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第三章

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「あいつはさっきのやつか。一体あいつはなんなんだ。何故銅像が自分で動いて?」
「いや、それが俺にもよく分かっていなくて。ただ、あれを動かしているのは生きている存在じゃないことと、ユーリア王女達の命を狙っているっていうことだけで」
「わ、私達の!?」

俺の説明にユーリア王女は驚いた声をあげる。それは確かにそうだよな。ユーリア王女には命を狙われる覚えなんてないだろうし。恐らく原因はユーリア王女達に瓜二つだと言われている三代前に国王と王妃にあるのだろうから。

「俺にもちゃんとした理由はまだ分かっていないのですが、とりあえずあいつには生身では太刀打ちできないという事だけは分かってます」
「なら面倒だが逃げるしかないのか。齧れば砕けそうだけどなあれ」
「お腹壊しますよ!?」

サラリととんでもないことを言うサウリル王子に思わずツッコミを入れたその時だった。

「ラルフ!!」
「ラルフ兄様!!」
「ユーリア、無事か!?」

クリスやファル達、それにジェライル王子に俺がまだ会いたくなかった二人目であるルイスまでがその場に駆け付けたのは。

やっぱりルイス!!
というか、やっぱりルイスと一緒だったんじゃないか!

思わずグレイシス王子の方へと視線を向ければ苦笑と共に首を振られる。

「問いたいことはなんとなくわかるが誤解だ。俺とルイスとは本当にたまたまあの場で居合わせただけだからな」

なんて答えが返ってきたけれど、怪しいところだよな。ルイス一人で何しにここに来たのか理由もわからないし。ルイス自身に学院時代にフランハルトの貴族や王族と繋がりが出来てた可能性が絶対にないわけじゃないから、絶対に嘘だとは言わないけれど。それに今はそんなことを追及している場合でもないので後で話を聞かせてもらうとして。とりあえず今はあの声の主が操っている銅像を何とかするのが先決だ。とうの天使の銅像はというと。

「お兄様!!」
「大丈夫か?ユーリア!どこか怪我などは?」
「いいえ、私は大丈夫ですわ。ラルフ様やサウリル王子に助けていただきましたから」
「そうか。なら良かった。お前に何かあったらと思う時が気ではなかったからな」
「ジェライル兄様。有り難うございます。でも、その台詞は出来ればラルフ様にいってほし……」
「え?」
「な、何でもありませんわ!おほほほほっ」

なんて仲睦まじく会話しているジェライル王子とユーリア王女の方へと視線を固定させ、憎悪に満ちた怒りの表情を浮かべていた。その様子に、やはりあの声の主の狙いはジェライル王子とユーリア王女、というよりは二人に似た三代前の国王と王妃なのだろうと俺の中でほぼ確信していた。それを肯定するかのように再び脳内に聞こえてきたのはあの声であり。

「許さない、許せない、許さない、許さない許さない許さない許さない!!私を騙し裏切ったあの二人を!絶対に許さない!!」

憎悪だけに満ちた声が聞こえたかと思えば天使の銅像は剣を構えた態勢で、完全に二人に狙いを定めて急降下していった。

「ジェライル王子!!ユーリア王女!!逃げろ!!」

俺の位置からでは駆け付けても間に合わず、大声で叫ぶものの二人が天使の銅像に気が付いた時には既にすぐ側まで天使が襲ってきており、もう駄目だと俺が思った瞬間だった。ジェライル王子達の前に光の障壁が発生し、天使の攻撃を跳ね返したのは。

「え!?」
「これは……!?」
「ふう、何とか間に合いましたね」

気がつけばジェライル王子達の側にはセレーヌ様が立っており、小さく安堵の息をついて天使の銅像の方へと視線を向ける。

「大神官様!」
「お久しぶり、というべきでしょうか。まさかこんな形で再会することになるとは思いませんでしたがね。貴方の恨む気持ちもわからないではないのですが、向ける矛先が見当違いですよ。アリアナ。あの二人はもうこの世に生きてはいない。彼らは全くの無関係な人達なのですから」

アリアナ?
一体セレーヌ様は誰のことを言ってるんだ?

というか、言葉からしてあの声の主のことを知っているような口調ではあるけれど。あの声の主と知り合いということなんだろうか。けど待てよ。だとしたら、俺の予想が正しければあの声の主は三代前の国王と王妃の時代に生きていた人間であって、だとしたらこの時代の人間と知り合いのセレーヌ様は。

……え?あの人年齢何歳なんだ?

なんて場違いな疑問が俺の中に浮かぶも、次の瞬間にはその疑問は吹き飛んでいた。何故なら、セレーヌ様にそう言われた天使の銅像は何処か動揺したような様子で数歩後ろに下がったかと思うと。

「お前は、お前、は!あの時の神官!!またか!また私の邪魔をするのか!!あの時と同じように!!」

と怒りに満ちた声をあげたからである。その声は、確かにあの声の主と同じ女性のものであったけれど、今度は俺の脳裏にだけではなく確かに天使の銅像の口からその場にいた全員に聞こえてきたんだ。

ええええええっ!?
銅像が喋ったあああああああ!?

なんて俺の意識は完全にそっちの方へと持っていかれてしまっていたのである。そしてそれは恐らく俺だけではなかったんだろう。セレーヌ様以外のその場にいた全員が同じように驚いて天使の銅像を凝視していたのだから。

「また私に嘘の罪を着せるのか!!そうやって!なにも調べもせずにあの女の言葉ばかりを信じて私の言葉も聞かず!!大勢の前で私を辱め処刑するのかお前は!!貴様は!!」
「違います!話を聞いてくださいアリアナ。確かにあの頃の私はまだ若く愚かでした。貴方の話も聞くべきだったのに、それを怠り」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!この神官とは名ばかりの無能な偽善者が!!お前こそ私の話を聞きもしなかった!!聞こうともしなかった!!!」
「っ!!」
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