水の失われた神々

主道 学

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遥かなる海

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 雨風によって濡れた大揺れの操舵室前の甲板の端に、一人のずぶ濡れの男が現れた。
 東龍である。
 人間の姿の美しい東龍は、薄暗い船内に入っていった。

 なにやら人の気配を探っているようだ。
 ここから見ているうちに、はて? 武の船室へと来てしまった。
 
 どうやら寝込みを襲おうとしているらしい。
 ここからではどうしようもないが……。

 武の船室へと入ると、かなり大きなベッドで寝ている武に向かって、東龍は腰に携えた刀を音もなく抜いた。
 けれども、その瞬間に東龍の首筋に抜きがけの一撃が向かった。
   武の危機に刀を抜いたのは隣に寝ていた鬼姫である。
 東龍はすぐさま後方へ飛び逃げようとした。だが、東龍の動きが止まった。同じく武のベッドで寝ていた。蓮姫と湯築が瞬間的に扉越しまで跳躍し、槍を構えていたのだ。
「失敗か……」
 東龍は半ば呆れて刀を床に投げ捨てた。

 ここはモテ男の武の勝利であろう。

 武のベッドには、光姫も高取も寝ている。
 いや、皆武の狭い船室のベッドで寝ていたのだ。

「本当。武の船室で良かったわね」
「ええ、巨大な龍の気で東龍の気配がわかりずらかったのですが、助かりましたね」
  蓮姫の言葉に光姫が相槌をうちながら、起き出して周囲を睨んでいる高取に微笑んだ。
「みんなと寝るなんて……」
  高取にとっては、女全員が憎たらしいのであろうが、湯築も蓮姫も光姫までもまったく気にしていないようだ。

  そんな皆に、東龍は好戦的に微笑んでいた。
「フフッ。やっとお目覚めかい。モテ男さん」
 東龍の好戦的な笑みは今では、ベッドで目覚めた武に向けている。
「卑怯だぞ。寝ている時を狙うなんて、てっ、なんでみんな俺の船室にいるんだ?!」
 武は顔を真っ赤にしながら、目をこすり枕元の神鉄の刀を取りベッドから降りた。
 鬼姫はとうに狭い船室の中央で、抜いた刀を構え呼吸を整えながら、東龍に向かって恐ろしいまでの殺気を向けている。
  だが、東龍は至って平然として微笑みを崩さない。
「なあ、なら今度は俺と正々堂々と戦わないか? モテ男さん?」
「?」
 武は首を傾げるが、神鉄の刀を抜き臨戦態勢である。
「武、その東龍って人! 人間の姿だと弱いわ! 倒すなら今よ!」
高取が周囲を睨むのを止め言い放った。
「そうね。隙だらけだし、やっかいだから、今のうちに殺そう」
 蓮姫も同意し、すぐさま東龍に槍の穂先を向け振りかぶった。
 だが、鬼姫が東龍の胸に向かって、目にも止まらぬ速さで一閃をしていた。が、東龍の体には傷一つつかなかったようだ。
 武の船室には、かなり大きなベッド。木製の机。小さ目な本棚がある。おおよそ八畳間くらいであろう。
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