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第三章 アルフス様に作られたゴーレムの無念を晴らす戦い
結果報告
しおりを挟む「おかえりなさい。ラピス、ネロー」
「ただいま帰ったにゃー」
「ただいま」
村から帰還したラピスとネローを待っていたのは――レフィカルだった(正確には、レフィカルに仕えているメイド人形と、下僕が部屋の隅にいる)。
最初と同じように、冥府の八柱が三人揃っている状況だった。
「じゃあボクはお腹が空いたから、もう戻るにゃー。後はよろしく頼むにゃ」
早速一人欠けてしまう。
どこまでも気まぐれな猫だ。
しかし、この二人――と言うかディストピアの下僕たちは、こんな事では驚きはしない。
慣れっこなのだ。
ネローが気まぐれを起こさない時は、アルフスの傍にいる時か、アルフスの命令中のみである。
たまに例外があるのだが、それすらも予測できない。
気まぐれで気まぐれを起こさないという事だ。
現在はアルフスの命令中ではないのか――と聞かれると、答えに窮するのだが、ネローにとってギリギリセーフのラインなのだろうか。
どちらにせよネロー以外知る由もない。
「……それでは、何が分かったか聞きましょうか。アルフス様には、後で書面にしてお伝えいたします」
「そうね……。とりあえず、ゴーレムが殺されたことは間違いないわ。そして相手も人間じゃない」
食事に向かったネローを視線で見送ると、いよいよ本題に戻る。
ひとまずラピスは、確定した事実をレフィカルに伝えた。
レフィカルも納得するように頷く。
恐らく、大凡はレフィカルの予想通りだったのだろう。
次の情報が気になっているといった顔だ。
「相手は人間じゃなくて、魔物の群れだったわ。……でも、種族がバラバラだったのが気になるわね」
「……なるほど。種族がバラバラだった――という所から、野生の魔物の群れと言うよりは、編成された魔物の軍事部隊と予想できますね。何か特定できるような情報があると嬉しいのですが」
「ああ、それなら一つあるわよ」
ラピスはまるで今思い出したかのように――と言うか、実際に今思い出したらしく、慌ててポケットから紙を取り出す。
ただの白紙の紙だ。
「念写」
と、ラピスが魔法を唱えると、見る見るうちに白紙の紙に色が浮き出る。
水の波紋が全体に伝わるように、ゆっくりと何かが映し出されていく。
「これは……旗……でしょうか?」
レフィカルは、全体が出来上がる前に気付いたようだ。
趣味の悪い旗である。
「恐らくね。魔物の群れが掲げているのが見えたわ」
「なるほど。しかし、これで探しやすくはなりましたね。調べさせておきましょう」
「あ、あと」
「ん? どうしましたか?」
ひとまず会話が終わる――と、思った時に、付け加えるようにラピスが声をかける。
またもや、何かを思い出したような素振りだ。
「魔物の群れが立ち去る前に、一人だけそいつらに連れ去られている村民が見えたわ。必要ない情報かと迷ったけど、一応言っておく」
「分かりました。頭の中に入れておきます。これでアルフス様に提出しても構いませんね?」
多分大丈夫――と、ラピス。
ラピスは今持っている情報を、あらかたレフィカルに伝えることができた。
「もしその魔物の群れが、ディストピアに対して邪魔な存在であった場合、あなたにも力を借りることになるでしょう。その時はよろしくお願いしますね」
「分かったわ。あ! あとアルフス様によろしく!」
「……はいはい。それではまた」
レフィカルは、ラピスの言葉を聞いて、少し呆れたように頷くと、瞬間移動でアルフスの元へと向かった。
****
「――以上で報告を終わらせていただきます」
「うむ。ご苦労だった」
レフィカルが瞬間移動で向かった先――つまり、アルフスの部屋には、三つの影があった。
アルフスが控えさせているメイド人形。
ラピスとネローの報告を任されているレフィカル。
そしてアルフスだ。
「それで、敵の勢力はどれほど分かっている?」
「そうですね、ラピスの報告から、様々な種族で軍隊のように構成されていたとありました。ここから予想できるのは、種族も揃えることができないほど戦力が不足しているという可能性。もしくは、様々な種族から優秀な人材を選別できるほど、戦力が有り余っているという可能性です」
「考えられるとなると、恐らく後者だろうな」
レフィカルは、現在与えられた情報を上手く整理して、敵の勢力を分析する。
そしてアルフスも、その分析の中から即答とも言えるスピードで考えをまとめた。
「どういたしますか? アルフス様」
「うーむ、私のゴーレムを殺すというのは、許し難いことではあるが、復讐をしたところで、特にこちら側に利益がないのも事実だ」
アルフスは頭を悩ませる。
正直な話をすると、ここでやり返したとして、ディストピアに大した利益は入らないだろう。
ゴーレムを殺された事も、腹立たしい事に変わりはないのだが、損害の話をすると、全くと言っていいほど無いのである。
あのゴーレムは適当に作り出した物だ。
何体殺されようと問題ではない。
「しかしアルフス様。これで何もしないとなると、下賎な魔物に侮られたままになり、何より――我々下僕たちは黙っていられません」
万死に値します――と、レフィカルは付け加えた。
アルフスはレフィカルの内心を瞬く間に読み取る。まるで炎で燃えているような感情であった。
あまりにも強大で隠しきれていない。
もしかして、他の下僕たちも同じ気持ちなのだろうかと、アルフスは察したようだ。
「そうか、お前たちの事を考えていなかったな……。よし、復讐を果たすぞ」
このアルフスの一言により、『アルフス様に作られたゴーレムの無念を晴らす』という名義でディストピアの戦いは始まった。
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