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第5話「ディープ・インパクト」

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 「緑の波浪スープ」でテンションギンギンのおじさんたち。
 そして、臨時政府の若者たちは、機敏に動いていた。

 マルケルはパワーアップしていたが、既に火炎は使えない。
 ノオマが罠魔導でオトリをしながら、旧アーティの騎士たちが素早い剣術で魔業アーマーを惹き付けていく。
 もちろん、剣では魔業アーマーを壊せない。
 それに、マホトラゴブリンの覚醒で、マルケルもなかなかの動きをしている。
 しかし、あのおじさんたちも驚きのスピードを見せて。
 どちらも決定打のないまま、時間稼ぎにはなっていた。

 そう、その間に、臨時政府のベックが指揮をして、住民の救出に当たっているようだ。
 弁が立つから誘導や懐柔は得意のようだ。
 そもそも火災の酷さに比べ、住民たちは冷静に見える。
 アーティ民の気質のおかげか。
 それでも混乱は凄まじいわけだが。

「罠魔導! 『トラッピン・フラッシュ小』!」
 ノオマが別の魔導。
 クラクスおじさんたちの目まで焼かないよう、ピンポイントの光でマルケルの動きを止める。
 その間にノオマは次の詠唱に移る。

「にゃにゃにゃにゃ! お次は『魔導ロープ長』!」
 光のロープに攻撃力はない。
 しかし、魔業アーマーを巻き付けて足を止める。
 するとマホトラゴブリンは気味悪くくねくねと動き、それを切るが……
 光のロープはまたすぐ伸びて、魔業アーマーを縛る。

 旧アーティの剣術が、マルケルを押し込める。

 俺は感心したし、感激もした。
 俺の料理で、躍動し、戦ってくれている。
 そりゃ、俺だって冒険者。しかも歴もそこそこだ。
 戦って勝ちたい気持ちもあるが。
 今は、できることをする!
 パーティで、成功すること考える! エゴは出さないようにする。
 まずは「ジョブ:シェフ」なわけだし。
 俺の料理で戦ってくれているんだ。
 いや、でも、やっぱりもっと攻撃寄りの食魔導があってもいいよな……
 それは……レベル4のお楽しみとするか!

「マドリー、何イジイジしてんの! サポートしてよ! 詠唱するから!」
「あ、あ、ばれた? じゃなくて、わかりました! 『ガストロ・ウインド』!」

 そう! バトルも救出も順調!
 しかし、火は燃え盛るばかりだ!

 「ガストロ・ウインド」で、消火できないか……
 マホトラゴブリンを一度は倒した食魔導!

「何よ! それ! 違うでしょ!」
「えええ、うわ、ごめ、すいません!」
「全然違うでしょ!」
 うーん、火が広範囲すぎて、全然足りなかった!
 つい、攻撃的に魔導を使いたくなる。

「マドリーっち、うまくいったにゃ?!」
「ノオマ! さすがの先読み戦術ですね」
「でっしょー! 罠魔導はサバイバルスキルっちね!」
「おじさんたちもやるじゃない」
「ゼッピっちぃ! 回復したのねん!」
「寝てばっかりもいられないわよ!」
「あの化け物っち! なかなか頑丈なのよん!」
「みたいね。君たちの魔導ったらサポートばかりで。私の黒魔導がなくっちゃ!」
「お、さすがは魔王!」
「ふははははははははは! って、魔王じゃないから!」
「娘だっけ?」
「知らんわ! 詠唱するから! もうちょっと時間を稼いで!」

『ラジャー!』
 ノオマの口癖が伝染ってしまった。

 目的は2つ!
 復活して、パワーアップまでした魔業アーマーの停止と、街の消火!

「貴様らああ! 我が魔業の力、全てを焼き付くしてくれるわあああ!」
 いや、もう火炎は出せないみたいだが、マルケルのおっさん、意味不明である。
「はにゃにゃにゃ、これだから、オッサンは……」
 ノオマが代弁してくれた。
「ぬおおおおおおおおん!」 
 このぬるっと雄叫びはマホトラゴブリンか……初めてクリアに響く。
 しかし、コマンダータイプとはいえ、今や悲惨なものだ。

「どんな攻撃も無駄なのだあ! 魔業と重騎士が織り成す鉄壁!」
 丁寧に解説してくれるマルケル。
 しかし、何がパワーアップしているというんだ……
「だがなあ! スピードが! スピードが違うのだよ!」
「むらむらおおおんん」
 重々しいアーマーがグイと近づいてきて、ノオマを捕まえた!
 そう、胸部のマホトラゴブリン! 目覚めたコマンダーがノオマに抱きつく!

「にゃああああああああ」
 うわあああ、あれはちょっとどころじゃなく嫌だ。
「小娘がああ! ちょこまかと動きおって! 人生を! 人生を教えてくれる!」
 ノオマがジタバタと動くと、ヘッドギアのような、帽子のようなものがとれた。
 隠れていた耳が……長い! あの子、なんなんだ?!

 マホトラゴブリンが抱きつき、マルケルの鎖が迫る!
 これはまずい!

「こおおおのおおお、変態ジジイ! 『ガストロ・ソイル』!」
 人間、ピンチで意外なアイデアが出る。
 俺はとっさに食魔導を叫んでいた。
 魔業アーマーの足元がヌカルむ!
 土をいじる食魔導! の基礎!
 恐らくは農業用!
 こんなデカブツは、バランスを崩せばどうにもできなくなる!

「ぐうああああああ! 卑劣な!」
 ずんぐりとした足を土にとられ、倒れた!
 マホトラゴブリンも慌てて、手を離す。
「ノオマ! 『ガストロ・ウインド』!」
 道具が少ないと、発想が湧いてくるものだ。
 魔業アーマーのボディに孤立したノオマに強烈な風を送った!
 本来は余熱をとるはずの食魔導!

「わにゃ! にゃっ!」
 風に乗って、軽やかにこちらへ舞い戻る。
「抱き締められて、何かされました?」
「マドリーっち、表現キモい」
「……すいません」
「食魔導、やるじゃない!」
 深く考えずのアクションだったが、悪い気はしない。

「ノオマ、その耳は……」
「にゃ、いっけね!」
 慌ててヘッドギアを拾い、被り直す。
「さて、この化け物、にゃんとかしないとね……」
「完全無視ですか」

 びゅんびゅんびゅんびゅん!
 突然地面からうねりが発生した。
 寝転がった魔業アーマーが、横に回転してる!?

「貴様らああ、いい加減にしなさい!」
 そして、宙に浮いてしまった!
 あんな重そうな物体が!

「魔業アーマーの真価! 魔族を自由に扱えるのだよ! 見ろ! 帝国重騎士の最新形!」
 マホトラゴブリンの魔導で浮いているのか? 重さを、なくしているのか?
 そして、浮いたまま、高速に回転している!
「ゴブリンは斧が得意だったよなあ。私も斧で勝ち抜いた! あの戦場を!」
 そういえば、斧とかで教われたっけ……どうだっけ?
 俺のキッチンナイフとは大違い。力強い。
「斧と斧。魔業が我々をマッチングした! 重騎士とコマンダーのゴブリンでなああ!」
 感心している場合ではない。ヌカルミから解放されて、重量からも解放された魔業アーマーが。
 いや、【魔業アーマードゴブリン】といった方が正しいだろうか。
「見よ! アップデートされた! 魔業アーマードゴブリンのトマホークプレイ!!」
 これは……逃げ切れない! ノオマの罠魔導も間に合わない!

 俺は思わず目をつぶった。

 セルリアで、ゴブリンに教われた時も、こんな感じだったか?
 その時は、どうなったっけ……?

「マドリー! ストリートから住民は避難してる?!」
「へ?」
「目を開けなさいよ!」
「わ! わ!」
 前を見れば、道の両側には燃え盛る建物たち。
 アーティ民たちの姿は……見えない。
 ストリートではなく、どこか裏道にでも避難させているのか!
 そりゃ、魔業アーマードゴブリンが暴れているから、ストリートは危険だ。
 一歩奥に入れば、意外に入り組んでいるのが、アーティ中心部の特徴だ。
 城から脱出する際に気づいたことである。
 それは、火が回りやすいということでもあるが……
 ええい! ここは賭けだ! 
「とりあえず! ほぼ! 見えません!」

 あの時と同じだ。黒いローブのゼッピが魔導を放ってくれる!
 他力本願! 住民の安全確認は済んでないが……
 もうダメだ! しかしここで倒さないと同じこと!
 とりあえずは何とかしてくれ!

「オッケー! いっけぇぇぇぇ、黒魔導【ピュア・ウェイヴス】!」
 ここは、「仮想変化コスプレーション」じゃないんだ!
 がっかりしたような、いや、そんな場合じゃない!

 ぶああっと、とてつもない量の水が後ろからやってくる!
 どういう微調整なのか、俺とノオマの前から水壁は拡大した。
「うわあああああ、なんだああこれは!」
 ひゅんひゅんと回転するマルケルもなすすべがない。
 回転に力を使っているのか、マホトラゴブリンの叫びは聞こえなかった。
 マルケルもすぐ遠くなり、野太い喘ぎも聞こえない。

 魔業アーマードゴブリンは猛烈な水、波浪の力に逆らうことができず、ストリートを流されていった。
 波の力が街の炎も消していく。

『マハロ~』
 後ろからおじさんと若者の声がシンクロした。 
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