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第四章

エルフ姫

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「結構時間かかりましたねー」

 エルフ姫の家らしき所に着いたのは、出発してからかなりの時間が経った後だった。
 正直に言うと、時間がかかってしまったのは、カトレアがジェニーにイタズラしていたのが原因なのだが、勿論そんな事は言えない。

「どうしますか? 突撃しますか?」

「いや、それはやめてほいた方がいいと思います」

「じょ、冗談だって……」

 ジェニーの冷静なツッコミに、カトレアはシュンとなって謝る。
 愉快なやり取りだった。

「ん? ドアが開くぞ」

 アルフスのその一言で、カトレアとジェニーのやり取りが完全に収まる。
 三人ともがエルフ姫の家のドアに注目していた。

 視線が集まっているのを知らずに出てきたのは――ララノアだった。

「――あ。 何という偶然だ。貴方たち、姫様がお呼びになっているぞ。丁度探しに行こうと思っていたのだ」

 ララノアは、アルフスたちを見るや否や駆け足で向かってくる。
 この様子から言っていることは本当だろう。

「おいおい、随分と急な話だな。今からとなると、全く用意をしていないので失礼になるのではないか?」

「姫様は話が分かる御方だ。心配する必要はない」

「……そうか、分かった」

 エルフ姫と会うために来たのだが、結局向こうから招いてくれるという形になった。
 願ったり叶ったりだ。
 あまりにも歯切れよく進む物事に、少し疑問を持ちつつも、今は行くしかない。


****


 自然的な外側に比べて、内側はかなり利便性に優れていた。
 豪華な装飾も施されて、輝くばかりの鮮やかさがその部屋にはある。
 当然一部屋だけではなく、エルフ姫の家全体がそうなのだが、特にアルフスたちが呼ばれた部屋は、他の部屋より遥かに優遇されているのだ。

「よく来てくれたのお。儂はお主たちを歓迎するぞ」

 アルフスたちが呼ばれた部屋には、エルフ姫が左右に下僕を侍らせた状態で待っていた。
 若くはないが年老いてはいない。
 そして、エルフの群れの長としての貫禄がある。
 間違いなくこの人物がエルフ姫だ。

「歓迎痛み入る。私たちをここに呼んだということは、信頼を置いた上で何か用件があるのだろう?」

「その通りじゃ。お主たちの話はララノアから聞いておる。森の主を倒しに来たそうじゃの?」

「そうだ。それがどうかしたのか?」

「危険じゃ、止めておけ」

 エルフ姫から出たのは忠告――ではなく、警告だ。
 止めてほいた方がいい、などと柔らかい言い方ではない。命令とも思えるような、鋭い言い方だった。

「ララノアからも同じようなことを言われたな。何か理由があるようだ。是非説明してもらいたい」

「……森の主には勝てん。我々エルフは知っておる。この群れの半分は森の主に殺されてしもうたのじゃ」

 理由になっていない。
 まるで論理が通っていない答えが返ってきた。
 しかしエルフ姫は、これで通じない方がおかしい、と言わんばかりの態度である。
 つまりは、自分たちと森の主の、力の差を知っているからこその答えだ。

 この反応は、エルフたちがもう戦うことは出来ない、ということを顕著に現していた。
 従属はしていないが支配はされている。
 最初のアルフスの読みは、ことごとく当たっていたようだ。

「忠告ありがとう。考えておくよ」

 アルフスは、まるで思ってもいないことを口にする。
 これ以上話しても無駄と考えたらしい。

「そうじゃ、折角来たのだから今日は泊まっていくといい。部屋も用意できるぞ」

「……それじゃあ、空き家を一つ貸してくれ。そこに泊まらせてもらおう」

「そ、そうか。それなら、裏にある家が丁度いいじゃろう」

 エルフ姫は、少し残念そうにしながら裏を指差す。
 それに関してのエルフ姫の意図は分からなかったが、あまり真剣に考える事でもないと、アルフスは頭の中から取り除く。
 それからは、話が終わったようなので、アルフスは踵を返して部屋を後にした。
 エルフ姫は、まだ何か言いたそうな雰囲気だったが、背後で眠そうにしていたカトレアのためにも、見なかったフリ――だ。


****

「恐らくこの家であっているだろう。ご苦労だったな、二人とも」

「大変でしたねー、アルフス様」

「お疲れ様でした」

 エルフ姫に指定された家を見つけると、ドアの前でアルフスは立ち止まり、労いの言葉を二人に向ける。
 やはり二人とも疲れていたようで、今日は十分に休めそうだ。

次元のつなぎ目ディメンションリンク

 ぎいぃーーっと古びたドアを開けると、その先には豪華なベッドが二つあった。
 部屋の中も、キチンと整備されていて、上質な絨毯の上には塵一つない。

 それもそのはず、この部屋はディストピアの一室である。

 アルフスがディストピアと、この家とのドアをリンクさせたのだ。

「今日はここで過ごすとしよう。……だが、ベッドが一つ足りないな」

 部屋の中に入って、アルフスはベッドが足りないことに気付く。
 しかし、それは別に問題ではない。
 無ければ作ればいいのだ。
 アルフスの物質創造マテリアルクリエーションで、ベッドなら簡単に作れる。

「これは、一つのベッドで二人が寝るしかないですね」

「……別にそんな事は――いや、そうだな。カトレアの言う通りだ」

 だが、カトレアは全く違う意見だ。
 アルフスはそれについて問題はない、と訂正しようと思ったが、途中で止めてしまった。
 カトレアの発言の意図が読めたらしい。

(カトレアなら、私がベッドなど容易く作れることを知っているだろう。だが、それについて乗り気ではない。なるほど、ピクニックはこのようなイレギュラーが醍醐味であって、魔法で解決してしまうのは良くないと言いたいのか)

「じゃあ、ベッドの組み合わせはくじで決めるか」

「はい、分かりました」

「そうですね! それがいいと思います!」

(よし! これで私とアルフス様が同じベッドで寝れる確率は三分の一。十分に期待できる、フフフ)

 アルフスの読みとカトレアの考えは、少しだけズレていた。少しだけ――不純だった。

無限空間インフィニットスペース。さあ、この中から選んでくれ」

 アルフスは空中に渦を出現させて、カトレアとジェニーを呼ぶ。
 無限にアイテムを収納できる空間だ。
 この渦の中にくじは入っているのだろう。

「じゃあ行きますよー」

「わ、私も……」

 二人はじっくりと(特にカトレア)くじを選ぶ。
 くじは棒状の物だ。触ったところで当たりかどうかは分からない。

「これだ!」

 カトレアは勢いよく引き抜く。
 その手には細長い棒が握られている。
 恐らく先端に結果が描かれているものだろう。まだ結果は見れない。

 最後にアルフスが残った一つを引き、カトレアは天命を待つ。
 カードは配られた。
 三人は握ったくじの先端を同時に見せ合う。

 カトレア、白

 ジェニー、白

 アルフス、黒

 だった。


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