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第三章
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「ラルフ!しっかりして!」
「ラルフ兄様!!」
「え?あれ?ここ、は?」
気が付いた時にはアリアナの姿はなくて、俺がいた場所も暗闇の底ではなくて先程までいた丘の上で。俺の目の前には泣きそうな表情で俺の両手を握り締めているクリスと心配そうに俺を覗き込んでいるルイスの姿があって、その背後にはファルやセレーヌ様達を始め、この場にいた全員が俺の様子を心配そうに見守っていた。
「ラルフ兄様!気が付いたんですか!?僕が分かりますか!?」
「え?あ、ああ。勿論わかるけど、ルイスだろ。それにクリスも」
俺の言葉にクリスとルイスはほっと安堵した表情にその場にぺたりと座り込んだ。
「はーっ、よかったー。ラルフが戻ってきてくれて!」
「え?どういうことだ?俺に一体何が?」
「それはこっちが聞きたいよ!ラルフってば、あの天使の銅像と目が合ってから急に様子がおかしくなっちゃって。声かけても全然反応してくれないしさ、焦ったよ」
「まじか。なんかあの銅像と目が合って言葉を聞いた瞬間、意識が真っ暗な空間の中に落とされてたんだよ。って、そういえばあの天使の銅像は?」
「それが、ラルフが可笑しくなってから少しして急に苦しみだして、どこかに飛んで行っちゃったんだ」
クリスの説明に俺はなるほどと納得して頷いた。恐らく、その時にアリアナが正気の状態で抵抗していたんだろうと。俺をあの暗闇の底から救い出してくれるほどの力を持っていたアリアナならそれも可能なように思えたから。
「なら彼女が、アリアナが助けてくれたんだな」
「アリアナ?アリアナって、あの声の持ち主でしょ?それがどうして助けてくれたりするのさ?」
不思議そうなクリスの言葉に、俺は先程のことを皆に伝えた。暗闇のそこまで意識が落ちて行き、そこに閉じ込められそうになった時に助けてくれたのが本当の姿のアリアナなのだと。本当のアリアナは美しく清らかで俺の闇の底から引きあげてくれたこと。そして、俺を巻き込んでしまったことを謝ってくれて、終わりは自分で見替えなければならないと言って消えたことも全て話すと、セレーヌ様は苦しそうな複雑な表情に小さく零したのだった。
「やはり私達はとてつもない罪を犯してしまったのですね」
「大神官様。俺と話したアリアナからは全く悪い気を感じなかった。彼女が自ら望んでこんな状態を招く人物だとは俺にはとても思えないんです。教えてください。一体彼女の過去になにがあったんですか。三代前の国王と王妃と彼女の間に一体何が?」
俺の言葉に、セレーヌ様は目を閉じて少しの間何かを考えこんでいた様子を見せたものの、ゆっくりと目を開けると決意したように頷いてくれたのだった。
「……分かりました。全てお話ししましょう。ですが、場所は此処では少し、もう少し安全な場所で話すのでいいでしょう。ラルフの体調も心配ですしね」
「ならば我が王城に招待しよう。そこならば流石にあの天使像も容易には襲っては来れないだろう」
ジェライル王子の提案に、セレーヌ様もそれならばと頷いた。確かにここで話してまた天使像が攻撃して来ても厄介だしなと納得しつつ、俺は立ち上がろうとしたけれど。
「あ、あれ……?」
膝が地面に吸い付いたように力が抜けて立ち上がれなくなっていた。その様子にいち早く気が付いてルイスが気づかわしげに声をかけてきた。
「ラルフ兄様、どうしたんですか?」
「い、いや、なんか足の力が出なくて……」
「ああ、それは無理もないですよ。彼らから聞きました。体調が悪いのに無理に飛び出してきたのでしょう?……僕が肩を貸しますから、立てますか?」
「あ、ああ。有り難う、助かる。……って、そういえばルイス。お前までなんでこんなところにいるんだよ?」
そこで漸くルイスがこの場にいる違和感を思い出し、俺は肩を借りながらも怪訝に思って問いかけた。けれど、何だろう。不思議とこうして会話していても、以前ほどルイスに対しての劣等感や罪悪感は感じられなくなっていて、自然の言葉が口に出ていた。やはり修道院での生活は、確かに俺の心の醜さを消してくれていたのかもしれない。グレイシス王子とは、やはり微妙に距離感を感じてはしまうけれど、ルイスとはこうして話す事ぐらいは平気になったのかと思えばやはり少し嬉しく感じられた。
「ラルフ兄様がいなくなってから必死に探してたんです。そして、とある知り合いからラルフ兄様に似た修道士をどこかで見たという噂を耳にして、それでフランハルトで近々各国の修道士達が集まる祭りがおこなわれるからという話を知ってラルフ兄様のことを知っている修道士に会えるかもと思ったので、父上の知り合いに頼んで招待してもらったんですよ」
「そ、そうなのか。じゃあ、本当にグレイシス王子と一緒に見に来たわけじゃないんだな……?」
「はあ?当然じゃないですか!言っておきますが、婚約だって結んでませんからね。お互いに拒否し続けているので父上達もとりあえず延期というか保留という形で落ち着いてますが」
「そう、なのか」
グレイシス王子の言っていたことは嘘じゃなかったんだ。本当にルイスと一緒に聖歌祭を見に来たわけじゃなかった。そうか、そうだったんだな。そう実感して俺はほっと安堵の息をついた、次の瞬間はっと我に返る。俺は何を安心してるんだよ。別にグレイシス王子とルイスが一緒に見に来ていようと俺には関係ないことだし、むしろ祝福しなくてはいけないことだったのに。なんでこんなことで嬉しいと感じてしまうのか。俺とグレイシス王子とはもう何の関係もないのに。
いや、これはあれだ。
うん、きっとそうだ。
まだ笑顔でおめでとうっていう自信がなかったから。
今はまだ言わずにすんだことが嬉しいだけだ。
絶対にそうだ、うん。なんて自分に必死に言い聞かせていた俺は、そんな俺の様子を見ていたルイスが複雑そうな表情で溜息をつき。
「……本当になんだってそんなにあの馬鹿王子が良いのかなあ。僕の方が絶対に幸せに出来るのに」
と呟いたことに気が付いていなかったのだけれど。
「ラルフ兄様!!」
「え?あれ?ここ、は?」
気が付いた時にはアリアナの姿はなくて、俺がいた場所も暗闇の底ではなくて先程までいた丘の上で。俺の目の前には泣きそうな表情で俺の両手を握り締めているクリスと心配そうに俺を覗き込んでいるルイスの姿があって、その背後にはファルやセレーヌ様達を始め、この場にいた全員が俺の様子を心配そうに見守っていた。
「ラルフ兄様!気が付いたんですか!?僕が分かりますか!?」
「え?あ、ああ。勿論わかるけど、ルイスだろ。それにクリスも」
俺の言葉にクリスとルイスはほっと安堵した表情にその場にぺたりと座り込んだ。
「はーっ、よかったー。ラルフが戻ってきてくれて!」
「え?どういうことだ?俺に一体何が?」
「それはこっちが聞きたいよ!ラルフってば、あの天使の銅像と目が合ってから急に様子がおかしくなっちゃって。声かけても全然反応してくれないしさ、焦ったよ」
「まじか。なんかあの銅像と目が合って言葉を聞いた瞬間、意識が真っ暗な空間の中に落とされてたんだよ。って、そういえばあの天使の銅像は?」
「それが、ラルフが可笑しくなってから少しして急に苦しみだして、どこかに飛んで行っちゃったんだ」
クリスの説明に俺はなるほどと納得して頷いた。恐らく、その時にアリアナが正気の状態で抵抗していたんだろうと。俺をあの暗闇の底から救い出してくれるほどの力を持っていたアリアナならそれも可能なように思えたから。
「なら彼女が、アリアナが助けてくれたんだな」
「アリアナ?アリアナって、あの声の持ち主でしょ?それがどうして助けてくれたりするのさ?」
不思議そうなクリスの言葉に、俺は先程のことを皆に伝えた。暗闇のそこまで意識が落ちて行き、そこに閉じ込められそうになった時に助けてくれたのが本当の姿のアリアナなのだと。本当のアリアナは美しく清らかで俺の闇の底から引きあげてくれたこと。そして、俺を巻き込んでしまったことを謝ってくれて、終わりは自分で見替えなければならないと言って消えたことも全て話すと、セレーヌ様は苦しそうな複雑な表情に小さく零したのだった。
「やはり私達はとてつもない罪を犯してしまったのですね」
「大神官様。俺と話したアリアナからは全く悪い気を感じなかった。彼女が自ら望んでこんな状態を招く人物だとは俺にはとても思えないんです。教えてください。一体彼女の過去になにがあったんですか。三代前の国王と王妃と彼女の間に一体何が?」
俺の言葉に、セレーヌ様は目を閉じて少しの間何かを考えこんでいた様子を見せたものの、ゆっくりと目を開けると決意したように頷いてくれたのだった。
「……分かりました。全てお話ししましょう。ですが、場所は此処では少し、もう少し安全な場所で話すのでいいでしょう。ラルフの体調も心配ですしね」
「ならば我が王城に招待しよう。そこならば流石にあの天使像も容易には襲っては来れないだろう」
ジェライル王子の提案に、セレーヌ様もそれならばと頷いた。確かにここで話してまた天使像が攻撃して来ても厄介だしなと納得しつつ、俺は立ち上がろうとしたけれど。
「あ、あれ……?」
膝が地面に吸い付いたように力が抜けて立ち上がれなくなっていた。その様子にいち早く気が付いてルイスが気づかわしげに声をかけてきた。
「ラルフ兄様、どうしたんですか?」
「い、いや、なんか足の力が出なくて……」
「ああ、それは無理もないですよ。彼らから聞きました。体調が悪いのに無理に飛び出してきたのでしょう?……僕が肩を貸しますから、立てますか?」
「あ、ああ。有り難う、助かる。……って、そういえばルイス。お前までなんでこんなところにいるんだよ?」
そこで漸くルイスがこの場にいる違和感を思い出し、俺は肩を借りながらも怪訝に思って問いかけた。けれど、何だろう。不思議とこうして会話していても、以前ほどルイスに対しての劣等感や罪悪感は感じられなくなっていて、自然の言葉が口に出ていた。やはり修道院での生活は、確かに俺の心の醜さを消してくれていたのかもしれない。グレイシス王子とは、やはり微妙に距離感を感じてはしまうけれど、ルイスとはこうして話す事ぐらいは平気になったのかと思えばやはり少し嬉しく感じられた。
「ラルフ兄様がいなくなってから必死に探してたんです。そして、とある知り合いからラルフ兄様に似た修道士をどこかで見たという噂を耳にして、それでフランハルトで近々各国の修道士達が集まる祭りがおこなわれるからという話を知ってラルフ兄様のことを知っている修道士に会えるかもと思ったので、父上の知り合いに頼んで招待してもらったんですよ」
「そ、そうなのか。じゃあ、本当にグレイシス王子と一緒に見に来たわけじゃないんだな……?」
「はあ?当然じゃないですか!言っておきますが、婚約だって結んでませんからね。お互いに拒否し続けているので父上達もとりあえず延期というか保留という形で落ち着いてますが」
「そう、なのか」
グレイシス王子の言っていたことは嘘じゃなかったんだ。本当にルイスと一緒に聖歌祭を見に来たわけじゃなかった。そうか、そうだったんだな。そう実感して俺はほっと安堵の息をついた、次の瞬間はっと我に返る。俺は何を安心してるんだよ。別にグレイシス王子とルイスが一緒に見に来ていようと俺には関係ないことだし、むしろ祝福しなくてはいけないことだったのに。なんでこんなことで嬉しいと感じてしまうのか。俺とグレイシス王子とはもう何の関係もないのに。
いや、これはあれだ。
うん、きっとそうだ。
まだ笑顔でおめでとうっていう自信がなかったから。
今はまだ言わずにすんだことが嬉しいだけだ。
絶対にそうだ、うん。なんて自分に必死に言い聞かせていた俺は、そんな俺の様子を見ていたルイスが複雑そうな表情で溜息をつき。
「……本当になんだってそんなにあの馬鹿王子が良いのかなあ。僕の方が絶対に幸せに出来るのに」
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