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レイ 11
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「げほっ!げほっ!」
喉に食い込むローブの紐と、路地裏のよどんだ空気に肺が悲鳴を上げた。
生理的な涙で視界が霞む。しかし自分を路地裏に引っ張り込んだ人物を早急に確認しなければならない。そう思い、咳き込みながらも顔を上げる。
その顔を見上げて、レイは息を飲んだ。
「よう。似た匂いがすると思ったらやっぱりそうだ。お前生きてたのか。とっくに死んだかと思ってたぜ」
「なんであんたが?」
レイは呆然と呟き、もう見ることもないと思っていた男の顔をしげしげと眺めた。
目の前にいたのは、奴隷商人のムルの元でレイと喧嘩し、炭鉱送りになったはずの犬の獣人だった。
「まだ名乗ってなかったよな。俺はヴァイス。お前は?」
「レイだけど・・・」
なぜこんなところにいるのか。訝しく思いつつも名乗ると、ヴァイスは急に眉間に皺を寄せ、路地から表の喧騒に目をやった。
「ここはまずい。一端離れるぞ」
言いながら、レイの手を引こうとする。レイは慌てて、引っ張られて踏み出しそうになった足を踏ん張ってこらえた。
「ちょっ、行くってどこに!?」
「大丈夫。向こうに仲間たちがいるから」
「大丈夫って何が!?」
随分力が強い。引く力に負けてじりじりと路地の奥へ連れ込まれる。路地の入口はすでに遠く、助けを叫んでも届きそうにない。
その時路地の奥から、数人の足音が聞こえてきた。
「ヴァイス!遅いぞ!」
「すまん!こいつも頼む!」
ヴァイスはレイの手を引いたまま、男たちに話しかけている。どうやら仲間とやらが来てしまったらしい。これはますますまずいと、レイは滅茶苦茶に手を振り回して暴れた。
「わっ!暴れるなって!」
「離せって!行かないって言ってるだろ!」
「アーティさん!お願いします!」
「いや、しかし、すごく嫌がってないか?」
「きっと悪魔に洗脳されてるんですよ!こいつはあの、赤い目の悪魔に売られちまったんだ!」
「何!?」
ヴァイスのその言葉に、男たちが色めき立った。
レイには意味が分からなかったが、ただただまずいことが起こりそうなことは分かった。
「分かった。少しがまんしてくれ」
アーティと呼ばれた男がレイの前に歩み出る。
レイは男を睨んだが、すぐに異変に気付いた。振り回していたはずの自分の腕に力が入らない。
「これは傀儡の魔法なんだ。体が動かないだろう?」
ヴァイスがレイから手を離す。でももう、レイには暴れることも逃げることも出来なかった。
アーティの目が、心の奥底に落ちてきて、レイの体を支配している。
「おいで、こっちだ」
いざなう声だけが聞こえる。それ以外は何も聞こえない。
レイはアーティに言われるまま、ふらふらと路地裏の奥へ足を進めた。
喉に食い込むローブの紐と、路地裏のよどんだ空気に肺が悲鳴を上げた。
生理的な涙で視界が霞む。しかし自分を路地裏に引っ張り込んだ人物を早急に確認しなければならない。そう思い、咳き込みながらも顔を上げる。
その顔を見上げて、レイは息を飲んだ。
「よう。似た匂いがすると思ったらやっぱりそうだ。お前生きてたのか。とっくに死んだかと思ってたぜ」
「なんであんたが?」
レイは呆然と呟き、もう見ることもないと思っていた男の顔をしげしげと眺めた。
目の前にいたのは、奴隷商人のムルの元でレイと喧嘩し、炭鉱送りになったはずの犬の獣人だった。
「まだ名乗ってなかったよな。俺はヴァイス。お前は?」
「レイだけど・・・」
なぜこんなところにいるのか。訝しく思いつつも名乗ると、ヴァイスは急に眉間に皺を寄せ、路地から表の喧騒に目をやった。
「ここはまずい。一端離れるぞ」
言いながら、レイの手を引こうとする。レイは慌てて、引っ張られて踏み出しそうになった足を踏ん張ってこらえた。
「ちょっ、行くってどこに!?」
「大丈夫。向こうに仲間たちがいるから」
「大丈夫って何が!?」
随分力が強い。引く力に負けてじりじりと路地の奥へ連れ込まれる。路地の入口はすでに遠く、助けを叫んでも届きそうにない。
その時路地の奥から、数人の足音が聞こえてきた。
「ヴァイス!遅いぞ!」
「すまん!こいつも頼む!」
ヴァイスはレイの手を引いたまま、男たちに話しかけている。どうやら仲間とやらが来てしまったらしい。これはますますまずいと、レイは滅茶苦茶に手を振り回して暴れた。
「わっ!暴れるなって!」
「離せって!行かないって言ってるだろ!」
「アーティさん!お願いします!」
「いや、しかし、すごく嫌がってないか?」
「きっと悪魔に洗脳されてるんですよ!こいつはあの、赤い目の悪魔に売られちまったんだ!」
「何!?」
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「分かった。少しがまんしてくれ」
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「おいで、こっちだ」
いざなう声だけが聞こえる。それ以外は何も聞こえない。
レイはアーティに言われるまま、ふらふらと路地裏の奥へ足を進めた。
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