上 下
15 / 51
第2話「アーティのリアル・ダンス」

4

しおりを挟む
「何よ、そんな落ち込まなくたって、いいじゃない?」
「拒否とか拒絶に慣れてないんですよ!」
「そんなんじゃないでしょ、あのおじさんたちは。
 バイク冒険者だから、街から街へ、遠距離移動の日々。
 アーティには詳しくないのよ」
「それはそうですけど。今日は良い波に乗ってないな、って、勢い削がれますよね」
「縁起なんか気にして、柄でもない!」

——男の繊細さに疎い女だ。

 冒険者ギルドは開場前から行列ができていて、10時を回ってもすぐに入場はできなかった。
 ようやく中に入ると、なかなかごった返している。
 
 冒険者ギルドの機能は主に3つ。
①冒険者のアドミニストレーション。
 登録や、ランク管理を行う。
②クエストの公募。
 文字通り。
③報酬の交換。
 戦利品と貨幣を交換する。

 混乱しないように、それぞれ窓口が違っていて、朝から混雑するのは②だ。
 クエストには誰でも参加できる「オープン・クエスト」と、参加人数に制限がある「クローズド・クエスト」がある。
 人数制限があるクエストには好条件のものが多いため、我先にと冒険者が殺到する。
 用意周到なパーティは、ビラをチェックする人、受付に並んでおく人で、役割分担したりする。

 なんでこんな細かいことに詳しいのかって?
 勇者パーティ時代、パシリさせられてたからな。

 昔はどうだったか知らないが、最近の帝国領内では冒険者の管理は徹底されている。
 冒険者といったって、自由じゃないんだ。

 俺たちは、初回登録なのでややこしい......
 まず、①でパーティ登録して、③で戦利品を鑑定・売却し、①でランクを登録する。
 急いでいるわけじゃないが、本当にお役所仕事だな、ガストロ帝国の統治ってやつは......

「めんどくさいわね......! 何回も何回も列に並ばされて!」
 早速ゼッピが似たようなぼやきをした。
 創造性のない、素直な発言だ。
 俺はそんなつまらないこと、わざわざ言葉にしなかったんだが。

「パーティの名前決めなきゃですね」
「リーダーも、か。君、よろしくね」
「はあい? 俺、シェフだからサポートメインなんですけど」
「バトルじゃなくて、ご飯を売って賞金王めざすわけでしょ? シェフが責任取るのよ」
「俺がやろうっていったわけじゃないのに......」
「また、つまらない態度ね! そういうの、よくないよ」
「そりゃ、そうですけど......」
「それにスキルも覚醒したみたいなもんじゃない!? 自信持ちなさいよ」
「......わかりましたよ」
「名前は……シンプルに【マドリーのフードトラック】にしましょ!」
「店の名前ですね」
「どっちにも使えるわよ」

ーーーーー

「わわ、これはずいぶん高価そうな、ジャンクなんですことね!」
 黒縁の眼鏡を持て余した受付嬢が不思議な口調で驚いた。③報酬交換の窓口である。
 自分が眼鏡っ子だって十分に自覚しているから、こんな口調なんだろうな。
 昔、勇者パーティの誰かがいってたな。
「大人になったら、自分がどう見られているか、認識しないと痛い」なんて。
 あぁ。社会性を振りかざす。
 いつも人を縛ろうとする。怒りっぽいプリーストのキレイラだ。
 今ごろどうしているんだろうな?
 ストレイと仲良くやっているんだろうか?
 やっぱり、あいつらデキてたのかな?

「まだまだ、魔導車両マホトラにあるから、鑑定してくれない?」
「あらあら、スタッフに行かせますことね!
 うぉら! おまえら、表に出ろぃ!」
「あ、じゃ、俺外みてきますね、ゼッピさんは申込書とかもろもろ、お願いします」
「ったく、めんどいわね......」
「誰かマホトラみないと」
「君がどっちもやれっていってんの!」
「うわ、ひどい」
「わわ、登録したてでケンカはやめますことよ!
 私のために争わないで!」

 俺はいろいろ観念した。

「......とりあえず外、いってきます。申込書は戻り次第俺がやるでもいいですから」
「はい~」

ーーーーー
 結局ゼッピも受付嬢もなぜか外までやってきた。
 なら、あんな言い争い、する必要ないのでは......?

 それはさておき、魔導車両マホトラに戻ってみると、人だかりができている。
 冒険者たちの物見遊山かと思いきや、小綺麗で、全身の色は統一されていて、たたずまいも、やや異なっている。
 所作にラフさがないし、目はマスクに覆われ、視線が見えない。
 ——バイカーのおじさんたちがいってた、帝国兵か?!

「あのぉ、魔導車両マホトラ、なんかあります?」
 2人か。片方に聞いてみた。
「お前が、持ち主か」
 ゼッピとはまた違うニュアンスで、高圧的だ……
 受付嬢は「典型」を守るあまり、やや常軌を逸していたが、こちらはオーソドックス。
 「帝国兵」と聞いたら、10人中8人が、こういう態度を思い出すんじゃないか?
「一応......そうですけど」
「ずいぶん珍しいタイプだな」
「え? 登録は済んでいるのか?」
 2人の帝国兵が畳み掛けるように問い詰めてくる。
「今ちょうどギルドでパーティを申請してきたところなんで......」
 帝国領内では、魔導車両マホトラを使用するには、冒険者ギルドへの登録が必要だ。
 もちろん、ギルドへの移動に使用するのは例外的に許される。
 それに、制度の運用にも差があり、アグリガルは本国ではないため、ゆるいはずだが......

「攻撃型のマホトラは! ギルドのエントリーだけじゃダメなんだよ!」
「......そんなの聞いたことないですけど。それに、攻撃型じゃないですし」
「戦争の放出品! レトロだろぅ、こいつは?!」
「攻撃に使えるだろ」
「いや、外見は危険ですけど、中はリラックス仕様で......」
「ちょっと! ギルドの前で騒がないことよ! まずは鑑定しますので!」
 受付嬢、やる!
「フン、アグリガルの冒険者ギルドか......」
「それに、ずいぶん貴重なジャンクパーツを積んでるじゃないか、ええ?!」
「こんな宝の山、どうやって手に入れたんだ?! 怪しいなぁ、おい!」

『と・り・あ・え・ず。ギルド権限で鑑定しますので!』
 受付嬢が強く息を吐いた。
『冒険者特権の範囲でしょ!!』
 ゼッピも負けていない。

 この世界はホント、圧の強い女性が活躍している......
 しかし、その圧に、父権的な男性は押されてしまうのだ。
 それは論理ではない何かであろう。

「? お前は......?」
「くっ、まあいい。ここは引いてやる」
「うーむ、ま、不用意な行動には、せいぜい注意することだな」

 語尾だけ取り出せば、受付嬢と似ているが......
 ほとんどならず者の口調で威嚇して。
 しかし、冒険者たちの目もあってか、帝国兵たちは去っていった。
 ゼッピを見て、何か気づいたような様子もあったが......

「ふう、災難ですことね。目をつけられると厄介ですことよ」
「帝国の支配も、強くなっているのね」
「疫病対策を口実に、アーティも自由を失ってしまっているのですことよ」
「......嫌な奴らですね」

 そう、オルステの勇者パーティにいた頃は、こんな風に威圧されたことはなかった。
「名の知られてないパーティには厳しいのよね」
「癒着しないと、やりにくいことですのよね、世知辛い......」
「なかなか、0からのスタートは厳しいんですね。とりあえず、鑑定、お願いします」
「これは......なかなか時間かかりそうですことね、先にランチでも済ませてきては?」
「さっき食べたばかりですからね」
「えー、お腹空いたわよ!」
「はや!」
「魔導は体力消耗するの!」
「使ってないじゃないですか」
「い・い・か・ら。アーティの名店でも探しましょ」
「あ......そうだ、今度こそ!」
 俺は受付嬢を見つめた。

「ア、ア、アーティの名物、教えてください!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

処理中です...