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第十一章
マスター
しおりを挟む「天使って――何を言ってるの……? 魔王城から出てきたんだよ? ルーの見間違えじゃないかな……?」
「ううん! 絶対に天使だった! 今すぐ証明したいけど、消えちゃったの!」
「とにかく落ち着いて! もしかしたら幻覚を見せられたのかも……」
「違う! 幻覚なんかじゃなかった!」
意見が完全に食い違うアルとルー。
ルーは一歩も引こうとしない。
それどころか、理解しようとしないアルに対して怒りすら覚えているほどだった。
ルーが嘘をついているような気配は一切なく、あまりの迫力にアルも少しだけ信じそうになったが、ギリギリで正気を取り戻しそれを否定する。
どう考えても、魔王城から天使が出てきたと証言するルーの方がおかしいのだ。
相方がやられてしまったアルは、ルーを守りながら二人分の仕事をしなくてはならない。
アルは気合いを入れ直した。
「ルー、気を付けて! 魔王がすぐ近くにいると思う!」
「違う……魔王じゃない……」
「ルー、正気に戻って! もし本当なら、なんで天使が魔王城から出てきたの? それに、同じ天使なら私たちに攻撃してくるわけないじゃない!」
ルーは黙る。
ぐうの音も出ない正論に、それ以上言葉が出てこなかったのだ。
「おい、お主ら。この魔王城に何の用じゃ?」
「――!? 魔王!?」
アルとルーは、すぐさま戦闘態勢に入った。
天使と魔王が出会うということは、それだけで戦いが始まるということである。
そんな状態にも関わらず、わざわざ魔王の方から声をかけてくるとは、舐められているとしか考えられない。
「一々そんなことを聞いても無駄でしょう。あまり時間をかけると、マイマスターが狙われる可能性が上がってしまいます」
「……え? 何で天使がいるの!? まさかルーの言っていたことは本当――」
「天使が相手というのは、少しやりにくいですが仕方ありません。雑魚は私がやりますから、エルネはリーダーをお願いします」
「しょうがないのお」
目を見開いて驚くアルの前で、エルネとレフィーは大胆に作戦会議をする。
そして、簡単に決まった役割を果たすため、エルネはグリエルがいる方向へ飛び立った。
魔王であるエルネを易々と見逃すというのは、天使としては有るまじき行為だが、この際はそれすら気にしている場合ではない。
「――ぐっ! 魔王側に寝返ったか!」
「寝返った?」
「魔王をマスターとして認め、悪びれることもなく従っているということだ!」
「あぁ、その表現は正しくありませんね」
――私のマスターは人間ですから。
それが、アルとルーが最後に聞いた言葉になった。
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