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ブラーの葛藤

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「どうしようどうしようどうしよう」

「ちょっとは落ち着きなよー。どんなに焦ったって、何か変わるわけじゃないでしょ?」

 突然知らされた仕事に、ブラーは動揺し過ぎておかしくなっていた。
 いつもは宥められる立場のアレアも、今は逆にブラーを宥めている。

「だってアルフ様の隣でって……もし怪我させたらどうしよう……きっと私だけじゃ責任取れない……アレアも罰せられる」

「なんでアタシまで罰せられるのさ……というか、そんな弱気だったら成功するものも成功しないよ」

 ブラーに任せられたのは、アルフを守るという至ってシンプルな任務だったが、それにかかるプレッシャーはあまりにも大きい。
 近くに張り付いてアルフの経験を邪魔するわけにもいかないため、絶妙なバランスが必要だ。

「相手は人間なんでしょ? それなら心配することないって。油断しない限りブラーなら大丈夫」

「人間って何してくるか分からない……馬鹿な魔物の方がずっとマシ……」

「もぉー、ネガティブすぎるってー」

 我慢出来なくなったアレアは、ブラーの肩を掴んでグラグラと揺らす。
 ブラーはそれに抵抗することなく、連動するように首をカクカクと動かしていた。

「シャキッとしなって! ほら、こんなアホみたいに長い前髪してるから、ネガティブになっちゃうんだよー。切るよ?」

「ダメ、そんなことしたら一生恨む」

 アレアはどこからかハサミを取り出し、ブラーの伸びた前髪を切ろうとする。
 もし切る事ができたら、かなりスカッとするであろう前髪だ。

 しっかりと身だしなみにこだわっているアレアからしたら、ボサボサ髪で放っておけるブラーの気持ちが分からない。

 ブラーが威圧するように拒否してきたため、イメチェン作戦は不発に終わるが、いつかショートヘアにさせるという目標ができた。

「とにかくさ、ブラーはいつも通りやれば良いと思うよ。アタシも手伝ってあげたいけど、多分無理そうだね」

「……分かった。私も頑張るから、アレアも頑張って」

「ありがとね――あ、これからラズリの部屋に本を返しに行かないと」

 これといった解決法が見つからないまま、この集まりは解散となる。
 しかし、ブラーの緊張もアレアに話したことによって、少しは緩和されたはずだ。


「……怖いなぁ」

 アレアがラズリの部屋に向かった後。
 ブラーは一人で零れるように呟いた。


***************


「ブラー様……? お悩みのようですが、どうかなさいました?」

 部屋を掃除していたルーニーは、いつもと違った様子のブラーに話しかける。
 常に考え事をしているブラーだが、今回は特別とも言えるほど思い悩んでいた。

「……うん。今度の戦いでアルフ様の隣を任されちゃって」

「――凄い! やりましたね! やはりブラー様は私たちとは違います!」

 ブラーの幸運を知ったルーニーは、まるで自分のことかのように喜ぶ。
 メイドとして、ブラーと親交が深いルーニーからしたら、何故ここまで考え込んでいるのか分からない。

 今すぐにでも飛び跳ねたい気分だ。

「アルフ様を実際に見る機会は少ないので、とてもブラー様が羨ましいです」

「……そうだよね。やっぱり前向きに頑張る」

「はい。それがブラー様に取っても一番良いと思います。絶対に上手くいきますよ」

 心配そうなブラーの肩を持って、ルーニーはポジティブに励ます。
 メイドであるルーニーとブラーでは、立場に圧倒的な差があるが、どちらも全く気にするようなことはない。

 ルーニーは、人見知り気質なブラーが気を許している数少ない存在だった。

「……とにかく、アルフ様の装備なんかも用意しないといけない。ルーニーも手伝ってくれる?」

「勿論です。といっても、私は武器や防具の知識がありませんので、運ぶくらいしかできませんけど……」

「大丈夫、ありがとね」

 三日後に備えて、ブラーとルーニーは装備を選び始める。
 この瞬間が、一番楽しい時間であった。


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