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狼と犬の接触 3
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がんがんと頭に響く音が断続的に続いている。何の音かと顔をしかめ、カイは重たい頭を上げた。
途端に差し込むような頭痛がし、カイは眉間に皺を寄せた。
「痛ってー」
しばらくそのまま痛みに耐え、ドアを見た。音はそのドアが立てている。
いや、ドアが音を立てるはずがない。
誰かがドアをノックしているのだ。
居留守を使いたいところだが、ドアを叩く者は諦める様子がない。
カイはなり続けるドアを見、時計を見てからため息をついた。
普段起きるはずの時間をかなり過ぎている。いつまで経っても起きてこないカイを、セバスが起こしに来たのだろう。
いくら屋敷の主がいないからといって、怠けていいわけではない。セバスにもサヤにも悪いことをしてしまった。
のろのろと起き上がって、たどり着いたドアを開けた。
「すんません、セバス様。寝過ごしちまって」
「カイ、どうし・・・」
言いかけたセバスが硬直した。
上から下までカイを見回し、それからなぜか部屋の奥を見てから頭を抱えた。
それをなぜかと考える間も惜しく、過ぎてしまった時間を取り戻すためになすべきことを考える。まずは着替えて朝食準備が最優先だ。それにしても頭が痛い。
「ちょっと待っててもらったらすぐ用意するんで」
「いえ、それは。エイベル様もいらっしゃいませんし。ただ・・・」
「なんっすか」
珍しく奥歯にものが挟まったような言い方をするセバスに、カイの中にようやく不信感が沸いた。
なんとなく部屋の中を振り返るのが怖い。怖いが、振り返らなければ話が進まない。
カイは思い切って背後を見、さっそく後悔した。
それと同時に、セバスのため息が聞こえた。
「カイ、うるさく言いたくはありませんが、あまり羽目を外しすぎないようにお願いしますね」
バタン、と廊下側から扉が閉められる。
廊下側からの明かりが途絶えて、部屋の中は少し薄暗くなった。それでも朝日の昇った外は明るく、カーテン越しにもその恩恵が部屋に注いでいるのが分かる。
その温かい日差しを背に、茫洋とした表情でベッドに腰かける男に、カイは足音荒く近づいていった。この間やられたように胸倉を掴んでやりたかったが、あいにくその相手、ヴァイスは裸だった。ちなみに今気づいたが自分も裸だった。
「何やってんだてめぇ!」
「・・・?」
「オレの部屋で何やってんだー!」
「・・・」
「いや、ここで昨日酒飲んだのは覚えてるっつーの!オレが言ってんのは、なんでンな格好でオレのベッドに座ってんだってことだよ!」
「・・・」
そう。確かに昨日、ここでヴァイスと酒を飲んでいた。カイはかなり酒に強い方だ。レイなど比べるべくもないが、酔いつぶれたことなど一度もない。
しかし、一緒に飲み始めたヴァイスもかなり強かった。飲んでも飲んでも表情が変わらず、カイもついムキになって盃を重ねてしまった記憶はある。
カイは頭痛のする頭をぐしゃぐしゃとかき回した。
「レイじゃあるめーし記憶なくすとか!」
それからハッとしてヴァイスを見た。
「つーか、なんで裸なんだよオメェ」
「・・・」
聞かれたヴァイスはため息をついた。
カイは、嫌な汗が流れるのを自覚した。裸なので汗をかいたそばから冷えていく。
「・・・何もなかったよな?」
「・・・・・・・・・」
「いや待て言うな。分かってっから」
ふーっ と心を落ち着かせるために深呼吸する。
危ない危ない。落ち着いて考えたらこいつと何かがあるはずがない。多分暑かったのだろう。酒を飲んで暑くなって脱いでしまったのだ。そうに決まっている。
そうと決まればこんなところでただ顔を突き合わせているなんて不毛すぎる。
「おい、オレは忙しーんだからよぉ、さっさと帰れ。メシの準備しなきゃなんねーし。他にもメシの用意とか、って、どっちもメシのことじゃねーか!」
落ち着いたつもりが全く落ち着いていない。一人で喚くカイを、ヴァイスはベッドに座ったまま黙って見ていた。
そのヴァイスが、ハッと息を吐き出す。驚いて見ると、苦しそうに腹を抱えていた。
しかし様子を見るに、笑っているようだ。声が出ないので笑うのも苦しいのだろう。
「オメェ、笑い声も出せねぇの?徹底してんなー」
呆れたように言う。ヴァイスはひとしきり笑うと疲れたようにカイのベッドに寝転がった。
「おい何してんだ。そこで寝んじゃねーよ」
「・・・」
「つーか、セバスの奴ぜってー変な誤解しやがったな。どーしてくれんだよ」
「・・・」
「何聞こえないふりしてんだテメー。耳は聞こえてんだろーが!」
怒鳴ると、ヴァイスは閉じていた目を開けた。それからしげしげと、裸で激高するカイを眺めた。それからまた、ハッ と息を吐いて笑いだした。
意外とよく笑う奴だ。・・・大分苦しそうだが。
というか、何を和んでいるんだ。こうしている間にも時間は過ぎていく。自分にはやることが山ほどあるのだ。こんなところで遊んでいる暇はない。
カイは自分のベッドを占領する犬の獣人の背中を蹴った。
「いつまで笑ってんだテメーは!爺さんトコにさっさと帰れ!奴隷の癖に朝帰りしてんじゃねー!」
やっぱり調子の狂う奴だ。
カイはヴァイスを酒に誘ったことを今頃になって後悔した。
途端に差し込むような頭痛がし、カイは眉間に皺を寄せた。
「痛ってー」
しばらくそのまま痛みに耐え、ドアを見た。音はそのドアが立てている。
いや、ドアが音を立てるはずがない。
誰かがドアをノックしているのだ。
居留守を使いたいところだが、ドアを叩く者は諦める様子がない。
カイはなり続けるドアを見、時計を見てからため息をついた。
普段起きるはずの時間をかなり過ぎている。いつまで経っても起きてこないカイを、セバスが起こしに来たのだろう。
いくら屋敷の主がいないからといって、怠けていいわけではない。セバスにもサヤにも悪いことをしてしまった。
のろのろと起き上がって、たどり着いたドアを開けた。
「すんません、セバス様。寝過ごしちまって」
「カイ、どうし・・・」
言いかけたセバスが硬直した。
上から下までカイを見回し、それからなぜか部屋の奥を見てから頭を抱えた。
それをなぜかと考える間も惜しく、過ぎてしまった時間を取り戻すためになすべきことを考える。まずは着替えて朝食準備が最優先だ。それにしても頭が痛い。
「ちょっと待っててもらったらすぐ用意するんで」
「いえ、それは。エイベル様もいらっしゃいませんし。ただ・・・」
「なんっすか」
珍しく奥歯にものが挟まったような言い方をするセバスに、カイの中にようやく不信感が沸いた。
なんとなく部屋の中を振り返るのが怖い。怖いが、振り返らなければ話が進まない。
カイは思い切って背後を見、さっそく後悔した。
それと同時に、セバスのため息が聞こえた。
「カイ、うるさく言いたくはありませんが、あまり羽目を外しすぎないようにお願いしますね」
バタン、と廊下側から扉が閉められる。
廊下側からの明かりが途絶えて、部屋の中は少し薄暗くなった。それでも朝日の昇った外は明るく、カーテン越しにもその恩恵が部屋に注いでいるのが分かる。
その温かい日差しを背に、茫洋とした表情でベッドに腰かける男に、カイは足音荒く近づいていった。この間やられたように胸倉を掴んでやりたかったが、あいにくその相手、ヴァイスは裸だった。ちなみに今気づいたが自分も裸だった。
「何やってんだてめぇ!」
「・・・?」
「オレの部屋で何やってんだー!」
「・・・」
「いや、ここで昨日酒飲んだのは覚えてるっつーの!オレが言ってんのは、なんでンな格好でオレのベッドに座ってんだってことだよ!」
「・・・」
そう。確かに昨日、ここでヴァイスと酒を飲んでいた。カイはかなり酒に強い方だ。レイなど比べるべくもないが、酔いつぶれたことなど一度もない。
しかし、一緒に飲み始めたヴァイスもかなり強かった。飲んでも飲んでも表情が変わらず、カイもついムキになって盃を重ねてしまった記憶はある。
カイは頭痛のする頭をぐしゃぐしゃとかき回した。
「レイじゃあるめーし記憶なくすとか!」
それからハッとしてヴァイスを見た。
「つーか、なんで裸なんだよオメェ」
「・・・」
聞かれたヴァイスはため息をついた。
カイは、嫌な汗が流れるのを自覚した。裸なので汗をかいたそばから冷えていく。
「・・・何もなかったよな?」
「・・・・・・・・・」
「いや待て言うな。分かってっから」
ふーっ と心を落ち着かせるために深呼吸する。
危ない危ない。落ち着いて考えたらこいつと何かがあるはずがない。多分暑かったのだろう。酒を飲んで暑くなって脱いでしまったのだ。そうに決まっている。
そうと決まればこんなところでただ顔を突き合わせているなんて不毛すぎる。
「おい、オレは忙しーんだからよぉ、さっさと帰れ。メシの準備しなきゃなんねーし。他にもメシの用意とか、って、どっちもメシのことじゃねーか!」
落ち着いたつもりが全く落ち着いていない。一人で喚くカイを、ヴァイスはベッドに座ったまま黙って見ていた。
そのヴァイスが、ハッと息を吐き出す。驚いて見ると、苦しそうに腹を抱えていた。
しかし様子を見るに、笑っているようだ。声が出ないので笑うのも苦しいのだろう。
「オメェ、笑い声も出せねぇの?徹底してんなー」
呆れたように言う。ヴァイスはひとしきり笑うと疲れたようにカイのベッドに寝転がった。
「おい何してんだ。そこで寝んじゃねーよ」
「・・・」
「つーか、セバスの奴ぜってー変な誤解しやがったな。どーしてくれんだよ」
「・・・」
「何聞こえないふりしてんだテメー。耳は聞こえてんだろーが!」
怒鳴ると、ヴァイスは閉じていた目を開けた。それからしげしげと、裸で激高するカイを眺めた。それからまた、ハッ と息を吐いて笑いだした。
意外とよく笑う奴だ。・・・大分苦しそうだが。
というか、何を和んでいるんだ。こうしている間にも時間は過ぎていく。自分にはやることが山ほどあるのだ。こんなところで遊んでいる暇はない。
カイは自分のベッドを占領する犬の獣人の背中を蹴った。
「いつまで笑ってんだテメーは!爺さんトコにさっさと帰れ!奴隷の癖に朝帰りしてんじゃねー!」
やっぱり調子の狂う奴だ。
カイはヴァイスを酒に誘ったことを今頃になって後悔した。
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