39 / 41
不死の儀
39話
しおりを挟む
「おうちに帰ったら、まずはみんなに話しなさいね。こんなことだもの無理にとはいわないわ。きっと、君のお父さんもお母さんも寝ていたから、何が起きているのかはわからないはずなんだから」
看護婦長が聞こえやすい軽い声を発している。
ぼくは思考を中断して、聞いてみた。
そういえば、ぼくは一人だった。
けれど、死人だけれど大原先生やこの人たちがいるんだ。
「ぼくも死んでいるの?」
村からだいぶ離れてきた。
ただ、闇雲に考えると、小さな疑問が口から出て来た。
「……そう。多分、子供たちの血を飲んだからだ」
村田先生のテープレコーダーは悲しく鳴った。
ぼくも村田先生も体が死んでいた。
傷ついて、裂けて、破損して……。
目の前の駅を通り過ぎた。
よく見ると、利六町の駅だった。
見慣れた景色にホッとしてきた。
利六町も御三増町も死者の街なのかな?
境界線? なんて引っ張ればいいんだ。
でも、疑問が一つあって、死んでいる人か生きている人かまるっきりわからない。
そういば、二部木さんや三部木さんたちの家は知らない。
母さんに聞けばわかるはずだけど……。
車窓越しからことり幼稚園が見えてきた。子供たちははしゃいでは、元気に走り回って、どこか遠い存在だった。
何故かって? ぼくは死んでいる。けど、彼らは生きているんだ。
「もう少しかかるからね」
村田先生の優しいテープレコーダーの声が聞こえ。ぼくは考えを口にした。
「ねえ、村田先生。この街で死者は何人いるの?」
村田先生は少し咳き込み。
「数え切れないほど……。昔の人たちが今も生きているんだ。ああ……死んでいるけどね」
「じゃあ、子供たちを毎日食べているの?」
ぼくは、また悲しい歌を歌おうとしたけど、止めた。だって、もうおしまいだ。街の真相は、多分、全員が犯人。例外? いるにはいるかも知れないけど、あまり意味がないんじゃないかな?
「うーん……。私自身は人は食べない。実は人を食べなくても不死でいられるんだ。何故なら空腹を耐えればいいんだし……死ぬほどつらいけどね」
「ふーん」
いつの間にか、ぼくは滅びの詩を歌っていた……。
稲荷山小学校が見えてきた。
もうすぐ家だ。
久しぶりにおじいちゃんに、幸助おじさんに、亜由美に会える。
ぼくは死んでしまったけど、なんだか元に戻ったみたいだ。
車が裏の畑の砂利道に停車した。
停車と同時に玄関が開いた。
おじいちゃんだ。
幸助おじさんもいる。
こちらに、向かって血相変えて走って来た。
車の窓からぼくたちのボロボロの姿を見ると、二人とも厳しい顔をした。
「どうして……」
おじいちゃんの言葉は、それだった。
何に対してなのかは、わからない。
信じられないのかな?
不死を知っているのかな?
「この街から出た方がいい」
幸助おじさんが腰に差している真剣なのかな? に手を置いた。
「早くこの街から出るんだ」
村田先生もテープレコーダーの声を鳴らす。
「父さんと母さんは?」
「無事だ。危ないから私が家にしばらくいるから」
幸助おじさんの溝の深い顔から出た言葉。
おじいちゃんは、今まで考え事をしていたかのような。深い皺を寄せた顔をしていた。
玄関先には、幸助おじさんのための刀箱が開いていて、おじいちゃんがタオルを持って来てくれた。
「何も言わなくていいからね」
おじいちゃんはいつものように優しかった。
傷ついた僕の体を白いタオルで撫でるように拭きながら、耳元で囁いていた。
ところどころから、穴が開いて血も流れている。
そんなぼくにおじいちゃんは、目を瞬かせた。
やっぱり、おじいちゃんは知っているんだ。
この街のことを……。
村田先生たちが車で帰る音と同時に、幸助おじさんが来た。何かしら? 幸助おじさんの背中からオーラのようなものが発せられていた。
殺気っていうのかな?
確か幸助おじさんは、隣町の道場で師範をする前に、あちこちで武者修行をして免許皆伝という名を貰ったと、遥か昔に聞いた。
二部木さんや三部木さん。四部木さんに五部木さんと六部木さん。後は、一番初めに生まれた一部木? さんもきっと、今頃は何かよくないことを考えているはず。二部木さんたちの両親はどうなのだろう?
こんな時だから幸助おじさんがいてくれて助かった。
「おじいちゃん。亜由美は?」
おじいちゃんは首を傾げて、
「はて、昼間から。二階に上がったまま降りてこないな」
「え!?」
ぼくは嫌な予感を覚えて、二階へ駆けていく。幸助おじさんも物凄い無駄のない動作でぼくの後を追った。
亜由美の部屋のドアを開けると、机で本を読んでいる亜由美がこちらを睨んだ。
ぼくはホッとして、亜由美に謝った。
事件は街全体っているけど、何が起きるのかとんとわからない。
幸助おじさんが、ホッと安心の息を吐いて一階に降りて行った。
ぼくはこの時に、すごく大事なことを思い出した。今までの悪夢のせいでよく覚えていなかったけれど、急に浮上してくる疑問がある。
「亜由美。数日前の裏の畑で、ぼくたちが遊んでいた時。誰かぼくたちを見てなかった?」
亜由美はめんどくさそうに、本を置いて、白いルーズリーフの紙を取り出した。
ぼくは勢いでルーズリーフを覗くと、綺麗な字で「田中さん」と書いてあった。
「じゃあ、二部木さんたちが犯人か……」
亜由美は首を振り、めんどくさそうに、またペンを持ち出し、「もう一人の田中さん」と書いた。
看護婦長が聞こえやすい軽い声を発している。
ぼくは思考を中断して、聞いてみた。
そういえば、ぼくは一人だった。
けれど、死人だけれど大原先生やこの人たちがいるんだ。
「ぼくも死んでいるの?」
村からだいぶ離れてきた。
ただ、闇雲に考えると、小さな疑問が口から出て来た。
「……そう。多分、子供たちの血を飲んだからだ」
村田先生のテープレコーダーは悲しく鳴った。
ぼくも村田先生も体が死んでいた。
傷ついて、裂けて、破損して……。
目の前の駅を通り過ぎた。
よく見ると、利六町の駅だった。
見慣れた景色にホッとしてきた。
利六町も御三増町も死者の街なのかな?
境界線? なんて引っ張ればいいんだ。
でも、疑問が一つあって、死んでいる人か生きている人かまるっきりわからない。
そういば、二部木さんや三部木さんたちの家は知らない。
母さんに聞けばわかるはずだけど……。
車窓越しからことり幼稚園が見えてきた。子供たちははしゃいでは、元気に走り回って、どこか遠い存在だった。
何故かって? ぼくは死んでいる。けど、彼らは生きているんだ。
「もう少しかかるからね」
村田先生の優しいテープレコーダーの声が聞こえ。ぼくは考えを口にした。
「ねえ、村田先生。この街で死者は何人いるの?」
村田先生は少し咳き込み。
「数え切れないほど……。昔の人たちが今も生きているんだ。ああ……死んでいるけどね」
「じゃあ、子供たちを毎日食べているの?」
ぼくは、また悲しい歌を歌おうとしたけど、止めた。だって、もうおしまいだ。街の真相は、多分、全員が犯人。例外? いるにはいるかも知れないけど、あまり意味がないんじゃないかな?
「うーん……。私自身は人は食べない。実は人を食べなくても不死でいられるんだ。何故なら空腹を耐えればいいんだし……死ぬほどつらいけどね」
「ふーん」
いつの間にか、ぼくは滅びの詩を歌っていた……。
稲荷山小学校が見えてきた。
もうすぐ家だ。
久しぶりにおじいちゃんに、幸助おじさんに、亜由美に会える。
ぼくは死んでしまったけど、なんだか元に戻ったみたいだ。
車が裏の畑の砂利道に停車した。
停車と同時に玄関が開いた。
おじいちゃんだ。
幸助おじさんもいる。
こちらに、向かって血相変えて走って来た。
車の窓からぼくたちのボロボロの姿を見ると、二人とも厳しい顔をした。
「どうして……」
おじいちゃんの言葉は、それだった。
何に対してなのかは、わからない。
信じられないのかな?
不死を知っているのかな?
「この街から出た方がいい」
幸助おじさんが腰に差している真剣なのかな? に手を置いた。
「早くこの街から出るんだ」
村田先生もテープレコーダーの声を鳴らす。
「父さんと母さんは?」
「無事だ。危ないから私が家にしばらくいるから」
幸助おじさんの溝の深い顔から出た言葉。
おじいちゃんは、今まで考え事をしていたかのような。深い皺を寄せた顔をしていた。
玄関先には、幸助おじさんのための刀箱が開いていて、おじいちゃんがタオルを持って来てくれた。
「何も言わなくていいからね」
おじいちゃんはいつものように優しかった。
傷ついた僕の体を白いタオルで撫でるように拭きながら、耳元で囁いていた。
ところどころから、穴が開いて血も流れている。
そんなぼくにおじいちゃんは、目を瞬かせた。
やっぱり、おじいちゃんは知っているんだ。
この街のことを……。
村田先生たちが車で帰る音と同時に、幸助おじさんが来た。何かしら? 幸助おじさんの背中からオーラのようなものが発せられていた。
殺気っていうのかな?
確か幸助おじさんは、隣町の道場で師範をする前に、あちこちで武者修行をして免許皆伝という名を貰ったと、遥か昔に聞いた。
二部木さんや三部木さん。四部木さんに五部木さんと六部木さん。後は、一番初めに生まれた一部木? さんもきっと、今頃は何かよくないことを考えているはず。二部木さんたちの両親はどうなのだろう?
こんな時だから幸助おじさんがいてくれて助かった。
「おじいちゃん。亜由美は?」
おじいちゃんは首を傾げて、
「はて、昼間から。二階に上がったまま降りてこないな」
「え!?」
ぼくは嫌な予感を覚えて、二階へ駆けていく。幸助おじさんも物凄い無駄のない動作でぼくの後を追った。
亜由美の部屋のドアを開けると、机で本を読んでいる亜由美がこちらを睨んだ。
ぼくはホッとして、亜由美に謝った。
事件は街全体っているけど、何が起きるのかとんとわからない。
幸助おじさんが、ホッと安心の息を吐いて一階に降りて行った。
ぼくはこの時に、すごく大事なことを思い出した。今までの悪夢のせいでよく覚えていなかったけれど、急に浮上してくる疑問がある。
「亜由美。数日前の裏の畑で、ぼくたちが遊んでいた時。誰かぼくたちを見てなかった?」
亜由美はめんどくさそうに、本を置いて、白いルーズリーフの紙を取り出した。
ぼくは勢いでルーズリーフを覗くと、綺麗な字で「田中さん」と書いてあった。
「じゃあ、二部木さんたちが犯人か……」
亜由美は首を振り、めんどくさそうに、またペンを持ち出し、「もう一人の田中さん」と書いた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
「鏡像のイデア」 難解な推理小説
葉羽
ミステリー
豪邸に一人暮らしする天才高校生、神藤葉羽(しんどう はね)。幼馴染の望月彩由美との平穏な日常は、一枚の奇妙な鏡によって破られる。鏡に映る自分は、確かに自分自身なのに、どこか異質な存在感を放っていた。やがて葉羽は、鏡像と現実が融合する禁断の現象、「鏡像融合」に巻き込まれていく。時を同じくして街では異形の存在が目撃され、空間に歪みが生じ始める。鏡像、異次元、そして幼馴染の少女。複雑に絡み合う謎を解き明かそうとする葉羽の前に、想像を絶する恐怖が待ち受けていた。
残響鎮魂歌(レクイエム)
葉羽
ミステリー
天才高校生、神藤葉羽は幼馴染の望月彩由美と共に、古びた豪邸で起きた奇妙な心臓発作死の謎に挑む。被害者には外傷がなく、現場にはただ古いレコード盤が残されていた。葉羽が調査を進めるにつれ、豪邸の過去と「時間音響学」という謎めいた技術が浮かび上がる。不可解な現象と幻聴に悩まされる中、葉羽は過去の惨劇と現代の死が共鳴していることに気づく。音に潜む恐怖と、記憶の迷宮が彼を戦慄の真実へと導く。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ザイニンタチノマツロ
板倉恭司
ミステリー
前科者、覚醒剤中毒者、路上格闘家、謎の窓際サラリーマン……社会の底辺にて蠢く四人の人生が、ある連続殺人事件をきっかけに交錯し、変化していくノワール群像劇です。犯罪に関する描写が多々ありますが、犯罪行為を推奨しているわけではありません。また、時代設定は西暦二〇〇〇年代です。
類稀なる青の果てに
高殿アカリ
ミステリー
茹だるような夏の夕暮れ、僕は紅葉と再会した。
「って、あれ? その袋は何かしら?」
「これから埋めるものだよ」
「ここに?」
「ここに」
「ふぅん。中身は?」
「僕の分身」
「へぇ、思い出とか?」
「かもね」
この日から、僕と紅葉は急速に仲を深めていったのだった。
それはまるで乱気流のように、僕たちの感情を巻き込んで激しく、高く、突き抜けていく毎日だった。
有栖と奉日本『デスペラードをよろしく』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第十話。
『デスペラード』を手に入れたユースティティアは天使との対決に備えて策を考え、準備を整えていく。
一方で、天使もユースティティアを迎え撃ち、目的を果たそうとしていた。
平等に進む時間
確実に進む時間
そして、決戦のときが訪れる。
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(X:@studio_lid)
この私がか!?
日和崎よしな
ミステリー
―あらすじ―
≪この私≫こと日暮匡は、口の悪い女をうっかり殺してしまった。
完璧に隠ぺい工作をしたつもりだったが、後日、厄介な探偵に目を付けられてしまう。
理想の女性との出会いもあり、日暮匡はどんな手段を使ってでも探偵から逃げ切ることを決意する。
どうか1話目で嫌いにならないでください・・・。
―作品について―
どうか1話目で嫌いにならないでください・・・。
全36話、約17万字。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる