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異様
19話
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亜由美は興味なさそうにこくんと頷いた。
藤堂君と篠原君も少し滲むような涙目で頷く。
僕はすぐに学校の方へと引き返して、薄暗い杉林の中に隠れた。実は杉林からは楽に校舎の中へと入れるのだ。
木々や葉っぱに引っ掛からないように音に注意して進む。
ただ、下駄箱のある昇降口にも先生が見張っているはずだから、僕は一番手薄そうな体育館のガラス窓から入った。
古い木の匂いと広さの中で、僕はステージに上がってガランとした体育館全体を見つめた。僕はあの裏の畑での事件以来、一人ぼっちなんだなと思った。
誰も助けてはくれない。
でも、生きているけどバラバラの子供たちを助けるためには、仕方のないことだと自分に言い聞かせた。
さて、これからどうしようか。
一人で学校中を何かあるかと探し回る訳にもいかない。
警察の人や先生にバレるとかなり困る。
そうだ。
まずは用務員室へ行こう。
きっと、何かの手掛かりがあるはずだ。
人気のない校舎を目立たないように、ゆっくりと歩いた。足音を消しているつもりだけど、効果があるのかは解らない。
用務員室は学校の西側に位置し、体育館の反対だ。
窓の外を見ると、警察のパトカーの赤いランプが点滅している。
広いグランドいっぱいにパトカーが数台停まっていた。
心臓がバクバクする。
でも、何故かどこか楽しい時間だ。
僕の空想でも、こんなことは一度も考えたことはなかった。
学校とは連絡通路で繋がっている用務員室には、警察の人たちがたくさんいた。僕は真っ青になって、ひょっとしたら殺人事件が起きたのだろうかと思った。
身を低くして、廊下の窓から覗いていた。
ブルーシートは張ってない。
テレビと違うのかなと思っていると、後ろ側の西側階段から先生たちが来たみたいだ。大人の大きい足音がしてきた。
僕はすぐ近くの教室に音もなく。といっても、最初からドアが開いていた。教壇の中へと隠れると、先生たちの会話が聞こえて来た。
「置田先生。警察の方たちもいるんで……。あまり言いたくないですけど……。用務員室に大量の血痕があって、壁中に人形の手足があったなんて……。松田さん(用務員のおじさん)はどこへ行ったのでしょう。あの松田さんのことだから、どこかへほっつき歩いているかも知れません。まさか、殺されているなんて、絶対考えたくはないですよね」
話の内容はともかく、声は真壁先生の声だ。
「…………」
しばらく、沈黙の後に、大原先生の声が聞こえて来た。
「村の方ではなくて、何故ここなんでしょう?」
「それは、解りません」
今度の声は校長先生だ。
「これじゃあ、一昔前と同じですが皆さん気をしっかり持ってください」
校長先生が咳払いした。
僕は一通り話を聞いていると、先生たちが用務員室へ向かったので、教室の反対側から足音をたてないように歩いて行った。
見つかるわけにはいかないから、ある程度急いで学校を抜け出さないと、そう思ってじりじりして廊下を歩いていると、いつの間にか1年3組の教室のドアが開いているのに気が付いた。
あれ? 確かに閉まっていると思ったのに。そういえば、ほとんどの教室のドアが開きっぱなしだ。
僕は興味が湧いて、ちょっとだけ教室内を覗いた。
「わ?!」
教壇の上に口を開閉している用務員のおじさんの顔があった。
首から下はない。
僕は心臓がバクバク鳴りだして、吐き気が緩やかに喉元まで漂ってきたけど。ぐっと抑えて、その首へと近づいた。
用務員のおじさんは目はしっかりと開いている。
口を開閉しているけれど、何も言わなかった。
その目は僕を見てはいない。
そう、視界に入っていないみたいだ。
「大丈夫?」
そう呼びかけても用務員のおじさんは、口を開閉しているだけで、視線もあらぬところを見ていた。
そうだ。この首を持って、警察の人のところへ行こう。
多分、ちょっと怒られるくらいで済むだろう。
僕は用務員のおじさんの首を持った。
それは想像以上に重かったが、ぐらつきながら両手で抱えて持ち上げた。
辺りを見回しても、他の体の部位は見当たらない。
藤堂君と篠原君も少し滲むような涙目で頷く。
僕はすぐに学校の方へと引き返して、薄暗い杉林の中に隠れた。実は杉林からは楽に校舎の中へと入れるのだ。
木々や葉っぱに引っ掛からないように音に注意して進む。
ただ、下駄箱のある昇降口にも先生が見張っているはずだから、僕は一番手薄そうな体育館のガラス窓から入った。
古い木の匂いと広さの中で、僕はステージに上がってガランとした体育館全体を見つめた。僕はあの裏の畑での事件以来、一人ぼっちなんだなと思った。
誰も助けてはくれない。
でも、生きているけどバラバラの子供たちを助けるためには、仕方のないことだと自分に言い聞かせた。
さて、これからどうしようか。
一人で学校中を何かあるかと探し回る訳にもいかない。
警察の人や先生にバレるとかなり困る。
そうだ。
まずは用務員室へ行こう。
きっと、何かの手掛かりがあるはずだ。
人気のない校舎を目立たないように、ゆっくりと歩いた。足音を消しているつもりだけど、効果があるのかは解らない。
用務員室は学校の西側に位置し、体育館の反対だ。
窓の外を見ると、警察のパトカーの赤いランプが点滅している。
広いグランドいっぱいにパトカーが数台停まっていた。
心臓がバクバクする。
でも、何故かどこか楽しい時間だ。
僕の空想でも、こんなことは一度も考えたことはなかった。
学校とは連絡通路で繋がっている用務員室には、警察の人たちがたくさんいた。僕は真っ青になって、ひょっとしたら殺人事件が起きたのだろうかと思った。
身を低くして、廊下の窓から覗いていた。
ブルーシートは張ってない。
テレビと違うのかなと思っていると、後ろ側の西側階段から先生たちが来たみたいだ。大人の大きい足音がしてきた。
僕はすぐ近くの教室に音もなく。といっても、最初からドアが開いていた。教壇の中へと隠れると、先生たちの会話が聞こえて来た。
「置田先生。警察の方たちもいるんで……。あまり言いたくないですけど……。用務員室に大量の血痕があって、壁中に人形の手足があったなんて……。松田さん(用務員のおじさん)はどこへ行ったのでしょう。あの松田さんのことだから、どこかへほっつき歩いているかも知れません。まさか、殺されているなんて、絶対考えたくはないですよね」
話の内容はともかく、声は真壁先生の声だ。
「…………」
しばらく、沈黙の後に、大原先生の声が聞こえて来た。
「村の方ではなくて、何故ここなんでしょう?」
「それは、解りません」
今度の声は校長先生だ。
「これじゃあ、一昔前と同じですが皆さん気をしっかり持ってください」
校長先生が咳払いした。
僕は一通り話を聞いていると、先生たちが用務員室へ向かったので、教室の反対側から足音をたてないように歩いて行った。
見つかるわけにはいかないから、ある程度急いで学校を抜け出さないと、そう思ってじりじりして廊下を歩いていると、いつの間にか1年3組の教室のドアが開いているのに気が付いた。
あれ? 確かに閉まっていると思ったのに。そういえば、ほとんどの教室のドアが開きっぱなしだ。
僕は興味が湧いて、ちょっとだけ教室内を覗いた。
「わ?!」
教壇の上に口を開閉している用務員のおじさんの顔があった。
首から下はない。
僕は心臓がバクバク鳴りだして、吐き気が緩やかに喉元まで漂ってきたけど。ぐっと抑えて、その首へと近づいた。
用務員のおじさんは目はしっかりと開いている。
口を開閉しているけれど、何も言わなかった。
その目は僕を見てはいない。
そう、視界に入っていないみたいだ。
「大丈夫?」
そう呼びかけても用務員のおじさんは、口を開閉しているだけで、視線もあらぬところを見ていた。
そうだ。この首を持って、警察の人のところへ行こう。
多分、ちょっと怒られるくらいで済むだろう。
僕は用務員のおじさんの首を持った。
それは想像以上に重かったが、ぐらつきながら両手で抱えて持ち上げた。
辺りを見回しても、他の体の部位は見当たらない。
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