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第十三章

修行中

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「すみません、老師!」

 目の前にいるのが老師だと知らされたウィルは、顔を青くしながら土下座した。
 流石に失礼なことを言ったという自覚はあるようで、その土下座には迷いがない。

「良い良い。たまーに言われるから気にせんでもええ」

 いつもより寛大になっているリムに、このようなものを見せてしまったら、怒るに怒れない状況にもなる。
 その場は一旦丸く収まった。

「それで、何人かのパーティーを組んどるらしいが、あとのメンバーはどこにおる?」

「アイツらは、用意してもらった部屋でゴロゴロしてます」

「なるほど。今すぐ呼んでこい――と言ってやりたいところだが、全員が参加するという規定ではないからな。我慢してやるかのお」

 ところで――と、リムは話を変える。

「その手に持っておる物は一体?」

「これは、滝に打たれるかもしれないと心配してくれた仲間がくれたレインコートです」

「……そんなことはせんからしまっておれ」

 行動の一つ一つが想定外のウィル。
 期待を裏切らないどころか、悠々と飛び越えていた。
 滝行とは偏見甚だしいが、それの対策としてのレインコートも恐ろしい。

「それじゃあ、時間も勿体ないし修行を始めるかのう」

「えっと……何をすればいいんでしょうか?」

「まずは初歩的なことから。ほれ、ワシの肩を揉んでみろ」

「へ?」

 突然始まる修行。
 そして、リムは親指で自分の肩を指さす。
 あまりに予想外のセリフで、ウィルも流石に聞き返してしまった。

「何をしておる、はよせんか。時間は待ってくれんぞ」

「いや、でも」

「言うことを聞かんと、腕立て腹筋追加するぞ」

「やらせていただきます」

 ウィルはリムの小さな肩に手をかける。
 それは、見た目とは相反して、かなり筋肉が固まっていた。
 触った瞬間に分かるほどの固さであり、ウィルがいくら力を入れたところで治るような気がしない。

 しかし、ここで諦めてしまっては何故か筋トレをすることになってしまうので、続けるしか選択肢がなかった。

「老師、これはどんな修行なんですか?」

「師に尽くす心を育てるもの――言わば精神の修行に近い。大抵の冒険者はここから鍛えることになっておる」

「そ、そうなんですか……」

 リムは気持ちが良さそうな顔をしながら、ウィルの質問を受け流す。
 かなり曖昧な答えであったとしても、リムの雰囲気によって上手く誤魔化される。
 単純かつ厄介なトリックだ。

「まぁ、修行は段々と難しくなっていく方が良いからな。そこら辺はちゃんと考えておるわい」

「……次の修行は何ですか?」

「近くの山におる鬼退治かのう」

「段々じゃない!?」

 リムは、ケタケタとウィルを見て笑っていた。

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