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第二章 ジェニーがんばる
オーバーキル?
しおりを挟むジェニーは気合を入れ直しつつ、アルフスとの反故が無いように丁寧に説明を始める。
「まず、ファルジックの王から、信用を勝ち取ることが出来ました」
「ほう。しかし、信用といってもどれ程のものだ? それによって、作戦もかなり変わってくるはずだ」
「王とほぼ一対一で話し合いが出来るほどです」
「え? それって、かなりすごくないか?」
ついつい、アルフスの口調が変わる。
予想外の信用具合に驚いたのだろう。
ジェニーとしては、流れであの様な状況になったため、特に何も感じてはいなかったが、冷静に考えると、かなりすごい事なのかもしれない。
「ありがとうございます!」
「う、うむ。期待以上の働きだ。やはりお前を抜擢して正解だったようだな」
「ア、アルフス様……」
一度は堪えた涙がもう一度零れそうになる。
アルフスが自分の身を心配してくれた事も十分に嬉しかったが、直接褒められるとなるともっと嬉しかった。
しかし、一回一回涙しそうになってはキリがない。ジェニーはなんとか涙を堪え、あくまで淡々と報告を続けようとする。
「ぐすっ…………次に、ファルジック国の軍事力が限りなく弱い事が判明しました。ファルジック国には、英雄級魔法すら使える人間はいません」
どうやら涙を堪える事は出来なかったようだ。
少し情けない声が混ざってしまったが、アルフスもとやかく言う気はない。
何なら、気付いていないのかもしれない。
ジェニーは、アルフスが意見を聞いて考えをまとめている間に何とか涙を止める。
アルフスが考えをまとめる――かなり短い時間だったが、何とか涙を止める事ができた。
「なるほど。それなら武力で制圧するのは簡単だろう。だが、王を殺したとするならば、市民は大混乱するのではないか? 反乱などが起きるとなると面倒だぞ」
「それなら心配はございません」
「ん? どういう事だ?」
「王は市民からの人望がかなり薄いようです。たとえ王が死んだとしても、混乱はしても反乱は起こらないかと思います」
「……それは正しい情報か?」
「は、はい……この事を証明するに、十分な数の人間がいました」
「なら信じよう。ファルジック国を攻め落とす準備をしておく。実行する日はジェニーが決めてよい。何か注意するべき事はあるか?」
「……騎士の中にクルトという人間がいます。彼がファルジック国で一番強いらしいです。注意すべきはこの位かと」
ジェニーは今日までに得てきた情報を、一つも漏らさないよう、全部伝えようとする。
クルトもその例外ではない。
実際にクルトの強さを見たわけではないが、別におかしくはない話である。
王がクルトに対して信頼を置いているのも、それなら辻褄があう。
「把握した。そうだな……ファルジック国を攻め落とす際に、そのクルトという人間を、別の場所におびき寄せることはできるか?」
「……おそらく可能かと思います。ファルジックの国民は危機管理能力が低いため、一気に攻めたら圧勝かと」
「短時間で終わらせるのは私も賛成だ。一般兵たちの殲滅はこちらで引き受ける。クルトという人間にはフォルタレッサを。ファルジックの王にはネローを仕向けよう」
「……え!?」
ジェニーは絶句する。
アルフスが本気だと分かったのだ。
たかが人間相手に冥府の八柱二人を使うなど、通常では到底考えられない。
そこまでするということは、確実な勝利を望んでいるということだ。
しかし勝とうとするにしても、ここまでする必要はあるだろうか。
ジェニーは頭を回転させ考える。
すると、一つの答えが浮かび上がった。
(今回は私の初めての仕事。それを確実に成功させるため、ここまで力を貸してくださるのかな……)
答えが思い浮かんだ瞬間、流石にそんなはずはないと頭を振る。
こんなものは明らかに希望的観測だ。
実際にはジェニーが成功するか心配だから、冥府の八柱を使うと考えた方が自然である。
(でも、お優しいアルフス様なら有り得るかも……)
「――ジェニー?」
「あ! はい! すみません!」
どうやらジェニーが想像を巡らせている間に、アルフスの言葉を聞き落としていたらしい。
とんだ失態である。
もう少し妄想が膨らんでいたら、無視していたかもと考えると、かなり恐ろしい。
ジェニーはすぐに謝罪するが、これでは謝罪し足りないくらいだ。
「構わん。それで、先程の作戦に何か異論はあるか? あるなら遠慮なく言ってくれ」
「何一つございません! 完璧だと思います!」
ジェニーが反論する理由は一つも無かった。
何なら、ここまでしてもらわなくても大丈夫、と言うべきなのだろう。
「そうか。なら明日、作戦を実行するとしよう。絶対に無理はするんじゃないぞ?」
「はい! ご協力感謝します! アルフス様の為にも絶対に成功させてみせます!」
ジェニーは誰もいない部屋の中、深々と頭を下げる。
別にアルフスに見えているわけではないのだが、ジェニーはそれでも頭を下げる。
頭を下げずにはいられなかった。
最初は不安だらけだったジェニーも、アルフスの激励でそんなものは消え去っている。
今ジェニーの心の中にあるのは、不安ではなく作戦を成功させるという信念だ。
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