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第六章

無自覚で罪な蜜 5

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……怠い。
どう表現した方が的確だろう。甘怠い……?

背中を擦る気持ちのいい感触で目が覚めて、裸のまま温かいロベールの腕の中で目を覚ました。

何もかもが心地よかった。
ロベールに僕の丸ごとをゆだねて預けきっているこの感触と、そして甘く沈んでいくような怠さまでもが。

「気が付いたのか」
「……うん」

僕の返事にロベールは、さらに腕の力を込めてキュッと僕を抱きしめた。

「抑えが効かずに悪かったな」
「……ううん。大丈夫」

僕もロベールの背に腕を回して、頬を彼の肩口にスリッと擦りつける。

「……本当に南は……」
「――え?」

ため息交じりに呟かれて、ちょっぴりドキッ。
なんだか知らないけど、呆れられてる?

「こんなに我を忘れるくらいに溺れさせられるのは初めてだ。……質が悪いぞ、南」
「……えっ」

ロベールは僕のこめかみ辺りに手を当てて、瞳を覗き込むように見つめる。
とくん、と可愛い音が僕の心臓から聞こえた。

お……、溺れてるのは僕の方だよ。
こんな間近で真剣な顔で……。吸い込まれちゃいそうじゃないか。

恥ずかしくてどうしていいのか分からず、しきりに目をぱしぱしと瞬いて胡麻化してみた。

「……ふっ、可愛いな南は」
「……ロ、ロベールはかっこいいよ」
「…………」
「…………」

ぷはっ。
「そうか、それは良かった」

しばらく目を丸くして僕を見た後、噴き出したように笑ったロベールが、またぎゅっと僕を抱きしめた。

「南……」
「……何?」

ロベールは僕を抱きしめたまま、片方の手で優しく僕の髪を撫で始めた。その優しい感触が、すごく気持ちがいい。

「無自覚で無意識な南に言ってもどうしようもないかもしれないけど、私は南に溺れてる。もう息すらできていないんじゃないかと思うくらいにだ」

「……ロベール……」

「だから、南から見て私が平静に見えていたとしても例え離れていたとしても、私が南のことを思っていることも、気配を追っていることも忘れるな。……無駄にフェロモン駄々洩れにして私を心配させないでくれ」

「…………」
ぎゅううっ。

僕からも力いっぱいロベールにしがみついた。

優しい声が、心配そうで真剣なその声が、僕の心を甘く、何とも言えない切ないような気持で締め付ける。

分かった、って言ってあげたくてもそう言い切れない。
僕はフェロモンなんて、いつ出してるのか出てるのか当人のくせにさっぱり分からないんだ。
だって、レストランでスイーツを物色してる時なんて、目の前のティラミスのことしか考えてなかったはずだ。そんな状況でさえ駄々洩れになっているものを、僕はどうやって管理したらいいわけ?

困惑する僕の体をそっと離してロベールは、僕の目を見つめた。

「私が南に溺れていることを、分かってくれればそれでいい」
「……う、ん。でもあのっ!」
「うん?」

「僕も! 僕もロベールに溺れているからね!」

「――そうか、分かった」

大声で宣言する僕に、ロベールはハッとするくらい綺麗に……、花が綻ぶように優しく微笑んだ。
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