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第五章
守り守られ
しおりを挟む「そう言えばよぉ、移動中に角をぶんどって来たけど、これじゃ駄目だよな」
そう言ったベルンの手には、小さなユニコーンの角が握られていた。
その角はベルンの手にすっぽりと収まっている。
同時にベルンの手の小ささも感じ取れたが、今はそんなことは問題ではない。
「え!? どうやって取ったんですか!?」
「だから移動中にユニコーンがいたんだって。反射的にボキッと――な。でもこれじゃ小さすぎるか」
ベルンは口で説明するものの、ジェニーには理解しがたい事実だ。
ジェニーは移動中、目も開けていられないほどだった。
風の抵抗を受けないようにしていてこれなので、前で仁王立ちしていたベルンには、もっと強い力がかかっていただろう。
そんな中でベルンはユニコーンを発見し、角をぶんどったという。
ジェニーは無意識のうちに拍手していた。
ベルンはそれに照れるようにしている。
「うーん。アルフス様には相応しくねえし、ジェニーにやるよ。それでも加工すれば、まあまあの装備になるぜ」
「え? いいんですか?」
ベルンからジェニーの手にユニコーンの角が手渡される。
やはりユニコーンの角と言うだけあって、見るだけで素晴らしいということが分かった。
小さくても高レアリティだ。
かつて訪問した人間界では、これだけで城が建つほどの価値は間違いなくある。
「さ、任務はこれからだぜ。それの十倍の大きさは欲しいな。あ、やっぱり、角は俺様が持っといてやるよ」
どうやら角はベルンが管理するようだ。
ジェニーとしても、貴重なアイテムを持っていると、そちらに意識が向いてしまうので、とてもありがたい提案だった。
「じゃあ、お願いします」
ベルンはジェニーの意を確認すると、メドゥーサらしい蛇の髪をジェニーの方へ近づける。
怖くてなかなか見る機会は無かったが、近くで見てみると、とても白い美しさを持った細い蛇だった。
少しの間だけ、美しい蛇の髪に見蕩れてしまう。
時間が経ち、我に返ったジェニーは、あわてて蛇に角を預ける。
ジェニーが角を差し出すその様は、献上と言い表した方がいいほどに緊張していた。
これもまた無意識のうちに頭を下げてしまっている。
蛇はそんなジェニーの様子などつゆ知らず、両手で差し出されたユニコーンの角を大きな口で掴むと、ベルンの手元へ持っていく。
「よっし! じゃ、離れず付いてこいよ。もしはぐれたら命の保証はねぇぞ」
「ひぇぇぇ! ま、待ってくださいよぉ……」
ジェニーは、どんどんと先に進むベルンを追いかける。
今回はアルフスもおらず、頼りの綱がベルンのみであるため、ジェニーも必死だった。
ベルンの左隣に追いつくと同時に、ジェニーはベルンの左手にギュッとしがみつきながら歩く。
ひとまず、これである程度は安心だ。
迷惑かとも思ったが、ベルンは特に気にしている様子もないので、このまま甘えさせてもらうことになるはずである。
「おいおい、そんな怯えるなよ。強くなれねえぞ?」
「す、すみません……。危険な場所に行く時は、いつもアルフス様がいてくれたので……」
ジェニーはアテムの森での出来事を思い出す。
あの時は絶対なる支配者アルフスと、仲のいい最強召喚士カトレアがいた。
命の危険を感じずに旅を出来たのは、二人の存在が絶対的に大きかったのだ。
現にカトレアには、戦いの時に助けられている。もしあの時一人だったら、死んでいたかもしれなかった。
「ハハハ、アルフス様に比べられちゃあ、いくら俺様でも勝てねえな。あれだけ頼りになる御方はいないぜ」
でもよぉ――と、ベルンは続ける。
「逆なんだぜ、ジェニー。アルフス様が俺たちを守るんじゃなくて、俺たちがアルフス様を守らないといけねえんだ。たとえ命に変えてもな」
ベルンの顔はさっきまでと違う。
真面目な目、そして少しだけ悔しそうな表情が読み取れた。まるで過去にあったことを後悔しているような顔だ。
ジェニーはハッとさせられる。
自分は守られすぎていた。本来なら逆なはずなのに。
アルフスのためなら命だっていくらでも差し出せる。しかし差し出すだけでは意味がない。
役に立って初めて意味があるのだ。
未知の敵、未知の場所で怯えているようでは、アルフスの役になど到底立てないだろう。
ましてや、アルフスの手を煩わせるかもしれない。
そんなのは嫌だ、心からそう思えた。
「ごめんなさい、ベルンさん。私が間違えていました」
ジェニーはベルンの左手から手を離す。
このままでは、ベルン――もといアルフスの足でまといでしかない。
ディストピアの下僕として相応しくなるため――ジェニーは成長するために手を離した。
「いい子だジェニー、見直したぜ。ま、この辺りに敵がいないのは索敵スキルで分かってるんだけどな」
「台無しにしないでください!」
これで、ジェニーの今日一番の大声記録が更新された。
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