水の失われた神々

主道 学

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晴れた地

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 日光に照らされサラサラとした海である。ここが、日本のどこかは私も知らない。だが、不思議な場所というよりは、皆知らないだけなのだろう。飛び魚が至る所で跳ね上がり、救命具を付けた一人の男が海に浮かんでいた。
 空は晴れ渡り、遥か向こうに社がある。

 その神社の名はない。
 遥か昔から日本中から巫女が足を運ぶ社。

 一人の巫女が海の水に手を入れ小魚と戯れていた。年は武と同じであろう。あるいは幾つか下のようでもある。とても可愛いらしい容姿で、黒い長い髪の良く似合った巫女である。名を鬼姫(きき)という。
 そして、鬼姫は遥か向こうの海に浮かぶ救命具を付けた男に気が付いた。
「まさか……」
 鬼姫は、そう独り言を呟いた。

 数刻後

 ここは、神社の最奥。
 朱色の間。
 晴れ渡った空の下。巫女たちが廊下を昼餉の準備に忙しそうに行き来していた。今は昼時で、12時を少し回った頃である。
「その男は?」
 一人の年上の巫女が鬼姫に聞いた。名を蓮姫(れんき)という。海神を祀る巫女である。茶色い長い髪で、背が高い。美しい顔だが、切れ長の目はやや鋭い。
「はい。海に浮かんでおりました」
「へえ……あっちの方?」
「いえいえ、きっとそうではないと思います」
 鬼姫は仏頂面をして、慌ててぶんぶんと首を振った。
 布団で寝ている男は、さっきまで救命具を付けていた山門 武であった。








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