猫奴隷の日常

ハルカ

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耳に関する調査

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「というわけで、耳触らせてくださいっす」
「イヤに決まってんだろ」

カイにばっさり切り捨てられ、フェリクスは悲し気に耳を下げた。

「そんなこと言わずに、お願いっすよ。姐さんはどうっすか?」
「えー?僕もイヤだよ」

矛先がこちらにきたので、レイは警戒して言った。

「獣人の耳について調査している人間がいるんす」とフェリクスが言い出した時には、変なことを気にする人間がいるんだな、と面白く聞いていたのだが。
その人間からフェリクスの便利屋の事務所に依頼があり、それが「獣人の耳の感度」に対する調査だったらしい。
そして冒頭の「耳触らせてくださいっす」になったわけなのだが、いくらフェリクスの頼みでも、聞けることと聞けないことがある。

反射神経の良さそうなフェリクスの不意の攻撃を避けるため、レイは自分の耳を手で押さえた。

「じゃあオレ、クローゼットに隠れてるんで、恋人に触られてるトコを見せてもらうのでもいいっす」
「妥協したふうに言うんじゃねーよ!大体、どんなプレイだそりゃ!」
「姐さんのとこ・・・ は、バレたら殺されそうだからいいっす」
「当たり前でしょ。絶っ対ダメだよ」

容赦ない拒絶にあって凹んだ顔をするフェリクスを見ていたカイが、急に笑顔になった。

「ンなに言うならよー、テメーの耳触ってやるよ。そんで感想文書きゃいーだろ」

手をワキワキさせながら言ったカイに、フェリクスは すん とすまして手を振った。

「あ、それはムリっす」
「なんでだよ」
「オレ、耳触られてもなんも感じないっすもん」
「え?そうなの?」
「そうっすよ。触ってみるっすか?」

ためらいなく頭を差し出されて、レイは思わず生唾を飲み込んだ。
他人の耳に触る機会などほとんどない。しかも偶然やわざとじゃなく、了解を得てなど。
カイも同じだったのだろう。じっと差し出された耳を見ている。

「本当にいーんだろーな?」
「男に二言はないっすよ」

レイとカイは視線を交わし、フェリクスの頭の右と左に陣取った。

「ふわーっ!本当に無反応だ!」
「かわいくねーな、オメーは」

フェリクスの耳は大きくて元々垂れている。長めの金髪も相まって、ゴールデンレトリバーのような雰囲気だ。その耳を持ち上げて撫でてみるが、フェリクスは全く意に介していない表情だ。
その表情が、しばらくした後にカイとレイを順番に見上げ、にんまりと笑顔になった。

「さ、次はお二人の番っすよ」
「は!?触っていいなんて言ってねーだろ!」
「いやいや。人の耳触っといて、後は知りませんってのは通らないっすよ」

ゆらりと立ち上がったフェリクスから、慌てて距離をとる。
しかし、レイ達を助けに来てくれた時の運動神経を鑑みるに、この部屋のどこにいても一瞬で捕まってしまいそうな気がする。

「早まるなフェリクス!ぎゃーっ!」
「カイー!」

跳躍したフェリクスがカイの手首を捕まえるのが見え、レイは思わず悲痛な叫び声を上げた。

「何をしているんですか、あなたたちは」

ため息交じりの声が聞こえ、三人は動きを止めた。見ると、セバスが呆れたような顔をしてこちらを見ていた。その目が、手首を捕らえられているカイを見る。

「あなたは少し、警戒心とか、奥ゆかしさとか、そういうものを身に着けた方がいいのではないですか?」
「なんだよ、警戒心って。女の子じゃあるめーし」

おかしな冗談を聞いたようにカイが笑う。しかし、レイですらセバスの言うことはちょっとわかる。セバスはやれやれと首を横に振った。

「まあそうでしょうね。あなたはずっと警戒するほうじゃなくて、される方だったんでしょうからね」
「カイ、僕も気を付けた方がいいと思う」

控えめにセバスの援護射撃をしておく。しかし、フェリクスの手を叩いて離させたカイは「何言ってんだオメーらは」と取るに足らない態度だ。

「そうっすよ。カイさんはこれでいいんす」
「ややこしくなるのであなたは黙っていてください」

ぴしゃりとセバスが言い、場はお開きになった。


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