底辺召喚士の俺が召喚するのは何故かSSSランクばかりなんだが〜トンビが鷹を生みまくる物語〜

第六章

閑話 リリのプライド

「ウィルお兄ちゃん、それって楽しい？」

「うん。やっぱり魚ってかわいいよなー」

　冒険者パーティーとしての仕事が一切ない昼間。
　特にやることもないウィルは、最近買ったペット用の金魚を眺めていた。

　一口サイズの餌を落とすと、金魚はパクパクと追い続ける。
　いくら見ていても飽きないような、魔法の時間だ。

「このお魚さんってかわいいの……？」

「そりゃそうだよ。こんなかわいい生き物見てたら、悩みも全部吹っ飛んじゃうな」

「うーん……リリにはちょっと理解できない」


「お、まだ餌が欲しいっていうのかー？　まったく、スーザンは食いしん坊だなぁ」

「名前までついてる!?」

　リリは、どこから見ても変化がない金魚の顔を、不思議そうな顔で見つめている。
　どうしてウィルがメロメロなのか、頑張って理解しようとしていた。

「リリちゃんもスーザンに餌あげてみる？　案外かわいいもんだぜ？」

「うん」

　ウィルに餌の袋を手渡されたリリ。
　ポンと渡されたため、どのように餌をあげたらよいのか分からない。

「ウィルお兄ちゃん、これどうすればいいの？」

「普通に中から取り出せば良いんだよ。それであげるだけ」


「おぉー、すごい」

　リリがばら撒くように落としたら、金魚は驚くほどの反応速度で餌へと向かう。
　目で確認するよりも先に反応していた。

　予想以上の素早さだ。
　これにはリリもビックリしてしまう。

「な？　かわいいだろ？」

「すごいけど、かわいい？」

「なんというか、癒されるんだよね」

「焼いたら美味しそうだけど」

「そんな目で見ないでくれ!!」

　ウィルはバッとリリの前に立ち塞がる。
　リリの魔の手から、金魚を守ろうとしての行動だ。
　買ったばかりの金魚を腹の足しにされてしまっては、たまったものではない。

「このスーザンは俺たちのアイドルだぞ!?」

「え!?　リリはスーザンに負けてるの!?」

　リリは手に持っていた餌を床に落とす。
　運良くこぼれることはなかったが、それを気にしているような余裕はない。
　あまりのショックに、ウィルを直視することしかできなかった。

「リリってサキュバスだよ!?　なのに金魚に負けるなんて、切腹しないといけないレベルだって！」

　リリはウィルの服を掴んで引っ張る。
　普通ならここまで粘らないリリだが、こればかりはサキュバスのプライドが許さない。
　ましてや、相手は金魚だ。

　本当に切腹をしてしまいそうな勢いだった。

「もし考え直してくれないなら――これ」

「……なんだこれ？」

　リリはどこから出したのか、小刀をウィルに手渡す。

「介錯に使って」

「リリちゃんの方がかわいいです」

　ウィルは、渡された小刀をそっとリリに返却した。