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第四章

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「お兄様。こちらにいらっしゃると聞いたのですが少しよろしいですか?」
「ユーリアか。どうした?」
「お父様がお呼びです。確認したいことがあるとのことで至急来て欲しいと」
「そうか。わかった、すぐに行く。……ということで、すまないなラルフ。邪魔をした」
「いえ、俺のほうこそ生意気言ってすみませんでした」
「それは気にしないといっただろう。あと口調」
「はい?」
「敬語じゃなくていい。名前もジェライルとだけで呼んでくれ」
「ええっ!?いや、ですが……!」
「王子である俺が良いと言っているんだが?何か不満でも?」

うおおっ、笑顔の圧がやばいっ!

綺麗な顔でにっこりと笑ってそう言われてしまえば、逆らえるはずもなく。

「わ、分かりました……じゃなくて、分かった」
「上出来だ。ではまた後でな」

仕方なく敬語を外した俺の言葉に満足げな笑顔で一度頷くと、扉を開けて部屋から出て行った。それと交代にユーリア王女が中へと入って来る。

「ラルフ様、起きていましたのね。ご気分はいかがですか?」
「あ、はい、もう大丈夫です。ご心配をおかけしてしまいすみませんでした」
「そんなこと気になさらなくてもいいのですよ。ラルフ様に何事もなくて良かったですわ」
「有り難うございます。なんですが、ユーリア王女。俺に様はいりませんよ。俺はただの修道士ですから」
「あらそんな。私の命の恩人に様付け無しなんて失礼なことできませんわ」
「いや、ですが」
「大丈夫。誰も文句なんて言いませんわ。ね?」

だから、笑顔の圧が凄いんだってば!

兄弟揃って綺麗な笑顔で圧力をかけてくるのは本当にやめて欲しい。断るに断れない雰囲気になるんだからなと思いつつ俺は渋々頷いた。

「分かりました」
「良かったわ。ところでお兄様とは何をなしておられたの?」
「え!?あ、ええと、それは、その……」

流石にユーリア王女にさっきの話をするわけにもいかず、俺は言葉に困ってしまう。きっとあれはユーリア王女には知られてはならない内容だったから。なんと伝えるべきかと戸惑うように視線を彷徨わせる俺を見て、ユーリア王女は何かを悟ったかの様に楽しげな笑みを浮かべた。

「あら。まあまあまあ、そういうことでしたのね!」
「はい?」

そういうことって、どういうことだろうか?

急に納得したようにそう言われたことの意味が分からずに首を傾げる俺の前で、ユーリア様はまた何処かうっとりとした笑みを浮かべた。

「私お兄様も参戦して下さらないかしらと思っておりましたのよ。やはりお兄様も満更ではないのですわね」
「え、ええと?参戦?満更って?」
「え?お兄様に妃にと望まれたのではないの?」
「ぶふっ!?」

その言葉に俺は思わず、突っ込みそうになる言葉を抑えて逆に咽こんでしまった。

「な、ななななななっ!?なんでそうなるんですか!?」
「あら、違ったのかしら?」
「全然違いますよっ!どこからそんな話になったんです!?」
「いいにくそうにしているから、そういうことなのかと」
「そういうこともこういうこともありませんからね!ただアリアナのことを話していただけです!ジェライル王子にも思うところがおありのようでしたから」

やはりすべてを話すわけにもいかないので、それだけ告げると、ユーリア王女は微かに表情を曇らせた。

「そう、でしたのね……。あのあと私が落ち込んでしまっていたので、それをずっと励ましてくださっていた時は平気そうにしていましたけれど。やはりお兄様にとっても平気なことではなかったのですわね。お兄様はいつも私には何も相談して下さらないから……」
「ユーリア王女……」
「ですからやはり良かったですわ。お兄様にも漸く自分の胸の内を話せる相手が出来たのですから」
「あ、あはは。俺は話を聞いていただけでしたけれどね」

曇らせていた表情を明るく変えて、嬉しげに放つユーリア王女を直視できなくて視線を逸らしながら答える。まさか馬鹿正直に胸倉掴んで怒鳴り付けましたとは言えるわけもないから。

「それでもいいのです。お兄様はいつも誰かに頼るということをしない方ですもの。でも、会ったばかりの貴方にそういう話をするということは、お兄様は相当ラルフ様のことを気に入られているのでしょうね」
「そう、なのでしょうか?」
「これはやはり、未来の王妃に……」
「だからそっちに走らないでくださいってば!」
「うふふっ、まあそうよね。貴方にはサウリル王子がいらっしゃるものね?それともグレイシス王子かしら?」
「どっちも違います!」
「本当かしら?では、お兄様とサウリル王子とグレイシス王子の三人なら、どなたが一番好みなの?」

何なんだよ、その質問は!?
好みって別に誰も好みではないですけど!?

いやまあでも顔の好みなら決まってるけど。

「あのですね。俺は修道士ですし、恋愛は厳禁ですから。好みとかそういうふうには見ていません」
「あらそうなの?」
「そうなんです。まあ外見だけの好みというのであれば決まっていますが」
「まあ、そうなの!それだけでも知りたいわ!」
「グレイシス王子です」
「即答ですのね。確かにとてもお素敵ですけれど」
「俺は王子のあの髪の色と瞳の色がとても好きなんですよ」
「ということはアルムレディン様も好みということになるのかしら?」
「はい、そうですね。外見の好みですから」

中身はと言われたら即答できるわけもないんだけれどな。大体俺はグレイシス王子以外、他二人の中身をよく知らないわけだし。第一俺はもう恋愛事には関わらないって決めてるんだからな。それはまあ、告白された時は俺自身を望んでもらえて嬉しくはあったけれど。だからと言って、サウリル王子のことを同じ様に好きになれるかと言われるとそれは流石に違うだろうと。

まあだからって未だに完全に想いを消化できていない俺も未練がましくてどうなんだという話なんだけれどな。

「……そういえば、ちゃんと話したいって言ってたな……」
「え?何か言いました?」

無意識にそう呟いた言葉を拾われて、俺は思わず笑顔で何でもないと首を横に振ったのだった。
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