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次期魔王は魔法を覚える

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 魔王城の窓から、朝の光が廊下を照らす。
 昨日あったブラーの授業の疲れを、しっかりと取ったアルフは、ラズリの部屋の前にいた。

「おはようございます。アルフ様」

「おはようございます、ラズリさん」

 二人は軽い挨拶を交わす。
 仕事で忙しいローズの代わりに、ラズリは魔法を教えることになった。

 魔女のラズリは、当然のごとく魔法が得意分野だ。
 魔法に関してなら、ローズを上回るほどの知識と実力を持っている。

 これ以上優秀な教師はいないだろう。

「私は、アルフ様に魔法を教えるよう命令を受けています。準備はよろしいですね?」

「は、はい。お手柔らかに……」

 ラズリは手馴れたように作業を進めた。
急ピッチで用意したとは思えないような進行である。
 普段から部下などの教育係を任されているせいか、ブラーほど緊張している様子はない。

「そうですね。魔法にも難易度がありますが、まずは初級から覚えましょうか」

「初級……ですか?」

「はい。初級ですと、人間でも使うことができるレベルです。試しにやってみましょう」

 ラズリの授業は、かなりのスピードで進む。
 時間が少ないというのもあるが、早くアルフの成長を見たいというのが大きな要因だった。

 そして、いつの間にか、実戦形式の授業に昇華してしまっている。

「手をこうして、体の中から吐き出すように――」

「――うわっ!」

 アルフの手から鋭い風が暴発した。
 ラズリの部屋にある本棚から、衝撃によって本が飛び出す。
 初めて使ったにも関わらず、威力は並の人間を完全に超えていた。

「出来ましたね、その感覚です。手応えはどうでしたか?」

「は、初めてだったけど、何か掴めたような気がします!」

「フフ、それは良かったです。初めてでこのような魔法を使えるって、本当に凄いことなんですよ」

「そ、それじゃあ母は」

「ローズ様はいきなり即死魔法が使えたらしいです」

「な、なるほど……」

 どうやら、アルフがローズを超えるのはまだまだ先になりそうだ。
 ローズの話になると、アルフの才能も霞んで見えてしまう。

 人間が何年もかけて覚える魔法を、見よう見まねで成功することくらいでは到底追いつけない。

「それじゃあ続きを……と思いましたが、やっぱり一旦休みましょう」

「あ、はい! ありがとうございます!」

 流れるように次の魔法を教え込もうとしていたラズリだったが、頭を冷やすために一歩立ち止まる。
 魔法について話し始めたラズリは、アレアやブラーだろうと止めることはできない。

 今回は、アルフの息が切れているのを見たことによって、何とか踏みとどまることができた。

「どうぞ座ってください、散らかってしまいましたけど」

 ラズリは、木製の椅子をアルフの前に出す。
 かなり上質な木で作られており、艶によってアルフの顔を反射していた。
 魔法では得られない座り心地だ。

「少々熱くなってしまいました。何か飲みたいものはありますか?」

「えっと、お任せします」

 ラズリは反省しながら、アルフのために飲み物を選ぶ。
 しかし、ラズリが現在保管している物の大半が酒類であった。
 アルフの成長を妨げてしまう可能性もあるため、当然このような物は出せない。

 アルフと酒を交えて語り合うのは、まだまだ先の未来になりそうだ。

(まずいわね、飲みかけのお酒しかないじゃない。まともなのはコーヒー? アルフ様は飲めるかしら……最悪あそこにあるリンゴを素手で絞ってジュースに――いや、引かれてしまうかもしれないわ)

 ラズリは悩む。
 これ以上アルフを待たせるわけにもいかないが、これといった解決法を思いついた訳でも無い。

 そんな状態で目に入ったのは、アレアが楽しみに取っていた茶葉だった。
 以前にアレアが遊びに来た際、置き忘れてしまったもので、当然まだ未使用である。
 ローズが普段から紅茶を嗜んでいるということもあり、アルフの口にも合うだろう。

 アレアには、アルフの役に立ったと伝えることにした。
 それなら、怒るどころかむしろ喜ぶかもしれない。

「アルフ様、紅茶でよろしいでしょうか?」

「はい! 大丈夫です!」

 やはりラズリの考えは当たっている。
 ラズリは、メイドが紅茶を入れる時の記憶を思い出しながら手を動かしていた。


**************


「この紅茶、美味しいですね」

「ありがとうございます」 

 ラズリが作った紅茶は、どうやらアルフの好みに合っていたようだ。
 おかわりをする勢いでアルフは飲み進めている。

「……何をお話し致しましょうか。アルフ様の気になることがございましたら、何でもおっしゃっていただければ」

「……えっと、母についてなんですけど」

「――! は、はい……」

 話に困ったラズリは、アルフに話題を任せるが、その口から出てきたのはローズに関しての話だった。
 軽いおしゃべりのつもりだったが、ローズのことになると、真面目に答えざるを得ない。
 尋問される囚人のような雰囲気である。

「母ってどれくらい強いんですか?」

「それはですね――」

 その後は、ローズの強さを語ることによって、授業の時間の大半を使うことになってしまう。
 魔法の話は何とか踏みとどまることができたものの、ローズの話だけは永遠に続くことになった。


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