近くにいるのに君が遠い

くるむ

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俺に触れて?

心も体も2

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俺の言葉にしばらく呆然としていた陸だったけど、ふうっとため息を溢した。

「…やっぱり水は分かってない。俺が…、俺がどれだけ水に溺れてるか、全然分かってない」
「陸…」

俺から視線を逸らした陸は、自嘲気味に笑う。

「俺は水が怖がることをしたくてしたくて堪らないんだよ。抱きしめてキスして…、そんなんじゃ足りない。押し倒して服を剥いで、体中にキスして撫でまわして、水の中に入りたいんだ」

「…いいよ。陸なら」
「何がいいだよっ!お前怖がってただろ!?あんなに嫌がって、俺に怯えてたじゃないか!」

「当たり前だっ!」

カチンと来た。陸の方こそ何にも分かってない。
叫ぶように怒鳴った俺に、陸がびっくりしたように顔を上げる。

「怖くて当たり前だ、あんな陸。俺だって男だ。陸にならいいと思えたとしても、抱かれることへの戸惑いも…それに恐怖だってあるだろ? なのに陸は…、俺の葛藤も戸惑いもちっとも見てくれなかった。嫌だって言っても待ってって言っても、ちっとも聞きもしないで、俺の気持ちを無視して欲望だけをぶつけられて…。そんなことされて怖くない奴なんて、いるわけない…」

「水…」

悔しかった。
こんな風に気持ちをさらけ出さないと分かってもらえないのかと思うと、なんだか情けなかった。

「…それでも、それでも俺は陸の事が好きなんだ。陸となら抱き合いたい、一方的にじゃなくて、ちゃんと俺のことを見て、感じてくれるんなら…っ」

「ごめん、ごめん水!」

すごい勢いで引き寄せられて、強い力で抱きしめられる。首筋に顔を埋められて吐息がかかり、俺の体がピクンと反応した。だけど陸はそんな俺には気が付かないようで、言葉を続ける。

「俺…、自分の事しか考えてなかった。水のこと好きになってから、水に触れたくて自分だけのものにしたくて。だけど嫌われるのが怖くてずっと我慢してた。……限界だったんだ。待ってって言われたとき、待てるかって思った」
「陸…」

陸は俺をゆっくり引き離して、俺の顔を真っ直ぐに見た。

「だけど、水を傷つけたって思って怖くなった。……俺は、水に触れるだけじゃ我慢できないんだ。それどころか、もっと…もっと欲しくなる」

真っ直ぐ俺を見るその目は揺れていて、自信なさげに見えた。
俺は一歩近寄って、陸の指を掴んだ。
瞳は揺れたまま、陸が俺を凝視する。


「我慢しなくていい…。だけど、俺をちゃんと見て感じて欲しい。俺だって陸が欲しいから……。だから…」

気持ちを伝えたくて、陸の目をしっかり見つめる俺に、陸の手が伸びる。伸びた手は俺の頬に触れてもう片方の手は掴んだ俺の指ごと引き寄せる。

「キス、していいか?」
「…っ。そんなこと…」
「聞くよ。もう一方的な事はしない」

至って真面目な表情だけど、俺を困らせようとしているだけのような気もする。

「水…?」

眉を下げてじっと見るのもやめてほしい。
………。


「…いいに決まってるだろ。…バカ」

口を尖らせて不服そうに言う俺に、陸は嬉しそうに笑った。
笑って俺を引き寄せて――


ふわりと優しく、俺の唇を塞いだ。
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