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第九章

ドレスアップ

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「どうしようどうしようどうしよう」

「落ち着け、ご主人様」

「何を取り乱しているのですか、マイマスター。姫といっても、相手はただの人間でしょう」

 混乱というものの見本を見せるかのように、ウィルは慌てふためいてクローゼットを漁る。
 姫の前でも恥ずかしくないような服を選ぶ――それしかウィルの頭の中にはなかった。

「よし……これとかどうかな……?」

「冗談だとは思いますが、もし本気でそれを言っているのならセンスを疑いますよ。マイマスター」

「……え? そんなにダメ?」

 ウィルが悩みに悩んで選び抜いたのは、全身が真っ黒に染まるコートだ。
 黒が大好きなウィルならではのファッションだが、単純に着こなせていない。

 レフィーが酔っていたら、無理矢理にでもそのコートは脱がされていただろう。


「……よし、服屋に行こう。エルネたちの服も買わないといけないし」

「指輪も買っていいですか?」

「必要なものだけにしてくれ」

 こうしてウィルたちは、城へ向かう前に服を揃えることになった。


*********


「ウィルお兄ちゃん、どう? どう? 似合ってる?」

「うん、すごく良いと思うよ。リリちゃん」

 服屋に着いたウィルたちは、試着をしながら買うべき服を選んでいた。
 リリは子供用のドレスを着て、ウィルに披露している最中だ。

 綺麗な水色のドレスは、透明感があるリリの肌にこれ以上ないほど似合っている。

 子供には興味がないはずのウィルでさえ、一瞬だけ見とれてしまっていた。

「どうじゃ? ご主人様。なかなか似合っておるのではないか?」

 続いて試着室から現れたのはエルネだ。
 激しさを感じさせるような濃い赤。
 膝の下までのスカートに、美しく強調されている胸部。

 ウィルの視線だけでなく、店中の視線がエルネに集められていると言っても過言ではなかった。

「似合って……ます」

 ウィルは、操られているかのようにエルネを褒める。
 ウィルの乏しい語彙力では、似合っているという以上の言葉がすぐに出てこない。

「……まじまじと見るでない。こっちまで恥ずかしくなってくるじゃろが」

「あ、ごめん……! つい……」

 指摘されて初めてウィルは目線を逸らす。
 流石にこれ以上見つめていては不味いと判断したのだろう。
 ウィルの視線は、またリリの方に戻った。

「お待たせしました、マイマスター。少し地味かもしれませんが」

 最後に試着室から出てきたのはレフィーだ。

 地味目の色で揃えられつつも、レフィー本人の魅力は全く損なわせない。
 レフィーのイメージとピッタリ合う――レフィーのために作られたようなドレスがそこにあった。

 膝の上までのスカートは、レフィーの綺麗な足を極限まで美しく演出し、エルネと同じように、胸部はついつい目をやってしまうような魅力がある。

「…………」

「ウィ、ウィルお兄ちゃんが死んでる……」

 ウィルには反応する力すら残っていなかった。
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