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火曜日

7話

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 私はまた火曜に休みをとって、頼まれた島田のゴミをとりに205へ行った。私の顔を見ると、島田の奥さんの弥生は車椅子でキーコキーコとやって来た。

「ねえ、その奈々川って人。今日も会えるの?」

 弥生は興味というより心配の表情が汲み取れる顔をしていた。

「ええ。恐らく……」
「会ってからじゃ遅いから、今言っておくわね。その奈々川さん。名を晴美というんだけど、B区の総理大臣の娘なの……。私、昨日の昼のテレビで観たのよ……。顔はここから窓で確認したわ。B区から捜索願も出てるの。何でも家出してきたそうよ」

 弥生が今度はしっかりとした心配な声をだした。

「え?総理大臣の……」 

 私はB区の総理大臣……このA区だけに税金を課し、A区に強制的にB区をサポートするような政策をし、ひどい治安の悪さにも見向きをせずに。A区の人々に選挙権を奪い。終身雇用契約制度を生み出した。などなど……。
 B区とA区の深刻な格差社会を現わしてしまう政治をした張本人。B区の発展と日本の発展だけに血眼になっている人物だ。

「そんな……」

 私は奈々川さんがそんな人物の血を受け継いでいることを認めたくはなかった。

「でも、取り合えず行ってみてよ。きっと、幻滅するだろうけど。それと……危険を察知したら……銃を抜いてね。きっと、何かがあるわ……」

 弥生が緊迫した顔に不安を浮かばせている。
 弥生も生粋のA区出身の人だった。
 ゴミを受け取り一階に降りると、外は雨が降っていた。急に降り出したようだ。

「ありがとうございましたー。今度はフライドチキンもどうですかー」
 
 今度もコンビニから奈々川さんが出てくるところだった。
 手にコンビニ弁当を携えて、片手に傘をさしている。
 私は携帯した銃の弾薬が湿り気を帯びると、厄介だなと思いながら奈々川さんへと近付いた。

「おはようございます。雨……降っていますよ」

 奈々川さんは傘を私が入るようにと、向けてきた。

「ええ。そうですけど、両手にあるゴミのせいです」

 私は両手に持ったゴミを軽く振った。

「一つ持ってあげられない……ごめんなさい」

 奈々川さんは悲しそうな表情をした。
 こんな人があの総理大臣の娘。
 私の頭は空から降る水滴から守られる。奈々川さんが傘の中に入れてくれたのだ。

「あの」
「うん?」

 奈々川さんは目元のホクロがチャーミングな顔を向けた。まじかで見ると年が私より若く見える。初々しいというのか瑞々しい肌の持ち主だった。

「あの……テレビであなたを見ました。あなたの名前は奈々川 晴美。総理大臣の娘なんですね」
「……」

 奈々川さんは一瞬、凍りついた。けれど、少しの間で笑顔が出来るが……プラスチックのような作り物なのがすぐに解った。

「そうです……。あんな父ですけど、いいところもあるんですよ」
「なんでこんなところへ? ボディガードもつけずに……?」

 笑顔が崩れ、俯いた。

「強引な結婚を要求されたの。好きでもないし。それに……」
「本当にあの総理大臣の娘ならば、ここA区にいるのはまずいのでは?ここには君の父親が税を課したり、住み心地もよくない。正体がバレると命の危険もあるんだ。なのになんで?」

「このA区には税金があるのは知っています。でも、それはB区に税金を課せないためとよく父が言っていました」
「治安が悪いのは? このA区はB区の奴らに食い物にされているじゃないか?」
「それは違います。いつか取り組むと言っていました。治安の方がそれによって凄く良くなって……。A区には田舎の良さだけが残るだろうって、父が言っていました」

 俯きながらも、はきはきと話す奈々川さんを見て、私は考えた。
 私は今まで総理大臣に悪いイメージを抱いていたのだろうか?いや、事実を列挙しただけではないだろうか?

「あの。ここに私がいることを他の人に話さないで下さい。お願いします」

 奈々川さんは顔を上げ、また笑顔を見せるがただ単の作り物だろう。
 私は肩の荷が降りた。
 それならば、彼女がここにいることをB区の連中には隠して、友達や恋人になるチャンスがあるのかもしれなかった……。そんな下心が頭に自然に浮かんでいた。

「ええ、解りました。俺、秘密にします」
「ありがとうございます」
「それと、雨止んだみたいだ……」



 いつの間にか振った雨は、いつの間にか止んでいた。
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