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第九章
ジグとザグ 2
しおりを挟む「よっしゃあ! 兄貴はどっちをやる?」
「おう、俺はエルネって奴をやるぜ。レフィーって奴はお前にやるよ」
「お! 良いの!? 俺、あっちの方が好みだったんだよ!」
ニヤニヤと笑いながら、ジグとザグは距離を詰める。
酔っ払っているかのような足取り。
エルネとレフィーを甘く見ているのは、火を見るより明らかだった。
どうやら、胸がデカいだけとしか思っていないらしい。
「なんかあんな風に言ってますけど、こっちはどうしますか?」
「どっちも天使にやるのじゃ」
「あんなのを押し付けないでください。私は右の方を片付けるので、アナタは左の方をお願いします」
それに対してエルネたちは、先手を打つことなくジグとザグの到着を待つ。
自分たちから歩いて行くようなことはしなかった。
魔王と天使のプライドなのかもしれない。
「あ。あと、公式な大会ですので、人間は殺さない方がいいと思います。気を付けてくださいね」
「ふっ、そんなこと分かっておるのじゃ。お主は負けんようにだけしておれ」
「面白い冗談です」
「おい! なに楽しそうにしてんだぁ!?」
余裕を持って会話をしているエルネとレフィーに腹が立ったのか、ジグとザグは突如ダッシュで距離を詰め始めた。
寸分の狂いもなく、同時に走り出したそれは、熟練のコンビネーションによるものだ。
先程まではふざけていた雰囲気だったが、一度スイッチが入ってしまえば、国の代表として恥じない面構えになる。
「兄貴! 危険なのはエルネって奴だ! あっちからぶっ倒すぜ」
「おう! お前は後ろからだ!」
ジグとザグが最初に選んだ獲物は、直感的に危険だと悟ったエルネの方だった。
直線的に進むジグと、回り込んで背後を取ろうとするザグ。
息のあった必勝パターンである。
「ほれ」
直線的に突っ込んできたジグを、エルネはデコピンで対応した。
人間が死なないよう、かなり慎重に手加減されたデコピンは、ジグを遠い夢の世界へ誘う。
ジグが地面に倒れ伏した頃には、意識は完全になくなっている。
「――なっ!?」
ジグの異変に気付いたザグは、必死に走らせていた足を流石に止めた。
ジグとザグのコンビネーションにおいて、このような事態は初めてだ。
上手く躱されることはあっても、片方の機能が完全に停止するなど、ありえるはずがなかった。
「隙あり――です」
頭が回らず棒立ちになっていたザグを、レフィーは後ろから気絶させる。
『――き、決まりましたー! 記念すべき第一回戦! 勝者は! ラズディア国ですっ!!』
静まり返っていた場内を、一気に歓声が包み込んだ。
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