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第一章

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「俺がルイスに嫌がらせをしたのは、殿下がルイスにうつつを抜かし俺を放置したからです。順番が違う。それに、それ以前から俺を鬱陶しく思っていたというのであれば、俺がしたように婚約解消を申し出れば良かったでしょう。幾ら俺が嫌がったとて、国王陛下の決断に逆らうことなど出来はしないのですから」
「ぐっ……!」
「それらを行うこともなく、非常識な行動をとっていたのは殿下の方ですよ。それを愚行だと、平凡だと言って何が悪いのか。まあいい。この場にいない人の話をこれ以上する意味も暇も、俺は持ち合わせてはいませんので」

あとは自分達でご自由にどうぞ、というように言葉に詰まった兄上に一度だけ視線を向けた後、再びルイスへと視線を戻す。

「というわけだ。これ以上お前との会話に時間を使うつもりもないから一度だけ言うが。俺は俺が幸せになる為にこの国を出ていくんだ。この国に俺の興味を惹きつけるものも、俺が愛せるものも何もないからな」

はっきりとした口調でそれだけ告げると、俺はこれ以上話すつもりはないといった態度で踵を返し、今度こそ玄関へと歩き出した。あえてこの国を出ていくと、強調したのはそちらの方が都合がいいから。ラルフ・クレインは、このアンゼルシア国内にはいないという認識をルイス達の中に植え付けるためだった。

俺がどういって突き放そうと、結局はあのお人よしの双子の弟は俺のことを探そうとするだろうというのは、双子の兄である俺が一番理解していたから。こういうところが、面倒だよな双子っていうのは。気を抜けば口にしていることとは違うことを思っているのを隠していても悟られてしまうところがあるから。特に俺達は半身とも言える一卵性双生児だからなおさら。

だからこそ、もう言葉ほどはルイスのことを恨んでも嫌ってもいない俺は隠し通すのに必死だったんだが。目を逸らせば嘘だとばれてしまうからあえてこちらから真っすぐに見据えて、きつい言葉を放つ。それによってるルイスが傷ついた表情を浮かべても、眉を下げるどころか嬉しそうに笑みまで浮かべて。

悪役って、演じるのは結構きついんだな。

なんて考えて内心溜息をつく。平常心の時にこれをやるのは結構きついものがあるなと。けれど、以前の俺はそれを自ら望んで嬉々としてやっていんだから、新ためてあの日の夜までの俺は異常だったんだなと思いながら、門の外で待つ馬車の側まで向かう。

「トム。すまないが宜しく頼むな」
「はい、ラルフ坊ちゃま。お任せください」

御者のトムに荷物を預けながら声をかけると笑顔で返してくれた。そのまま馬車へと乗り込んで座席へと腰を下ろす。

「それでは出発しますよ。修道院までは長旅となりますのでごゆっくりお寛ぎくださいね」
「ああ、有り難う」

トムの言葉に短く礼を告げて、俺は走り出した馬車の窓から屋敷を眺める。生まれた時からずっと育って来た我が家ではあるから、やはり離れると思うと少し寂しさも感じられる。もう二と度戻ってこないかもしれないと思えばなおさらのこと。

戻ってきたいとは思っているけれどな。

そう思いながら俺は再び座席に深く座り直した。何はともあれ、計画は無事に成功したことを喜ぼうと。これで俺は晴れて自由だ。あとは無事に修道院に入って、心静かに神に祈りを捧げて余生を過ごせればもう他にはなにも望むことはないのだから。

そして、いつかはまた元通りの姿に――。

こうして俺、ラルフ・クレインは静かに華やかな舞台から姿を消したのだった。
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