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第三章
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――許さない。
――絶対に、絶対に許さない。
――愛していたのに。
――心から愛して貴女に尽くしてきたのに。
――貴方は、私を裏切った。
――だから、わたしは貴方を絶対に許さない。
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない。
――タスケテ。
すべてこわしてあげる。
あなたのだいじなもの、あなたたちのうみだしたものすべて。
くるしめて、くるしめて、くるしめてこわしてあげる。
わたしがかんじたくるしみいじょうのくるしみをあたえてあげる。
くるしんでくるしみぬいてこうかいするがいいわ。
――タスケテ、ダレカ、タスケテ!!
「っ!?」
ガバッと俺はベットから跳ねるように起き上がる。気がつけば全身が汗だくになっていて、心臓がどきどきと大きくなり続け呼吸も少し荒くなっていた。
なんだ、今の夢は?
なんだかひどく恐ろしい夢を見た気がする。そうなにか激しい憎悪に満ちた。誰かを強く恨み、そのものの全てを壊そうと激しい憎しみに満ちた思いが感じられた夢を。
今のは、まさか、俺の感情なのか?
俺はまだこんなにも、二人のことを許せていないということなんだろうか。
まだ笑って祝福は出来ないけれど、それでも以前よりずっと穏やかな気持ちで二人のことを思えるようになっていたと思っていたのに。ルイスとまた双子の兄弟として笑い合える日もそう遠くないと思っていたのに。あの夢が俺の深層心理を表しているのだとしたら。
俺はまだこんなにもどす黒い思いを心の中に抱えているのか。
そう考えると、自然と気分は落ち込んでしまう。思っていた以上に俺の歪んだ心は深かったのかもしれない。だとしたら、俺はあとどれぐらい心を清めらばいいんだろう、本当に俺の中の醜い心が消えてなくなる日は来るのだろうかと。
こんな俺が聖歌祭で歌っていいんだろうか。
なんて考えはするももう、聖歌祭は二日後に開催されることが決まっているため、今更辞退も出来ないだろう。それに修道院の皆も楽しみにしていると分かっていたから、その期待を裏切ることもしたくなかった。
「大丈夫。大丈夫だ俺」
あの思いが俺の中にあるものなのだとしても、それを自分で感じ取れているならきっと大丈夫だ。寧ろ感じ取れるようになっただけ前進しているじゃないか、と前向きに考えで自分で自分を励ました。
そして、聖歌祭初日。
「帰りたい。修道院に帰りたい」
会場へとやってきた俺は、もう既にそんな気持ちでいた。だって、だってな。こんなに大規模な祭りごとだとは思ってなかったんだ。聖歌を歌って神の祈りを捧げる祭りだっていうから、せいぜい大きめの大聖堂かなんかでつつましやかに厳かに行うものだと思っていたのに。実際は想像と違ってものすごく大規模な催しとなっていたんだ。
会場の真ん中には聖歌を歌うようのステージが用意され、その周りを一周囲むようにして観客席があり、の一部が気品隻となっていて王族が見に来るし様になっているらしい。野外にあるホールとも言えるその周りには、色々な露店も出ていて、大全の人々で賑わっている。
こんなの、国を挙げての大きなお祭りじゃないか!
こんな大勢の観客の中で歌えって言うのか!?
「無理だ。無理無理無理。帰る、俺はもうお家に帰る。修道院に帰って神に祈りを捧げ続けるんだ」
「もう会場にまで来て何言ってるのかな。ほら行くよ。アルゼイル修道院の控えの間はこっちだって」
往生際悪く駄々を捏ねている俺の手を、修道院を代表して応援に来てくれたクリスとファルが掴んで会場の中へと引っ張っていく。
「いーやーだー!俺はお家に帰るんだー!」
「はいはい」
「分かった分かった」
抵抗虚しく俺は二人にずるずると引っ張って会場の中へと連れて行かれてしまう。というか、セレーヌ様もこんなに大規模なら最初からそう言っておいてくれればいいのに。そうしたら引き受けたりはしなかったんだ。
くそうっ、セレーヌ様め!
なんて、あとから追いついてくる予定であるセレーヌ様に八つ当たりしながら、俺は控えの間まで連れて行かれるのだった。
「ううっ、緊張しすぎてまずい。帰りたい」
「もう、まだ言ってるの。此処まで来て」
「だって、こんなに大規模だなんて思ってなかったんだよ!」
「まあ、それは確かに。俺ももっと小さな祭りだと思っていたな」
「だろ?絶対詐欺だろこんなの!」
「あははっ、詐欺かどうかわからないけれど。それだけフランハルトが信心深い国だってことなんじゃない?大丈夫だよ。ラルフなら上手く歌えるって!」
「他人事だと思って……」
暢気に笑うクリスを恨みがましげに見やる。確かに修道院でも一人で歌う練習はしていたけれど、修道院にいる人数とは桁が違い過ぎる。あんな大勢の前でもしも音を外したりしたら、恥ずかしくて生きていけなくなるだろ絶対。そう考えると、胃が痛くなってきたし、なんか寒気もしてきた。
って寒気?
そういえばさっきからゾクゾクと背筋から寒くなるような寒気を感じるんだが。この控えの間に入ってからさらにそれが強くなった気がして、俺はあたりを見回した。
「ラルフ?どうしたの?」
「いや、さっきから何か凄い悪寒がするんだが……二人は感じないか?」
「え?……あ、でも確かに、何か嫌な感じがするかもしれない」
「ああ、俺も。会場にいる時から少し気になってはいたが、ここに来てからさらに強くなって気がしていた」
ってことは、俺の勘違いじゃないのか。そう思った次の瞬間。
『許さない』
そんな声が聞こえて来た気がして俺ははっと目を見開いた。
「この声は……夢の中の……?」
「ラルフ?」
「声?何か聞こえたのか?」
「ああ、うん。多分女性の声だと思うんだが『許さない』って声が聞こえた気がする」
「えええっ!ちょっとやめてよ!僕そういうの無理なんだって!」
「ってお前修道士見習いだろ」
「そういう目的で修道士目指してるんじゃないんだよ!」
なんて大袈裟に怖がるクリスを横目に、俺は少しだけ内心安堵していた。今の声が本当のあの夢の中の声と同じ人物のものだとしたら。俺のものじゃなかったのかもしれないと、そう思えたから。
――絶対に、絶対に許さない。
――愛していたのに。
――心から愛して貴女に尽くしてきたのに。
――貴方は、私を裏切った。
――だから、わたしは貴方を絶対に許さない。
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない。
――タスケテ。
すべてこわしてあげる。
あなたのだいじなもの、あなたたちのうみだしたものすべて。
くるしめて、くるしめて、くるしめてこわしてあげる。
わたしがかんじたくるしみいじょうのくるしみをあたえてあげる。
くるしんでくるしみぬいてこうかいするがいいわ。
――タスケテ、ダレカ、タスケテ!!
「っ!?」
ガバッと俺はベットから跳ねるように起き上がる。気がつけば全身が汗だくになっていて、心臓がどきどきと大きくなり続け呼吸も少し荒くなっていた。
なんだ、今の夢は?
なんだかひどく恐ろしい夢を見た気がする。そうなにか激しい憎悪に満ちた。誰かを強く恨み、そのものの全てを壊そうと激しい憎しみに満ちた思いが感じられた夢を。
今のは、まさか、俺の感情なのか?
俺はまだこんなにも、二人のことを許せていないということなんだろうか。
まだ笑って祝福は出来ないけれど、それでも以前よりずっと穏やかな気持ちで二人のことを思えるようになっていたと思っていたのに。ルイスとまた双子の兄弟として笑い合える日もそう遠くないと思っていたのに。あの夢が俺の深層心理を表しているのだとしたら。
俺はまだこんなにもどす黒い思いを心の中に抱えているのか。
そう考えると、自然と気分は落ち込んでしまう。思っていた以上に俺の歪んだ心は深かったのかもしれない。だとしたら、俺はあとどれぐらい心を清めらばいいんだろう、本当に俺の中の醜い心が消えてなくなる日は来るのだろうかと。
こんな俺が聖歌祭で歌っていいんだろうか。
なんて考えはするももう、聖歌祭は二日後に開催されることが決まっているため、今更辞退も出来ないだろう。それに修道院の皆も楽しみにしていると分かっていたから、その期待を裏切ることもしたくなかった。
「大丈夫。大丈夫だ俺」
あの思いが俺の中にあるものなのだとしても、それを自分で感じ取れているならきっと大丈夫だ。寧ろ感じ取れるようになっただけ前進しているじゃないか、と前向きに考えで自分で自分を励ました。
そして、聖歌祭初日。
「帰りたい。修道院に帰りたい」
会場へとやってきた俺は、もう既にそんな気持ちでいた。だって、だってな。こんなに大規模な祭りごとだとは思ってなかったんだ。聖歌を歌って神の祈りを捧げる祭りだっていうから、せいぜい大きめの大聖堂かなんかでつつましやかに厳かに行うものだと思っていたのに。実際は想像と違ってものすごく大規模な催しとなっていたんだ。
会場の真ん中には聖歌を歌うようのステージが用意され、その周りを一周囲むようにして観客席があり、の一部が気品隻となっていて王族が見に来るし様になっているらしい。野外にあるホールとも言えるその周りには、色々な露店も出ていて、大全の人々で賑わっている。
こんなの、国を挙げての大きなお祭りじゃないか!
こんな大勢の観客の中で歌えって言うのか!?
「無理だ。無理無理無理。帰る、俺はもうお家に帰る。修道院に帰って神に祈りを捧げ続けるんだ」
「もう会場にまで来て何言ってるのかな。ほら行くよ。アルゼイル修道院の控えの間はこっちだって」
往生際悪く駄々を捏ねている俺の手を、修道院を代表して応援に来てくれたクリスとファルが掴んで会場の中へと引っ張っていく。
「いーやーだー!俺はお家に帰るんだー!」
「はいはい」
「分かった分かった」
抵抗虚しく俺は二人にずるずると引っ張って会場の中へと連れて行かれてしまう。というか、セレーヌ様もこんなに大規模なら最初からそう言っておいてくれればいいのに。そうしたら引き受けたりはしなかったんだ。
くそうっ、セレーヌ様め!
なんて、あとから追いついてくる予定であるセレーヌ様に八つ当たりしながら、俺は控えの間まで連れて行かれるのだった。
「ううっ、緊張しすぎてまずい。帰りたい」
「もう、まだ言ってるの。此処まで来て」
「だって、こんなに大規模だなんて思ってなかったんだよ!」
「まあ、それは確かに。俺ももっと小さな祭りだと思っていたな」
「だろ?絶対詐欺だろこんなの!」
「あははっ、詐欺かどうかわからないけれど。それだけフランハルトが信心深い国だってことなんじゃない?大丈夫だよ。ラルフなら上手く歌えるって!」
「他人事だと思って……」
暢気に笑うクリスを恨みがましげに見やる。確かに修道院でも一人で歌う練習はしていたけれど、修道院にいる人数とは桁が違い過ぎる。あんな大勢の前でもしも音を外したりしたら、恥ずかしくて生きていけなくなるだろ絶対。そう考えると、胃が痛くなってきたし、なんか寒気もしてきた。
って寒気?
そういえばさっきからゾクゾクと背筋から寒くなるような寒気を感じるんだが。この控えの間に入ってからさらにそれが強くなった気がして、俺はあたりを見回した。
「ラルフ?どうしたの?」
「いや、さっきから何か凄い悪寒がするんだが……二人は感じないか?」
「え?……あ、でも確かに、何か嫌な感じがするかもしれない」
「ああ、俺も。会場にいる時から少し気になってはいたが、ここに来てからさらに強くなって気がしていた」
ってことは、俺の勘違いじゃないのか。そう思った次の瞬間。
『許さない』
そんな声が聞こえて来た気がして俺ははっと目を見開いた。
「この声は……夢の中の……?」
「ラルフ?」
「声?何か聞こえたのか?」
「ああ、うん。多分女性の声だと思うんだが『許さない』って声が聞こえた気がする」
「えええっ!ちょっとやめてよ!僕そういうの無理なんだって!」
「ってお前修道士見習いだろ」
「そういう目的で修道士目指してるんじゃないんだよ!」
なんて大袈裟に怖がるクリスを横目に、俺は少しだけ内心安堵していた。今の声が本当のあの夢の中の声と同じ人物のものだとしたら。俺のものじゃなかったのかもしれないと、そう思えたから。
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