レイ達を助けに来てくれた時の運動神経を鑑みるに、この部屋のどこにいても一瞬で捕まってしまいそうな気がする。
「早まるなフェリクス!ぎゃーっ!」
「カイー!」
跳躍したフェリクスがカイの手首を捕まえるのが見え、レイは思わず悲痛な叫び声を上げた。
「何をしているんですか、あなたたちは」
ため息交じりの声が聞こえ、三人は動きを止めた。見ると、セバスが呆れたような顔をしてこちらを見ていた。その目が、手首を捕らえられているカイを見る。
「あなたは少し、警戒心とか、奥ゆかしさとか、そういうものを身に着けた方がいいのではないですか?」
「なんだよ、警戒心って。女の子じゃあるめーし」
おかしな冗談を聞いたようにカイが笑う。しかし、レイですらセバスの言うことはちょっとわかる。セバスはやれやれと首を横に振った。
「まあそうでしょうね。あなたはずっと警戒するほうじゃなくて、される方だったんでしょうからね」
「カイ、僕も気を付けた方がいいと思う」
控えめにセバスの援護射撃をしておく。しかし、フェリクスの手を叩いて離させたカイは「何言ってんだオメーらは」と取るに足らない態度だ。
「そうっすよ。カイさんはこれでいいんす」
「ややこしくなるのであなたは黙っていてください」
ぴしゃりとセバスが言い、場はお開きになった。
「イヤに決まってんだろ」
カイにばっさり切り捨てられ、フェリクスは悲し気に耳を下げた。
「そんなこと言わずに、お願いっすよ。姐さんはどうっすか?」
「えー?僕もイヤだよ」
矛先がこちらにきたので、レイは警戒して言った。
「獣人の耳について調査している人間がいるんす」とフェリクスが言い出した時には、変なことを気にする人間がいるんだな、と面白く聞いていたのだが。
その人間からフェリクスの便利屋の事務所に依頼があり、それが「獣人の耳の感度」に対する調査だったらしい。
そして冒頭の「耳触らせてくださいっす」になったわけなのだが、いくらフェリクスの頼みでも、聞けることと聞けないことがある。
反射神経の良さそうなフェリクスの不意の攻撃を避けるため、レイは自分の耳を手で押さえた。
「じゃあオレ、クローゼットに隠れてるんで、恋人に触られてるトコを見せてもらうのでもいいっす」
「妥協したふうに言うんじゃねーよ!大体、どんなプレイだそりゃ!」
「姐さんのとこ・・・ は、バレたら殺されそうだからいいっす」
「当たり前でしょ。絶っ対ダメだよ」
容赦ない拒絶にあって凹んだ顔をするフェリクスを見ていたカイが、急に笑顔になった。
「ンなに言うならよー、テメーの耳触ってやるよ。そんで感想文書きゃいーだろ」
手をワキワキさせながら言ったカイに、フェリクスは すん とすまして手を振った。
「あ、それはムリっす」
「なんでだよ」
「オレ、耳触られてもなんも感じないっすもん」
「え?そうなの?」
「そうっすよ。触ってみるっすか?」
ためらいなく頭を差し出されて、レイは思わず生唾を飲み込んだ。
他人の耳に触る機会などほとんどない。しかも偶然やわざとじゃなく、了解を得てなど。
カイも同じだったのだろう。じっと差し出された耳を見ている。
「本当にいーんだろーな?」
「男に二言はないっすよ」
レイとカイは視線を交わし、フェリクスの頭の右と左に陣取った。
「ふわーっ!本当に無反応だ!」
「かわいくねーな、オメーは」
フェリクスの耳は大きくて元々垂れている。長めの金髪も相まって、ゴールデンレトリバーのような雰囲気だ。その耳を持ち上げて撫でてみるが、フェリクスは全く意に介していない表情だ。
その表情が、しばらくした後にカイとレイを順番に見上げ、にんまりと笑顔になった。
「さ、次はお二人の番っすよ」
「は!?触っていいなんて言ってねーだろ!」
「いやいや。人の耳触っといて、後は知りませんってのは通らないっすよ」
ゆらりと立ち上がったフェリクスから、慌てて距離をとる。
しかし、レイ達を助けに来てくれた時の運動神経を鑑みるに、この部屋のどこにいても一瞬で捕まってしまいそうな気がする。
「早まるなフェリクス!ぎゃーっ!」
「カイー!」
跳躍したフェリクスがカイの手首を捕まえるのが見え、レイは思わず悲痛な叫び声を上げた。
「何をしているんですか、あなたたちは」
ため息交じりの声が聞こえ、三人は動きを止めた。見ると、セバスが呆れたような顔をしてこちらを見ていた。その目が、手首を捕らえられているカイを見る。
「あなたは少し、警戒心とか、奥ゆかしさとか、そういうものを身に着けた方がいいのではないですか?」
「なんだよ、警戒心って。女の子じゃあるめーし」
おかしな冗談を聞いたようにカイが笑う。しかし、レイですらセバスの言うことはちょっとわかる。セバスはやれやれと首を横に振った。
「まあそうでしょうね。あなたはずっと警戒するほうじゃなくて、される方だったんでしょうからね」
「カイ、僕も気を付けた方がいいと思う」
控えめにセバスの援護射撃をしておく。しかし、フェリクスの手を叩いて離させたカイは「何言ってんだオメーらは」と取るに足らない態度だ。
「そうっすよ。カイさんはこれでいいんす」
「ややこしくなるのであなたは黙っていてください」
ぴしゃりとセバスが言い、場はお開きになった。
10
お気に入りに追加
810
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
僕は性奴隷だけど、御主人様が好き
泡沫の泡
BL
鬼畜ヤンデレ美青年×奴隷色黒美少年。
BL×ファンタジー。
鬼畜、SM表現等のエロスあり。
奴隷として引き取られた少年は、宰相のひとり息子である美青年、ノアにペットとして飼われることとなった。
ひょんなことからノアを愛してしまう少年。
どんな辱めを受けても健気に尽くす少年は、ノアの心を開くことができるのか……
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
純粋すぎるおもちゃを狂愛
ましましろ
BL
孤児院から引き取られた主人公(ラキ)は新しい里親の下で暮らすことになる。実はラキはご主人様であるイヴァンにお̀も̀ち̀ゃ̀として引き取られていたのだった。
優しさにある恐怖や初めての経験に戸惑う日々が始まる。
毎週月曜日9:00に更新予定。
※時々休みます。
ノンケの俺がメス堕ち肉便器になるまで
ブラックウォーター
BL
あこがれの駅前タワマンに妻と共に越した青年。
だが、実はそこは鬼畜ゲイセレブたちの巣窟だった。
罠にはめられ、ノンケの青年は男たちに陵辱される悦びに目覚めさせられていく。
多数の方に読んでいただき、心よりお礼申し上げます。
本編は完結ですが、番外編がもう少し続きます。
ご期待ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる