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第1話「セルリアのフーディ・ロード」

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 俺はシェフだ。
 せっかくだから新メニューでも披露してやろうか。
 田舎村で艶やかさがまぶしい女将にちょっとしたアピールでも! 
 一瞬やる気出しかけたんだけど。
 午後、二日酔いに耐えながらようやく宿屋に現れた自警団長は昨日のワカモレを気に入ってたし、俺もめんどかったので、同じワカモレを、携帯しやすいようにサンドイッチにして、人数分、準備することにした。
 当然、ゼッピは「やる気なし! 甲斐性なし!」なんて文句タラタラだったが。
 
 そういわれてもな。
 常に全力でやればいいわけじゃない。

 夕方になっても頭に違和感はあったが、なんとか人数分×3くらいの食糧を準備して。
 レベル1魔導も少しずつ注入しておいた。
 説明が遅れたが、バトルの最中にさっと食べれば、やや攻撃量を上げるくらいの、サポートにはなる。
 事前に食べておけばいいんじゃないかって?
 戦っているうちに、その効果は薄れてしまうし、一気に食べ過ぎると体も重くなるからな。
 俺にできる後方支援なんて、せいぜいこんなもんだ。
 
「というわけで、運転席から、随時俺が食糧を投げ込むんで、みなさん、負けずに頑張ってください」
 
 日が落ちて、いよいよ出発前。
 宿の前に集合した自警団長と4名の団員、そしてゼッピに丁寧に話しかけた。
 やるからにはきちんとやりますよ。
「いよいよね。マドリーが運転するんで、私たちは英気、養っておきましょ」

「ウイーッス」
 
 あぁ、なんか頼りない奴らだな。人のこといえないけど......

『ノリが悪い!!』

 ゼッピと女将がシンクロした。
 圧の強さが似てるんだよな。

「マドリー君も、昨晩のやる気はどこいったんだよ! 
 酒が必要なのかい? え?」
 突然矛先が俺に向く。
「いや、さすがに飲酒運転はいろいろ危なそーなんで……
 いや、こんなもんですよ、はい、頑張ります......」
「いい? 『みんながんばれ』だからね。なんとかしてよね」
 ザルな作戦で、「なんとかしてよ」って、とどうかと思う。
 ま、考えすぎてもしょうがないし、最悪魔導車両マホトラで逃げ切れるのでは、なんて考えていた。

 本当に「なんとかする」なら、早く助けにいけばよかったんじゃ、とも思うが、昨夜は酔ってたしな……
 いやいや、身体的理由による怠惰はさておき、自警団長や女将の話を総合するに。

ーーーーー

・砦のゴブリンはコマンダーの指揮下、統率が取れていて、短絡的ではなく、長期的に食料を簒奪するべく活動する。
・つまり、人間の娘を1人誘拐して食ったところで、意味がないと理解している。
・たとえ防戦のみでも、自警団の抵抗はそこそこ厄介。彼らを排除してセルリア村と村人たちが生産する食糧を事実上支配下に置きたい。

ーーーーー

 って事情らしい。
 
 酔った勢いで、作戦名だけ決めた......わけじゃない。
 ジョセフィーネ、だっけか? の誘拐後も、飲んでたわけじゃないぜ。

 とゆーわけで、二日酔いは克服して、いや、まだ酒は見たくないけどな、ゼッピと自警団のご活躍を祈ろう。

「全員、乗ったぁ?!」
 助手席のゼッピが窓から顔を出す。
「ぉイーッス」
 荷台に座りこんだ自警団5名がだるそうに答えた。

 はあ、つくづくテンション低い村だなぁおい。
 
 食糧が足りてないって、こういうことかもしれないな。
 少しずつ、心も体も蝕んでいって、前向きな気力を持てない人間たち。
 
「やっぱり食べ物って、大事だねぇ」
「なんかいった?」
「いーや、なんでもないっす」
 俺にも自警団たちのテンションが乗り移ってしまったぜ。
「安全操縦でよろしくね」
 ゼッピが魔導【ピュア・フラッシュ】でぼんやりと前方を照らした。
 夜道の魔導車両には必需品だが、レベル1の俺にはできない代物だ。
「どうせ田舎の荒れ道はガタガタで、自警団の皆さんは砦までに疲れちゃいそうな......」
「だから、君の魔導キュイジーヌが必要なんでしょ!」
「わかってますって! ほら、出しますよ!」
「わっと!」

 うるさかったから、ペダルを踏んで急発進した。
「おい! あぶねーぞ!!」
 荷台からもクレームが飛ぶ......

 勇者パーティでは数回しか操縦したことがない。
 魔導師ストレイが強烈なドライビングを誇示していたな。
 俺の低レベルな魔導では駐車くらいしかさせてもらえなかった。
 高価な魔導車両で、操縦も難しかったし。

 セルリアの魔導車両マホトラは、オートマ運転で、簡単だ。
 レベル1魔導を足にこめて、アクセルを踏むだけで進めることができる。
 この時代、ガストロノミアでは、レベル1魔導くらいは誰でも扱えるものだ。

「道がボコボコなんで! つかまっててくださいよ!」
 声を張って、魔導を切らさないようにした。
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