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第一章

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とりあえず、倒れているのが俺だと誰も気がつかないで放置して欲しい。
絶対無理だけどな。

「おいっ、お前何者だ!?……って、ラルフ坊ちゃま!?」

即バレかよ、おい。

驚いた声をあげるのは、間違いなく執事長のサルマンで。それでも中々顔をあげられなかった俺だったけれど、俺が気絶しているのではと慌てだす言葉を耳にしてしまったら観念するしかない。俺は仕方なくゆっくりとうつ伏せ状態から起き上がる。その場には、サルマン以外にも執事が三人メイドが二人いた。

「坊ちゃま!!大丈夫ですか!?ご気分が悪かったり、どこかお怪我などは!?」
「騒ぐな。大事ない」
「で、ですが…!」
「本当に大丈夫だ。……けど、その、なんだ。すまなかったな。折角休んでいたところを起こしてしまって、申し訳なかった」

軽く頭を掻いて、ばつが悪そうに謝る俺の姿を見てサルマンは一瞬驚いたように息を飲んで目を見開き、執事やメイドたちもお互いの顔を見合わせ合っていた。なんだよと俺が思うよりも早くメイドの一人がポロッと。

「嘘、謝った!?ラルフ様が!?ルイス様じゃなくて!?」

なんて零してくれたからすぐに納得は言ったけれど。すぐさま隣のメイドが窘めてはいたけれど、まあそうだよな。と俺は納得した腹を立てることもなかった。今までの俺であれば時間帯なんて関係なく呼びつけて部屋の掃除をさせていたところだったし、メイドや執事に礼の言葉なんて伝えたこともなかった。

ルイスはいつも一人一人にいつも有り難う、なんて眩しい笑顔で声をかけてはいたけれど、その姿を見て何を平民に、しかもメイドに礼なんて言ってるんだと冷ややかに見ていただけだったしな。そいつらは家から給金を貰って働いているんだから礼を言う必要はないし、もっとこき使ってやればいいとさえ思っていたんだから。

「も、申し訳ございません。ラルフ坊ちゃま。彼女には後で私からきつく言い聞かせておきますので」
「別にいい。気にしてないから」
「ですが……」
「いいって、別に。今更本当のこと言われたって怒らねえよ」
「は、はあ。ラルフ坊ちゃまがそう言われるのでしたら。ところでラルフ坊ちゃまはどうして、このようなところに…?」
「うぐっ…!」

当然の問いかけに、俺は思わず言葉に詰まってしまう。

「ラルフ坊ちゃま?」
「………だよ」
「はい?」
「だからっ、暴れて部屋荒らしたから自分で掃除しようと道具とりに来たんだよっ!」

けど、段差の存在を見事に忘れて、足を踏み外して無様に転びましたとまでは流石にいえずにそのままふいっと横を向けば、サルマン達は今度は揃って暫く目をぱちくりと瞬かせたあと。

「「「「「「ラルフ坊ちゃまがご自分で掃除を!?」」」」」」

と声をハモらせていたけれど、それは流石に驚きすぎだろ。

失礼だな、おい。
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