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第一章
ゴブリンが出た!
しおりを挟む「……妙に静かだな」
「不意打ちに失敗したからの。相手が慎重になるのも当然じゃ」
遺跡の中は、敵がいるとは思えないほどの静寂に包まれていた。
全方向を見渡しても、敵の影すら捉えることが出来ない。
「これって調査だから、敵を倒すまでの事はしなくていいんじゃないか?」
「どうせなら、やれるとこまでやった方が良いじゃろ。もしかしたら報酬金が上がるかもしれんしな」
「私も賛成です。というか、そこにいますよ、敵」
レフィーは古びた柱を指さす。
ウィルは首が取れるほどの勢いで振り向いたが、敵を確認する事が出来なかった。
正確には視認する事が出来なかったのだ。
そして、答え合わせと言わんばかりに柱の影から一匹の魔物が出てくる。
「おい! なんでわかったんだ!」
魔物の正体とはゴブリンだ。
甲高い声でレフィーに向かって怒鳴り散らす。
「さ、手始めに一匹ぶっ飛ばしましょうか」
「チッ! このヤロー!」
ゴブリンは単体で、なおかつ武器も持たずにレフィーへと突っ込んだ。
そこそこ離れた位置からの突撃。
レフィーからしたら、あくびが出るほど退屈な時間となった。
ゴブリンの足の遅さが、余計にそれを際立たせる。
「〈攻撃魔法・ハートブレイク〉」
ゴブリンの到着を待ちきれなかったレフィーは、ゴブリンの飛び散った血がかからない程度の位置で爆発させた。
ゴブリンだった肉塊は、もう動かなくなっている。
「レフィー、お前そんなに強かったのか……」
「……? ゴブリン程度で何を言っているのですか、マイマスター」
予想以上の強さを見せられてしまったウィルは、ゴブリンの死体とレフィーを交互に見ながら呟く。
ゴブリンとはいえ、人間からしたら十分に命を脅かす存在だ。
ウィルもかつてゴブリンと戦った事があるが、血で血を洗う大接戦になった事を覚えている。
そのような存在が、為す術もなく殺されたのだ。
驚かないはずがない。
「……もしかして、ゴブリンを捕まえる事ができたら、敵の親玉の正体も分かるんじゃないか?」
「嫌です。ゴブリンと会話したくありません」
「儂も遠慮する。どうしてもと言うなら考えてやっても良いがの」
「やっぱり何でもないです……」
日を追ってパーティー内での立場が弱くなっている事に、気付き始めたウィルであった。
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