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火曜日
9話
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「昨日の云話事町TV。時々曇りだって言ってません?」
今日は火曜日。
奈々川さんとコンビニ前。
「ああ。でも、当たるのかな? 藤元が出る時の天気予報って、正確じゃなくて占いみたいになるから」
前は藤元がでない時は普通の天気予報で正確だったのだ。
私は緊張する顔で銃をズボンのホルスターに入れて、島田のゴミと自分のゴミを捨てるところでもある。
当然、両手は塞がっているが、危険な時にはゴミを素早く降ろして、銃を抜ける自信がある。そういえば、私の射撃経験は高校時代からだ。近くの射撃場で遊んでいた。人を撃った経験もある。サラリーマン時代に、通勤途中でA区の酔っぱらいが絡んできた時に発砲し、致命傷を負わせた。
「うーん。洗濯物があるしなー?」
「うん?」
「ねえ、少し歩きましょうよ。一緒に」
「ああ」
私はその提案にのぼせそうな頭と顔をしている。ゴミをさっさと捨ててから緊張した足取りでついて行った。
「どこまで行くんだ?」
奈々川さんは微笑み。
「どこか、遠いところで安全なところですよ。私の秘密を知っている夜鶴さんのことをもっとよく知りたいんです」
弾む息の奈々川さんの声。
空気はすっきりとしている。空は雲が少し多いけど晴れ間が見える。
(そういえば、弥生も知っているのだよな。奈々川さんがあの総理大臣の娘だってこと、俺だけじゃないんだ……)
私は奈々川さんがB区の連中に見つかったら、この近辺が現実に火の海になりかねないことを、もう少し深刻に考えたほうがよかったのだろうか?
でも、私は奈々川さんともっと知り合え、互いに笑って話しかけて、そんな関係になりたいと心の底から願っていた。それが、今、叶ったのだ。
「あの。チャーシューメンからお肉を全部取ったら、何て名前になるんですか?」
奈々川さんが話しかけてくれる。
近所のラーメンショップを横切るところだ。
「はあ。多分、ただのラーメン」
緊張をするが、そして胸がドキドキするが、私はこの時のことをいつまでも大切にしたい。
奈々川さんの目元のホクロが見える。奈々川さんの髪のシャンプーの匂いが嗅げる。
「メン。じゃなくて?」
「恐らく」
「ねえ、夜鶴さん。お友達とかいるんですか?」
「ああ、島田って名だ。俺がB区でリストラになって、A区に来たときに暴漢と争っていたんだ。その時に助けに入ったら友達になった。けっこういい奴さ」
奈々川さんが優しく微笑む。
「へえ。夜鶴さんってB区にいたんですか」
あの時は何故、島田を助けたのだろうか? 今でも解らない……。
「実はB区の一等地の云話事ベットタウンで育ったんだよ。おやじもサラリーマンをしてて……。今じゃ俺のこときっと心配しているんだろうな。リストラの違約金を払って一文なしなんだから」
奈々川さんが俯いた。。
「父のせいかも知れないわね。ごめんなさいね。私の父はB区の発展にしか興味を持たない選挙の亡者なの。でも、厳しいところもあるけど優しいところも持っているの。だから、私から謝ります」
A区から選挙権を奪うと、B区を住み心地よくしなければ、選挙で生き抜いていけないのも事実である。鬼のような政治だが選挙で戦うのなら現実的な方法だし。大規模な都市開発。今現在の都市開発プロジェクトも、B区だけを発展させる方が選挙活動をするのには、はるかに有利だろう。日本のためと頑張っているだけなのだろうか? 任期は廃止され、その代わり選挙存続期間というのがある。選挙で選ばれ続ければ何十年もいられるのだ。
私は首を振って、
「いいのさ。会社を首になったのは俺が悪いところがあるし。違約金は確か老後に貰えるんだったよね?」
そう。違約金のメリットはそのお金を少しだが老後に貰えることだ。けれど、違約金の大半はB区に吸収されてしまう。非常に厳しい社会になったことは解るが……。
「ええ、そうです」
近所から離れて云話事町の第三公園に歩を進める。遊歩道を歩いて10分足らずだ。
「父はやっぱり優しいところがあるって解って下さいますか?」
奈々川さんが顔を少しだけ綻ばせる。きっと、その優しい心に父親がいるのだろう。
「ええ、まあ」
私は曖昧な言葉を選んだ。
奈々川さんが少し考える表情をした。
第三公園に着くと、子供たちのはしゃぎ声が木霊する。
公園はブランコや滑り台はないが、広い砂場があった。
子供たちは砂場で何かの「ごっこ」をしている。
「俺はB区の金持ちだ!」
「俺はB区の大富豪だ!」
「あたしはB区の総理大臣の娘だ!」
子供心にはA区とB区の悲惨な関係は当然解らない。
「場所変えようか?」
「いいの。ここが、安全だから子供たちが遊んでいるんです」
奈々川さんが、子供のはしゃぎようを眺められるベンチに座る。その隣に私が座る。
「B区とA区の関係が深刻化しているのは解ります。でも、私は自由を掴みたいのです。きっと、夜鶴さんも……。私に気があってくださいますよね。顔を見れば解ります。私、一度見た時あるから……でも、夜鶴さんは違う」
「見た時。って、フィアンセのこと?」
彼女は俯き。
「……ええ」
今日は火曜日。
奈々川さんとコンビニ前。
「ああ。でも、当たるのかな? 藤元が出る時の天気予報って、正確じゃなくて占いみたいになるから」
前は藤元がでない時は普通の天気予報で正確だったのだ。
私は緊張する顔で銃をズボンのホルスターに入れて、島田のゴミと自分のゴミを捨てるところでもある。
当然、両手は塞がっているが、危険な時にはゴミを素早く降ろして、銃を抜ける自信がある。そういえば、私の射撃経験は高校時代からだ。近くの射撃場で遊んでいた。人を撃った経験もある。サラリーマン時代に、通勤途中でA区の酔っぱらいが絡んできた時に発砲し、致命傷を負わせた。
「うーん。洗濯物があるしなー?」
「うん?」
「ねえ、少し歩きましょうよ。一緒に」
「ああ」
私はその提案にのぼせそうな頭と顔をしている。ゴミをさっさと捨ててから緊張した足取りでついて行った。
「どこまで行くんだ?」
奈々川さんは微笑み。
「どこか、遠いところで安全なところですよ。私の秘密を知っている夜鶴さんのことをもっとよく知りたいんです」
弾む息の奈々川さんの声。
空気はすっきりとしている。空は雲が少し多いけど晴れ間が見える。
(そういえば、弥生も知っているのだよな。奈々川さんがあの総理大臣の娘だってこと、俺だけじゃないんだ……)
私は奈々川さんがB区の連中に見つかったら、この近辺が現実に火の海になりかねないことを、もう少し深刻に考えたほうがよかったのだろうか?
でも、私は奈々川さんともっと知り合え、互いに笑って話しかけて、そんな関係になりたいと心の底から願っていた。それが、今、叶ったのだ。
「あの。チャーシューメンからお肉を全部取ったら、何て名前になるんですか?」
奈々川さんが話しかけてくれる。
近所のラーメンショップを横切るところだ。
「はあ。多分、ただのラーメン」
緊張をするが、そして胸がドキドキするが、私はこの時のことをいつまでも大切にしたい。
奈々川さんの目元のホクロが見える。奈々川さんの髪のシャンプーの匂いが嗅げる。
「メン。じゃなくて?」
「恐らく」
「ねえ、夜鶴さん。お友達とかいるんですか?」
「ああ、島田って名だ。俺がB区でリストラになって、A区に来たときに暴漢と争っていたんだ。その時に助けに入ったら友達になった。けっこういい奴さ」
奈々川さんが優しく微笑む。
「へえ。夜鶴さんってB区にいたんですか」
あの時は何故、島田を助けたのだろうか? 今でも解らない……。
「実はB区の一等地の云話事ベットタウンで育ったんだよ。おやじもサラリーマンをしてて……。今じゃ俺のこときっと心配しているんだろうな。リストラの違約金を払って一文なしなんだから」
奈々川さんが俯いた。。
「父のせいかも知れないわね。ごめんなさいね。私の父はB区の発展にしか興味を持たない選挙の亡者なの。でも、厳しいところもあるけど優しいところも持っているの。だから、私から謝ります」
A区から選挙権を奪うと、B区を住み心地よくしなければ、選挙で生き抜いていけないのも事実である。鬼のような政治だが選挙で戦うのなら現実的な方法だし。大規模な都市開発。今現在の都市開発プロジェクトも、B区だけを発展させる方が選挙活動をするのには、はるかに有利だろう。日本のためと頑張っているだけなのだろうか? 任期は廃止され、その代わり選挙存続期間というのがある。選挙で選ばれ続ければ何十年もいられるのだ。
私は首を振って、
「いいのさ。会社を首になったのは俺が悪いところがあるし。違約金は確か老後に貰えるんだったよね?」
そう。違約金のメリットはそのお金を少しだが老後に貰えることだ。けれど、違約金の大半はB区に吸収されてしまう。非常に厳しい社会になったことは解るが……。
「ええ、そうです」
近所から離れて云話事町の第三公園に歩を進める。遊歩道を歩いて10分足らずだ。
「父はやっぱり優しいところがあるって解って下さいますか?」
奈々川さんが顔を少しだけ綻ばせる。きっと、その優しい心に父親がいるのだろう。
「ええ、まあ」
私は曖昧な言葉を選んだ。
奈々川さんが少し考える表情をした。
第三公園に着くと、子供たちのはしゃぎ声が木霊する。
公園はブランコや滑り台はないが、広い砂場があった。
子供たちは砂場で何かの「ごっこ」をしている。
「俺はB区の金持ちだ!」
「俺はB区の大富豪だ!」
「あたしはB区の総理大臣の娘だ!」
子供心にはA区とB区の悲惨な関係は当然解らない。
「場所変えようか?」
「いいの。ここが、安全だから子供たちが遊んでいるんです」
奈々川さんが、子供のはしゃぎようを眺められるベンチに座る。その隣に私が座る。
「B区とA区の関係が深刻化しているのは解ります。でも、私は自由を掴みたいのです。きっと、夜鶴さんも……。私に気があってくださいますよね。顔を見れば解ります。私、一度見た時あるから……でも、夜鶴さんは違う」
「見た時。って、フィアンセのこと?」
彼女は俯き。
「……ええ」
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