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結婚式

35話

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 再び目を開けると、田場さんの車の中だった。
 仕事の時に見た時がある。黒のジープだ。
「お、起きたぞ。夜鶴。俺の事解るか?」
「……う…………」
 私はまだ朦朧としているようだ。

「田場さん! 病院はまだかよー?!」
「もうすぐだ!」
 運転席の田場さんはかなりのスピードで走る。
「夜鶴! 死ぬなよ!」
 島田の真剣な顔は珍しかった。


「おはようございます。B区云話事町放送です。昨夜起きた云話事町中央警察署の脱走事件は、今現在ノウハウが数体がかりで捜索し……。続きまして、今日の天気は……」
 テレビの音声で病院のベットから目を覚ました。
 朝の陽ざしが顔に当たる。

「ここは……B区だ」
 私はそう呟いた……。
「夜鶴くん……目を覚ましたのね。あなた。起きたわよ」
 弥生の声で横を見ると、島田が隣でコーヒーを飲むところだった。
「おお! 起きた!」
 島田の足元にはスケッシーが尻尾を振っていた。
「奈々川さんは?」
 すると、弥生が下を向き、
「……」
「?」
「一週間後。矢多部 雷蔵と結婚式を挙げるって……」
 私は眩暈の酷い頭で起き上がった。
 上半身だけ何とか起き上がる。

「夜鶴くん、気の毒に……」
 弥生が心配な表情でコーヒーを私に渡そうとした。
 だが、私は島田の持っているベレッタを握る。
「まだ、寝ていろ。俺が何とかするよ!! 今から矢多辺を殺しに行ってやる!!」
 島田は不敵な笑みでギラギラとした目をして叫んだ。
「島田。俺も連れて行ってくれ……。田場さんと津田沼は?」
「しょうがねえな。今、田場さんは武器の調達。津田沼は弾薬や弾丸の調達さ。ノウハウにかなりの弾を使っちまって。すっからかんだ」
 私は頭の包帯を取り外し、
「ノウハウはそんなに頑丈なのか?」
 島田はコーヒーを一口飲んで、
「ああ、あいつら以外に硬いんだ。結構……弾を使ったな」
「…………ハローポイント……」
「?」
 私はスケッシーの頭を撫でた。


 田場さんの車の中、助手席に私は座っている。私は島田から借りた一丁のグロックに、ハローポイントを詰めた。殺傷力が高く。貫通性も強い。これならばノウハウの体を破壊出来るはずだ。
 そして、行先は首相官邸だ。
「なあ、多分だが。首相官邸にもノウハウがたくさんいるんだろう?」
 田場さんだ。
「ええ。きっといるはずです……」
 私は頭を二三回振った。眩暈が少し出てきていた。入院はまだ2・3週間あるのだが、途中で抜け出してきたのだ。

「夜っちゃん。実は、留置所のノウハウが強すぎて……俺たち命からがらだったんだ」
 津田沼が静かに言った。
「大丈夫だって。俺にかなったら、い・ち・こ・ろ・さ。何たって、新品の弾丸は一昨日の三倍さ。ノウハウがどんなに硬くても俺たちの弾丸の雨霰で何とかなるぜ」
 島田は不敵な表情をした。ジープの荷台にはこれでもかという弾丸の多さが目立った。
「夜鶴くんの持っているハローポイントなら、何とかなるかも知れないしな」
 田場さんは運転席で前方を見つめる。
 もうそろそろ首相官邸だ。
「本当にやるの? 夜っちゃん。矢多部を殺して奈々川 晴美さんを連れ出して、そのまま結婚なんて?」
 津田沼は声を低くして後部座席から、私を見つめる。その青ざめた表情は生存率が低い確率を気にしている顔だ。

「ああ、何とかなるさ。弾丸を全部使ってしまうことを考えないとな」
「うっひょー! 最高な……スーリール! だぜーーー!!」
 島田は車の中で腕を振り回し大喜びだ。

 
 首相官邸
 伝統を重んじる広大な日本家屋には所々、煙が立っていた。
 辺りに銃撃戦の発砲音が鳴り響く。それも一つや二つ、飛んで四つではない。連続する発砲音は数えることが馬鹿馬鹿しいほどだ。
「おらおらーー! 谷多部はどこだーーー!」
 新製品のサブマシンガンを乱射している島田だ。
 武装したノウハウが数十体も屋敷に警備をしていたのだ。
 マシンガンとハンドガンを持っていた。

 地面には警備員と背広の人の死体が何十人と横になっていた。私たちの乱入に血相変えて、床に沈んだ。
 私はベレッタでノウハウの頭部を狙い撃つ。
 一撃で青い火花が飛ぶ。
 私たちはみんなで固まって、周囲に発砲しながら長い廊下を歩いていた。
「夜っちゃん! 早いとこ晴美さんを見つけないと!」
 津田沼も歩きながらサブマシンガンで撃ちまくり、警告してきた。そう、弾丸の数には限りがあるのだ。
 田場さんはフルオート式ライフルを装備し、警備員とノウハウを狙い撃ち、
「夜鶴くん! 早く!」
 ノウハウは無言で撃ってくる。
 せせこましい廊下を四人で歩きながら、銃撃戦をしていると、突き当りに出くわす。

「どうやらここらしい……」
 日本家屋には似合わない造り、西洋式の部屋にネームプレートがあった。晴美だ。
「奈々川さん。俺だ。開けるよ」
 私は眩暈がしている頭でドアを開ける。 
 中は、白で統一されていた。

 端にはベビーカー、それと、白いシングルベット。白い机とイス。教科書と漫画がたくさんある棚。
 4LDKくらいの大きさで冷蔵庫とトイレがあるが、キッチンがない部屋だ。
「夜鶴さん。ここは私の産まれたところです……」
 部屋の奥には奈々川さんが机に俯ぶせし、弱い口調で話した。目には涙を湛えていた。
「ここは?」
 私はこの部屋で、特別気になったことがある。

 一つは年季の入ったベビーカー。小さい赤ちゃんが使った形跡がある。
 冷蔵庫には黒のマジックペンで、幾つかの横の線がある。それは子供の身長から大人の身長くらいのところだ。
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