猫奴隷の日常

ハルカ

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新しい日常 7

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「ダメだよルカっ!」

今日はルカを、レイの元の部屋に連れてきていた。そのルカが少し目を離した隙に、部屋に置いていた赤い石を口に入れかけていた。レイは驚き、慌ててそれを取り上げた。
間違えて飲んでしまいでもしたら大変なことになる。子どもというのは本当に目が離せない。

ルカの面倒は、いつの間にかレイが見ることになっていた。
他の皆は仕事があるし、今ではルカもレイに懐いている。それに同じ猫族なせいか、行動するペースが似ている。精神年齢が近いせいとはさすがに思いたくないが。

「れーい」

石を取り上げられても気にする様子がなく、ルカの興味はレイのしっぽに移った。

初めは一言も喋らなかったルカだが、今では少しの単語なら言えるようになった。三才にしては言葉が遅い気もするが、襲われたショックが何しらの影響を与えている可能性もある。今は焦らずに見守ろうというのが、皆の一致した意見である。
そしてレイの名前は、ルカが言える数少ない言葉の中の一つだ。
それは単純に嬉しい。

「今日はどうしようか?外はちょっと寒いし、昼寝でもする?」

木枯らしが吹き始めた庭を窓から眺める。
季節が少し過ぎて、噴水の縁にだけ植わっていた赤い花も、その鮮やかな花弁を落としてしまった。そうすると、殺風景な庭園はすでに冬支度が終わった様相になる。

レイは冬が苦手だ。猫族だから、とは思っていなかったのだが、どうやら同じ猫族のルカも寒いのは苦手なようだ。二人していつまでもぐすぐすと布団から出てこないので、エイベルには呆れられている。

やはり今日も屋敷の中で過ごそう。そう思って外を眺めていると、見覚えのあるシルエットが門を抜けてくるのが見えた。まだ遠いが、あの大きくて身軽そうな身のこなしはフェリクスに違いない。
迷いない足取りで屋敷の前までやってきたフェリクスは、正門を避けて裏口の方へ回っていった。

「フェリクス、また来てる」
「ふぇりー!」

レイの呟きを聞いたルカが、目を輝かせた。
頬を引っ張られる変顔が効いたのか、ルカはいたくフェリクスを気に入っている。
フェリクスの姿を見ると突進して行ってしまうので、追う方は大変だ。
というよりも、こんなに好かれているのだから、専門外などといっても面倒くらい見られる気がする。

レイは、ソワソワし始めたルカを連れて、仕方なく裏口へ向かった。




「カイさん、頼みがあるっす」

裏口の手前にある厨房に入ろうとしたところでそう言うフェリクスの声が聞こえてきて、レイはノブに伸ばしかけていた手を止めた。
カイに話しがあって来たのなら、邪魔をしても悪い。
レイはとりあえず、今にも突進して行きそうなルカの体を押さえた。

「オレはオマエの便利屋じゃねーんだぞ」

対するカイの声は呆れたものだった。

「お願いっす。カイさんとオレの仲じゃないっすか」
「どんな仲だっつーんだよ」
「今度カワイイ女の子紹介するっすから!何族の子がいいっすか?」
「だからいらねーって。今のヤツだけで手一杯だっつーの」
「あっ!そうっすよね!痴女の彼女がいたっすもんね!」
「テメー、やっぱ一回裏庭来い」

カイの声が怒気を含んだ。しかしフェリクスはどこ吹く風だ。

「行ったら協力してくれるっすか?」
「ンなこた言ってねーだろ」

「お願いっすお願いっす」と部屋の中から声が聞こえてくる。
どうしようかと思っていると、するりとルカの体が腕の中から抜けてしまった。

「あっ、ルカ」
「ふぇりー!」

バーンと扉を開けて中に入っていくルカを、仕方なく追いかける。
体当たりしていったルカを、フェリクスが抱き留めるのが見えた。渋い顔をしていたカイも、ルカを見ると笑顔になる。

「ルカじゃないっすか!元気そうっすねぇ。姐さんも相変わらずカワイイっす」
「調子いいなぁ」

姐さんと呼ぶことを許した訳ではないけれど、何度言っても聞かないのでもう否定するのにも疲れてしまった。

「聞いてくださいよ姐さん!カイさんがオレのお願い聞いてくれないんす」

眉を下げてフェリクスが訴える。普段はピンと立っている犬耳も先が下がっていて、なんとなく哀れを誘う。

「話だけでも聞いてあげたら?」

カイに言うと、嫌な顔をした。

「あんなぁ、レイ。こいつは見た目以上に強かなんだよ。話なんか聞-たら最後、何が何でも巻き込んでくるに決まってんだから。聞かねーのが一番なんだよ」
「でも・・・」

ちらりとフェリクスを見る。キラキラした目で見返されて、レイはうっと言葉に詰まった。こんな目をされて断るのは、非常に心苦しい。

「でも、話だけなら・・・」

ついそう言ってしまうと、フェリクスが我が意を得たりとばかりに笑顔になる。

そして本当にカイの言った通り、巻き込まれることになってしまったのだった。


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