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外伝  章努の話 

神聖帝国ロンドロッグ 

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 召喚の儀を執り行う1ヶ月程前まで時は戻る。

「オイヴィ、貴女が所属している隊の分団長と隊長を呼んできてくれないかしら。」
「皇女様、少々お待ち下さい。」
「ごめんねオイヴィ。貴女にこんな雑用を押し付けてしまって。」
「いえ、お気になさらず。魔王の脅威もある事ですし、こうして皇女様と接する事は我が幸せで御座いますから。」

 オイヴィ・ラハテラ
 神聖騎士団の一員。ぱっと見は小柄な上に細身なので、騎士の鎧を身に纏っていなければそうとは見えない。
 今日も軽装なので、単なる侍女にしか見えない。
 その顔を見るまでは。

 オイヴィはピートロネラ皇女に頼まれ、部屋を出ていく。
 暫くして皇女が希望する2人がやってきた。

「皇女様、私共をお呼びとか。」

「クサンデル・ピーテルスにヨランデ・ピーテルス、お願いがあります。」
 ピートロネラ皇女はやってきた2人の神聖騎士に声を掛ける。
 神聖騎士団は500名からなる陣容で、各団は100名ずつの隊を作り、そしてその隊も4つに分かれ、25人編成。ここにいる1人は神聖騎士団の隊長。もう1人は隊長の妹にして分隊長。つまり100名十25名を指揮する立場の人物。
 因みに神聖騎士の長は団長と呼ばれているが、実際は名ばかりである。

「いよいよ勇者の召喚を執り行うのですか?」
 クサンデルである。色々問題のある人物ではあるが、皇族の前ではそんな素振りは微塵も見せない。
「皇女様どうしちゃったのお?オイヴィから聞いていたけれど。」
 一方の妹、ヨランデは相手が皇女であろうと公式の場以外では常にフレンドリー。
 そして2人を呼びに行ったオイヴィはピートロネラ皇女お気に入りの神聖騎士団の隊員で、ここにいる2人はオイヴィの上司である。
 因みにオイヴィであるが、彼女は恐ろしいほど真面目な性格なので、ピートロネラ皇女から声を掛けてもらえても、それはあくまで神聖騎士としての立場だと思い込んでおり、自身を特別扱いしていない。
 なので皇女お気に入りだとは全く気付いていなかったりする。

「皇帝陛下からの情報ですが、恐らく1ヶ月以内に魔王の軍勢が我がロンドロッグまで到達する見込みのようです。」
「いよいよですか。ですが未だ勇者は見つかっていないのでしょう?」
「そうなのです。既にグビッシュ王国へは私の召喚が失敗した、若しくは間に合わなかった時の事を考慮し、勇者召喚の準備をして頂く手配となっております。ただ2人には別の国へ使節団として勇者召喚に関する情報を伝えに向かってほしいのです。」
 皇女は手紙を2人へ託す。
「2ヶ月ほどかかる道程だと思います。2ヶ月後には私が執り行う召喚に関する結果は既に出ていると思うのですが、失敗する可能性がありますから今からでも促さねばなりません。残念ながら父上である皇帝陛下は姉上に夢中です。他の事は後回し。これでは魔王の脅威を前になす術もありません。ですからこうして私だけでも前もって対策を打ち出す必要があります。」
「流石は皇女様!しかも勇者召喚って、呼び出した勇者と皇女様はエッチするんでしょ!いい男だったらいいのに!」
「こらヨサンデ。いくらなんでも言い過ぎだ。しかし皇女様、未だ呼びかけ応じて下さる勇者が現れないとか。」
「ええ、そうなんですクサンデル。もう少し違う方法を模索する必要がありますが、魔力は有限ですから。」
「まあ皇女様の頼まれごとですから向かいますけれど、もし召喚が間に合わず、魔王の襲撃の方が早かった場合、私共2人がいないと防ぐ事は難しいと思いますがどうなのですか?」
「貴方達2人は神聖騎士団随一の実力者というのは知っていますが、姉の影響を受けていない神聖騎士団はほんの僅かしかいないので、致し方ありません。」
「分かりました。ただそうなるとオイヴィには一時的にヨサンデの抜けた穴を埋めてもらう必要がありますから、頻繁にオイヴィを呼び寄せる事も出来なくなりますが宜しいのですか?」
「それは仕方がありません。これは国が亡ぶかどうかの大事な事柄ですから、公私の区別はつけませんと。」
「まあオイヴィちゃんって皇女様にこまで気にいられて幸せ者ねえ!それよりもペトロネラ皇女よ!何あの我が儘姫は!」
「ヨサンデ、言いたい事は分かりますが、姉の悪口を公の場で言ってはなりませんよ。どうした訳か父上は姉を大層お気に入りですから、下手をすれば貴女といえども打ち首ですからね。」
「わかったわあ。」
「では2人共お願いします。表向きは近いうちに出立する使節団の随員として同行してもらう事になります。」

 こうしてロンドロッグを離れる事になった2人だが、2人が任務を全うした時、既にロンドロッグは滅んでいた。
 冒頭にも述べたが、ロンドロッグが魔王の襲撃を受ける1ヶ月程前の話である。
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