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第四章

番外編 おいしゃさんごっこ

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「メリルネちゃん、はいこれ」

「え? またですか?」

 メリルネに渡されたのは、エマの持っていた指輪だ。
 何かのアイテムらしいが、それほど貴重な物でもないだろう。
 この指輪を、遊ぶ時以外に使っているのを見たことがない。

「はい、あーん」

「……あーん」

 エマは指輪を二つの指で持って、メリルネの口の前に差し出す。
 それに応えるように、メリルネは口を大きく開く。
 そして、指がメリルネの口の上に位置取りすると、パッとエマは指を離した。

「――んっ」

 勿論指輪は、重力に従ってメリルネの口の中に落ちる。
 メリルネは舌の上にある指輪を確認すると、ゴクリと飲み込んだ。
 少し咳き込んでから、エマに飲み込んだことを報告する。

「よーし。じゃあ、あっちの台の上ね!」

 エマはそう言って、いつも使っている台を指差す。
 メリルネを、スッポリと包み込めるほどの大きさがある長方形の台だ。
 メリルネは慣れた様子で、その台の上に寝転がった。
 寝転がると同時に、着ている服の前ボタンを全部外し、溶けそうに白い上半身を露わにする。
 これで準備は完了である。

「じゃあいくよー! ヴィオラちゃん、メス!」

「どうぞ」

 側に控えていたメイド人形のヴィオラが、差し出したエマの右手にメスを握らせる。
 メスと言うよりは、包丁と言った方が良いほどの刃物だ。
 刃渡りが三十センチメートルある。
 これもまた、手術と言うよりは、調理と言った方が良いのかもしれない。

「手術開始! ぐさー!」

 手術開始の合図で、エマは持っていたメス(包丁)をメリルネの腹部に突き刺す。
 そして、突き刺した箇所から、乱暴に切り開くように刃を移動させる。
 刃が骨に当たり止まりそうになるが、想像以上の切れ味で、骨すら切断していった。

「胃ってどれだったっけ? これ?」

「エマ様、それは腸です。全然違います」

 エマが、メリルネのお腹の中から引っ張り出したのは小腸だった。
 明らかに違う物を引っ張り出されたメリルネは、少しだけ起き上がる形で指摘する。
 この遊びは何回かしたことがあるのだが、ほぼ毎回違った物を引っ張り出されているのだ。

「じゃあこれ?」

「あ、惜しいです。もうちょっと下の方にあります」

 エマは手探りで、くじを引いているかのようにメリルネのお腹の中を掻き回す。
 全くメリルネのお腹の中を見ていないので、完全に勘頼りである。

「これだ!」

「あ、多分それです」

 エマが掲げるように取り出したのは、見事にメリルネの胃だった。
 他の臓器と繋がっているので、まずはそれを切り取る。
 鋭い刃は力を入れるまでもなく、メリルネの臓器たちと切り離した。

「ヴィオラちゃん、ハサミ!」

「どうぞ」

 ヴィオラはメス(包丁)の時と同じような要領で、エマの右手にハサミを手渡す。
 これも普通の物と比べて、かなり大きいサイズのハサミだ。

 勿論エマは、丁寧に胃を切り取るようなことはなく、横に一刀両断する形で大胆に刃を入れる。
 二つになった胃の中を見ると、先ほどメリルネが飲み込んだ指輪が入っていた。

「あったー! やったよ、メリルネちゃん!」

「やりましたね。おめでとうございます」

 メリルネは腹筋の力を使って、台の上から起き上がる。傷は完全に塞がっていた。
 取り出した胃は蒸発し始めて、今にもなくなりそうだ。

「楽しかったー。次は何しよっかなー」

 メリルネは少し疲れてしまったが、エマはまだまだやる気である。
 遊びに関してはいつもこうだ。

「エマ様、あまり遊びすぎてもいけませんので、おしゃべりでもしませんか?」

「うん! あのね、この前ね、アルフス様に褒められたの!」

 提案通りにエマはヴィオラの膝の上に座って、メリルネとのおしゃべりを始めた。
 楽しそうなエマにつられて、メリルネも笑顔になる。
 楽しい時間は永遠に続くかのようだ。

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