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第八章

トラウマ

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「おはようございます。朝ですよ、マイマスター」

「おはよー! 朝だよ朝! うわぁ、すごい朝!」

「……うーん。あれ? 昨日の記憶がない……」

「悪い夢でも見ていたんでしょう。切り替えることが大事ですよ、マイマスター」

「レフィーが関係してたような……うっ、頭が……」

 ウィルが起きた時、何があったのか頭が整理できる状態ではなかった。
 覚えている情報は少ないが、レフィーに何かされたことは覚えている。

 しかし、思い出そうとすればするほど、頭がそれを拒否するように痛みを感じた。
 トラウマとして刻みつけられているのかもしれない。

「ウィルお兄ちゃん昨日は凄かったよー。あんなに激しいのは初めて見たー」

「……え!?」

「リリ、紛らわしいことを言わないでください。別にそういったことをしたというわけではありませんから。勘違いしないでくださいね、マイマスター」

 レフィーは、リリを持ち上げて遠ざけながら昨日の弁明をした。
 勘違いをされないように――そして、昨日のことも思い出されないように。
 難しいさじ加減だ。

「それは良かった……何があったのかは思い出せないけど……」

「思い出さん方が良いと思うぞ、ご主人様」

「ウィルお兄ちゃん大丈夫? 骨とか折れてない?」

「いや、本当に何をされたんだ……?」

 リリはウィルの首元を確認する。
 特に赤くも青くもなっていない首。
 無駄に頑丈なウィルだった。

「もしかしてじゃが、本来の目的まで忘れてはおらんよな?」

「まさか。ウサギを狩りにきたんだろ?」


「おい重症じゃぞ、天使。どうしてくれるのじゃ」

「もう一回攻撃したらなおりませんかね?」

「いや、冗談……。ユキちゃんのために魔物大量発生について調査しに来たんだって」

 ウィル渾身のジョークは、驚くほどの空回りに終わる。
 よく分からない解決方法のために、再度攻撃をされてしまいそうになるほどだ。

「それじゃあ、そろそろここから離れましょう。思い立ったら何とやらです」


「エルネ。なんか今日のレフィー、いつもと違わないか……?」

「ご主人様のせいじゃと思うぞ」

「いつものレフィーお姉ちゃんじゃなーい!」

 リリは、様子のおかしいレフィーに少しだけ怯えている。
 どうにかして気持ちを切り替えようとしているのだろうが、らしくない結果になってしまった。

「ほっといてやった方が良いみたいだな……」

「リリもそう思う」

 ウィルたちは、片付けの準備を始めたレフィーを優しい目で眺めていた。
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