水の失われた神々

主道 学

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晴れた地

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 何故か巫女姿の高取 里奈は幾つもある朱色の間の一つまで足早に歩いていた。
 途中、湯築も朱色の間の一つに布団で寝ているのをしり目に、真っ先に武のいる場所へ向かっていた。
 
 何やら武は起き出して、周りを探していた。
 そう、麻生を探しているのであろう。
「御目覚めましたか?」
「君は?」
「鬼姫という名です」
 武は再度、周囲を見まわしてから驚いていた。
 ここから見ても、武は真っ青だ。
 きっと、心配しているのだろう。
 決して怪我のせいではなかったのだろう。
 恐らく、麻生は無事なのだから……杞憂に終わるが……。

「俺と同じような年恰好の黒の長髪の女はここにいますか? 名前は麻生 弥生っていうんだけど」
 武の必死さに鬼姫は即座に首を振った。
「え!」
 武は立ち上がろうとしたが、足と腕を怪我していた。
 廊下から複数の巫女が昼餉の準備も忘れて、こちらを覗いていた。
「大丈夫ですか? 後生ですから、しっかり寝ていてください」
 武はそれでも、立ち上がろうとするので、鬼姫は慌てたようだ。
「麻生さんなら無事よ! 大丈夫?!」
 高取である。
 高取は廊下から巫女たちをどかしどかし武の布団まで駆け付けた。
 きっと、ここへ来てから武の麻生を想う心情を察していたのであろう。
 武は高取の巫女姿を見ても、再度立ち上がろうとした。その拍子に腕から鮮血を上げた。
 すぐさま鬼姫は、高取と共に武を押さえつけ、薬箱を用意した。

 武は武道の達人だったが、鬼姫という巫女は不思議と武と同じくらいの年なのだが、あっという間に武を元の布団の中に落ち着かせた。
「君は?」
 武は驚きの眼差しをしたようだ。
 武にとっては、師匠の一人である麻生の父よりも強い人を初めて見たのだろう。
 それもそのはず。この巫女の社で鬼神を祀る鬼姫は一番強いのだ。
 
「落ち着いて聞いてね。あの後、麻生さんと卓登と吹雪は、みんなの家族たちと一緒に学園内にとどまっているの。何故なら危険だったから……なの……そう、ここは危険な場所……龍神を鎮めることや、時には戦う場所なの。そう、母から聞いたわ」
 高取は少し俯きがちだが、武をなんとか落ち着かせようと努力をしてくれていた。
 そう、この神社は遥か昔から竜宮城と深く関わる不思議な神社であった。勿論、龍神を祀り、また鎮めてもいた。雨も降らず。歴史も関係なく。時には……。
「あの龍は?」
 武にその深い傷を負わしたのは、数多の龍であった。
「たんに麻生さんを庇った時に、気を失ったからわからなかった。安心して。あの後、龍から逃げながら私たちは救命具を付けて、海に落ちて渦潮に入ったの。命からがらね……」
「救命具? 渦潮?」
「ええ。渦潮には、空間転移をすることができる不思議な力があるわ。そのことも私の母から聞いたの」
 高取は、武の寝ている布団の横に、ボロボロとなった救命具を指差しながら、淡々と説明している。やはり、不思議な女である。
「武の分は、私が付けた。それに、海に落とすのが大変だった。ちょっとは、軽くなる努力をしてほしい。それと、今では怪我を治すことに専念した方がいいわ。ゆっくり休んでね」
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