上 下
39 / 79
第三章 アルフス様に作られたゴーレムの無念を晴らす戦い

結果報告

しおりを挟む

「おかえりなさい。ラピス、ネロー」

「ただいま帰ったにゃー」

「ただいま」

 村から帰還したラピスとネローを待っていたのは――レフィカルだった(正確には、レフィカルに仕えているメイド人形と、下僕が部屋の隅にいる)。
 最初と同じように、冥府の八柱が三人揃っている状況だった。

「じゃあボクはお腹が空いたから、もう戻るにゃー。後はよろしく頼むにゃ」

 早速一人欠けてしまう。
 どこまでも気まぐれな猫だ。
 しかし、この二人――と言うかディストピアの下僕たちは、こんな事では驚きはしない。
 慣れっこなのだ。

 ネローが気まぐれを起こさない時は、アルフスの傍にいる時か、アルフスの命令中のみである。
 たまに例外があるのだが、それすらも予測できない。
 気まぐれで気まぐれを起こさないという事だ。

 現在はアルフスの命令中ではないのか――と聞かれると、答えに窮するのだが、ネローにとってギリギリセーフのラインなのだろうか。
 どちらにせよネロー以外知る由もない。


「……それでは、何が分かったか聞きましょうか。アルフス様には、後で書面にしてお伝えいたします」

「そうね……。とりあえず、ゴーレムが殺されたことは間違いないわ。そして相手も人間じゃない」

 食事に向かったネローを視線で見送ると、いよいよ本題に戻る。
 ひとまずラピスは、確定した事実をレフィカルに伝えた。
 レフィカルも納得するように頷く。
 恐らく、大凡おおよそはレフィカルの予想通りだったのだろう。
 次の情報が気になっているといった顔だ。

「相手は人間じゃなくて、魔物の群れだったわ。……でも、種族がバラバラだったのが気になるわね」

「……なるほど。種族がバラバラだった――という所から、野生の魔物の群れと言うよりは、編成された魔物の軍事部隊と予想できますね。何か特定できるような情報があると嬉しいのですが」

「ああ、それなら一つあるわよ」

 ラピスはまるで今思い出したかのように――と言うか、実際に今思い出したらしく、慌ててポケットから紙を取り出す。
 ただの白紙の紙だ。

念写ソートグラフィー

 と、ラピスが魔法を唱えると、見る見るうちに白紙の紙に色が浮き出る。
 水の波紋が全体に伝わるように、ゆっくりと何かが映し出されていく。

「これは……旗……でしょうか?」

 レフィカルは、全体が出来上がる前に気付いたようだ。
 趣味の悪い旗である。

「恐らくね。魔物の群れが掲げているのが見えたわ」

「なるほど。しかし、これで探しやすくはなりましたね。調べさせておきましょう」

「あ、あと」

「ん? どうしましたか?」

 ひとまず会話が終わる――と、思った時に、付け加えるようにラピスが声をかける。
 またもや、何かを思い出したような素振りだ。

「魔物の群れが立ち去る前に、一人だけそいつらに連れ去られている村民が見えたわ。必要ない情報かと迷ったけど、一応言っておく」

「分かりました。頭の中に入れておきます。これでアルフス様に提出しても構いませんね?」

 多分大丈夫――と、ラピス。
 ラピスは今持っている情報を、あらかたレフィカルに伝えることができた。

「もしその魔物の群れが、ディストピアに対して邪魔な存在であった場合、あなたにも力を借りることになるでしょう。その時はよろしくお願いしますね」

「分かったわ。あ! あとアルフス様によろしく!」

「……はいはい。それではまた」

 レフィカルは、ラピスの言葉を聞いて、少し呆れたように頷くと、瞬間移動テレポートでアルフスの元へと向かった。




****

「――以上で報告を終わらせていただきます」

「うむ。ご苦労だった」

 レフィカルが瞬間移動テレポートで向かった先――つまり、アルフスの部屋には、三つの影があった。

 アルフスが控えさせているメイド人形。
 ラピスとネローの報告を任されているレフィカル。
 そしてアルフスだ。

「それで、敵の勢力はどれほど分かっている?」

「そうですね、ラピスの報告から、様々な種族で軍隊のように構成されていたとありました。ここから予想できるのは、種族も揃えることができないほど戦力が不足しているという可能性。もしくは、様々な種族から優秀な人材を選別できるほど、戦力が有り余っているという可能性です」

「考えられるとなると、恐らく後者だろうな」

 レフィカルは、現在与えられた情報を上手く整理して、敵の勢力を分析する。
 そしてアルフスも、その分析の中から即答とも言えるスピードで考えをまとめた。

「どういたしますか? アルフス様」

「うーむ、私のゴーレムを殺すというのは、許し難いことではあるが、復讐をしたところで、特にこちら側に利益がないのも事実だ」

 アルフスは頭を悩ませる。
 正直な話をすると、ここでやり返したとして、ディストピアに大した利益は入らないだろう。

 ゴーレムを殺された事も、腹立たしい事に変わりはないのだが、損害の話をすると、全くと言っていいほど無いのである。

 あのゴーレムは適当に作り出した物だ。
 何体殺されようと問題ではない。


「しかしアルフス様。これで何もしないとなると、下賎な魔物に侮られたままになり、何より――我々下僕たちは黙っていられません」

 万死に値します――と、レフィカルは付け加えた。

 アルフスはレフィカルの内心を瞬く間に読み取る。まるで炎で燃えているような感情であった。
 あまりにも強大で隠しきれていない。
 もしかして、他の下僕たちも同じ気持ちなのだろうかと、アルフスは察したようだ。


「そうか、お前たちの事を考えていなかったな……。よし、復讐を果たすぞ」

 このアルフスの一言により、『アルフス様に作られたゴーレムの無念を晴らす』という名義でディストピアの戦いは始まった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界漂流者ハーレム奇譚 ─望んでるわけでもなく目指してるわけでもないのに増えていくのは仕様です─

虹音 雪娜
ファンタジー
 単身赴任中の派遣SE、遊佐尚斗は、ある日目が覚めると森の中に。  直感と感覚で現実世界での人生が終わり異世界に転生したことを知ると、元々異世界ものと呼ばれるジャンルが好きだった尚斗は、それで知り得たことを元に異世界もの定番のチートがあること、若返りしていることが分かり、今度こそ悔いの無いようこの異世界で第二の人生を歩むことを決意。  転生した世界には、尚斗の他にも既に転生、転移、召喚されている人がおり、この世界では総じて『漂流者』と呼ばれていた。  流れ着いたばかりの尚斗は運良くこの世界の人達に受け入れられて、異世界もので憧れていた冒険者としてやっていくことを決める。  そこで3人の獣人の姫達─シータ、マール、アーネと出会い、冒険者パーティーを組む事になったが、何故か事を起こす度周りに異性が増えていき…。  本人の意志とは無関係で勝手にハーレムメンバーとして増えていく異性達(現在31.5人)とあれやこれやありながら冒険者として異世界を過ごしていく日常(稀にエッチとシリアス含む)を綴るお話です。 ※横書きベースで書いているので、縦読みにするとおかしな部分もあるかと思いますがご容赦を。 ※纏めて書いたものを話数分割しているので、違和感を覚える部分もあるかと思いますがご容赦を(一話4000〜6000文字程度)。 ※基本的にのんびりまったり進行です(会話率6割程度)。 ※小説家になろう様に同タイトルで投稿しています。

処理中です...