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第十五章
背水の陣
しおりを挟む「マイマスター。この馬車、ちょっと狭くないですか?」
「……我慢してくれ、これしか余ってなかったんだ」
「それにしてもギュウギュウすぎるよー。ネフィルちゃんがうらやましー」
ウィルたちは、アムベント召喚士学校へ向かうために、馬車を借りて移動していた。
慣れない馬車に乗ることはできるだけ避けたかったが、歩いて行くには遠すぎる距離だ。
狭すぎる車内を我慢してでも、馬車で行くしか方法はない。
御者として外で馬を操っているネフィルに、羨望の眼差しが集まっていた。
「仕方ないよ、ネフィルしか運転できる人がいないんだから」
「凄い学校の講師として呼ばれるなら、もっと良い待遇を受けるべきではないでしょうか。そうですよね? マイマスター」
「どこかのアホが遠慮するからのお」
「だって……あまり力になれなかった時に気まずくなりそうだし……」
「いや、別に儂は構わんのじゃがな」
エルネとレフィーは、ジーッとウィルを見つめている。
最初は沈黙を貫こうとしていたウィル。
しかし、このプレッシャーに耐えきるほどのメンタルは持ち合わせていないようで、素直に謝ることになった。
どうやら、帰りは送迎を頼むことになりそうだ。
「ちなみに、ウィルお兄ちゃんは先生になって何を教えるのー?」
「……決めてない」
「どうしますか? 今からバックれますか?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
今すぐに引き返そうとするレフィー。
アイデアも威厳もないウィルでは、アムベント召喚士学校で成功する未来が見えなかった。
かと言って、今から逃げるようなことは絶対に出来ない。
背水の陣だ。
ウィルは覚悟を決める。
「何か武勇伝を話せば良いのではないか?」
「武勇伝って言われても……トマトを枯らさずに育て切ったとかくらいしか」
「落ち着いてください、マイマスター。秀才の生徒たちに、アナタの趣味を伝えてどうするのですか」
様々な視点から考えても、生徒たちが興味を持ちそうな話は出てこない。
「生徒はどんなことを知りたがってるのか分かりませんか? 最悪の場合、作り話で誤魔化してしまいましょう」
「作り話は駄目だけど――生徒たちは冒険者としての経験を知りたいんじゃないかな。召喚の方法なんかは、優秀だから分かってると思うし」
「それじゃあ、ドラゴン退治か寺院の修行のどっちかだね! ウィルお兄ちゃん!」
「よし、ドラゴン退治にしよう」
痴話喧嘩に巻き込まれた思い出を捨てるかのように、即効でドラゴン退治の方に決まった。
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