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離婚

38話

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「やっほー! B区のど真ん中で結婚式を挙げたぞー!」
 島田だ。
 私たちはハネムーンでの云話事シーサイド……一度、奈々川さんを連れている。そこへと向かう。二人だけで……。

 白い華奢な車は、二人を乗せて、ゆっくりと結婚式場から走る。

 ブーケは津田沼が受け取った。
「おめでとー!」
 田場さんだ。
「夜っちゃん。俺…………幸せになる」
 ブーケを受けた津田沼が満面の笑みで言った?



 テレビ画面では云話事町TVがやっていた。
「おはようッス!! 久し振りっス!! 云話事町TVッス!!」
 いつもの住宅街を背に美人のアナウンサーが吠えた。

「昨日は大変だった! 藤元さんです!」
「ええ。大変だったですよ。本当に……」
 藤元がカメラのドアップを受ける。……少し鼻毛が伸びている。
「首相官邸に行ったら、みんな死んでて……本当にここが首相官邸なのかと、最初解らなかったッスよ」
「たまには、ですけど、頑張ってくれたんですね。藤元さんに拍手を……」
 美人のアナウンサーが一人だけで力強く拍手を送った。

「ところで……今日の天気は?」
 美人のアナウンサーは気を取り直して、マイクを藤元に向ける。
「今日は快晴にしたいですね。僕……疲れていますから……」
 藤元は両手を何度か叩く。
 すると、曇り空の雲があっという間に散って行った。
「みなさん! 今日は晴れるでしょう!」


 
 ここは、A区。
「公さん。スケッシーとラーメン屋へ行きますね」
 晴美さんだ。ここは、私の部屋。
「ああ、でも、一人じゃまだ危ない」
 私は晴美さんと手を取り合って、105号室を後にする。
 仕事も再開して、田場さんも大喜びだ。
 スリル好きな島田は相変わらずに、銃と弾薬をたくさん買って。
 津田沼も日の丸弁当片手に仕事に精をだす。
 幸運にも戦争は起きずに。
 いつもの日常だ。
 


「そうか……晴美は夜鶴くんと…………」
 脂肪を揺らした奈々川首相がポツリと言った。
 薄暗い書斎で、二人が話している。

「ええ……晴美さんにはまいりましたよ。僕のフィアンセは……何というか、扱いにくいですね……。これから、ちょっと野暮用がでてきました。きっと、晴美さんも考え直しますよ。本当に結婚しないといけない人は誰かをね」
 谷多部 雷蔵が白い歯を見せる。その表情はどこか欠落しているようだ。そう……心にあるべきものが無いかのようだ。

「……君に期待しているよ。」
 奈々川首相は、所々薄汚れた書斎で手を机に置き静かに言った。




「どう。今度の日曜日はお互いに仕事休んでさ。ショッピングに行こうや。それと、奈々川さんも呼んでーー」
 島田だ。
「ああ。いいけれど。それと、もう奈々川さんは、夜鶴って名字になったんだけど。……つい最近」
 私は後ろのスケッシーと遊んでいる晴美さんを眺める。

 電話越しにも島田は浮かれているようだ。なにせB区で結婚式を挙げ、首相官邸を重火器でボロボロにしたのだから。勝利とはこんなにもいいものだとは!
「あっははー。悪い悪い。そうだったんだよな。晴美さんその後はどう?」
「いい感じだ。前より明るくなった」
 スケッシーの嬉しそうな吠え声は耳がキンキンとした。

「スケッシー! 凄い!」
 見ると、スケッシーがじゃれながら、メス犬を誘う求愛行動の宙返りをしていた。
「あ、そうそう。しかしなー。ハイブラウシティ・Bはまだ進行しているんだよな。もう一回首相官邸に行って、弾丸を撒き散らすか?」
 島田が電話越しにも解る不敵な笑いをした。
「うーん。……いや、国会に晴美さんが話に行くって。それからどうなるかだな」
「国会かー。俺的にはやっぱり銃を使いたいぜー」
「ああ。でも、なるだけ穏便にしていってもいいんじゃないか? 結構時間も掛かることだし……。それに、奈々川首相と矢多部もどっかに居て……今頃作戦会議なんじゃないかな? これからどうするかって?」
「あははははー-。いいねーーー」
 電話が終わる。仕事へ行こう。
 

 私は晴美さんと仲良くキスをしてから愛車へと歩く。
 駐車上の愛車は目立つ傷がなくなりピカピカの光を放っていた。晴美さんが特別にお金を出してくれたのだ。それと、島田の車と弥生の足も治った。

 夜風が冷たくなってきた。けれど、車の窓を開け放って、夜の云話事町を走る。私はこの町が好きになった。今、幸せ中だ。
「お、今日も頑張れ!」
 田場さんが受付にいた。
「夜鶴さん。凄い。B区の首相官邸に殴りこんで、奈々川お嬢様と結婚したの?」
 受付嬢が感心して笑い出した。

「ああ」
「俺も参戦したぜ」
 田場さんだ。
 着替えのためにロッカールームへと行くと、島田が着替えを済まして今出るところだった。
「夜っ鶴―! 楽しかったなー!」
「ああ」
 私はB区の連中がひしめき合うロッカーで着替える。勿論、S&W500はズボンのホルスターの中にある。島田も武器を携帯している。
 何だかんだで、私たちの活躍の一部は云話事町TVで放送されて、世間を騒がしているようだ。藤元も関係者になっている。

 これがA区の底力なのだ。

 B区にいる田場さんと津田沼の力も借りたけれど。
 後はハイブラウシティ・Bだけだ。でも、きっと……そう、きっとだ。きっと、なんとかなる。
 作業中もロッカールームでもB区の連中は大人しかった。

 
 休憩時間。
「夜っちゃん。ほんと凄いよねー俺たち。後はハイブラウシティ・Bを止めさせれば今まで通りに労働も出来ていつもの生活だ。でも、新聞によると今だにハイブラウシティ・Bは進行中ってあるし。きっと、奈々川首相たちは諦めていないようだね」
 津田沼が日の丸弁当片手に隣の席に着く。
「ああ」
 私は晴美さんが買ってくれた愛妻コンビニ弁当を食す。
「そんなことねーって! オラー、B区の奴ら俺が相手だー! 一人残らず始末してやんぞーー!!」
 島田は銃を抜いて、立ち上がった。
 B区の連中は大人しい。
「島ちゃん。どうどうだよ」
 津田沼が島田の暴走を丸く収める。

「確か国会には反対勢力もあるって?」
 プチロールキャベツを頬張りながらの私の問いに、津田沼は日の丸弁当の梅干を摘み。
「ああ。そうさ、夜っちゃん。ハイブラウシティ・Bは強引かつ効率的で金儲けができる企画だけれど、やっぱり新しいものは、出る杭は打たれるのさ。政治家たちには、ただそんだけだけど、俺たちにとっては儲けものだよ。奴らは支持率を気にして、俺たちは生活を気にする。そんだけさ。結構今のところは共存しているでしょ?」
「ああ。確かに経済的にはハイブラウシティ・Bの方がいいに決まっている……。けれど、俺たちの生活がかかっているんだ。何とかその勢いに乗じてハイブラウシティ・Bをなくさないと」
 突然、島田が首を傾げる。

「夜鶴。気がついんだけどさ。それって、短い期間だけじゃね?」
「……ああ。確かに」
「驚いた。島ちゃん……賢い。その通りだよ。ハイブラウシティ・B自体はなくせないのさ。俺たちがどう頑張っても……。きっと、次の案ではこうしよう、次の案ではああしよう、ってなるんだ」
 私と津田沼は唸った。

「それじゃあ。意味なくね?」
 島田も唸る。
「うーん。……何とか全面的にハイブラウシティ・Bを止めさせることは……出来ないだろうか?」


 私は不安な心をどうにかしないといけないと考え出した。
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