水の失われた神々

主道 学

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薄屋のミンリン

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 後ろを見ると、ここからでも水淼の大龍の姿がわかる。雲一つない空へと想像を絶する巨大な一本の水色の柱が海水をまき散らし遥か彼方まで伸びていた。

 北龍から聞いたんだけど、ここではよくある景色なんだってさ。だけど、退治しないと東龍や乙姫たちは生存できないんだって北龍が熱心に言う。俺でも龍たちが水が必要なことはわかる。全ての命の脅威は水を失うだけではないっていうし。それもなんとなくわかる気がするんだ。

 だから俺は決意と共に、居合い腰ではなく。雨の村雲の剣を抜刀し仁王立ちをした。水淼の大龍に背を向け。タケルになって、ありったけの気を開放した。今から龍尾返しを放つ。だけど、まだ未完成のはずだ。

 タケルの気が極限まで高まると、四海竜王や魚人たちが脅威を感じたのか、それぞれ水淼の大龍から物凄い勢いで離れていった。いや、正確には俺や海から離れている。北龍と南龍は人間の姿に戻って、竜宮城の城下町まで走っていった。
 西龍も砂浜に上がり必死に海から離れた。ただ東龍だけは俺の傍で興味津々だった。
 
 俺は振りかぶった。
 
 綺麗に弧を描いた刀の切っ先は、正面の海面にズン。と不気味な音と共に見事海水を水平線まで斬った。まるで、海を刀で斬る技のようだけど。
 海面は瞬時に膨張するかのように両側から海水が天へと断末魔のような噴出をしていく。俺は見事大海のど真ん中に巨大な穴を開けた。これが恐ろしい技。幻の剣。はて? 鬼姫さんから教わった龍尾返しってこんな技だったっけ? きっと、タケルが独自に俺に内緒で産み出したのだろう。

 ああ、そうだ。まだ未完成だったからか……。
 大きなな体長300メートルの海蛇やタコ。七色の美しい魚までもが天へと噴出する海水と共に登っていく。
 
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