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俺に触れて?
陸の躊躇、水の決意
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「…涼さん」
2人に気を取られているうちに、陸が涼さんのところに移動していた。
珍しいなと思ってつい陸を見てしまう。礼人も同じ思いだったのか、彼も陸の方を見ていた。
「ん? なんだ?」
「…旅行は、決まりですか?」
「そのつもりだけど? 嫌なのか?」
「…嫌と言うわけじゃ…」
そう言いながら、陸がチラリとこちらを見た。
…何だ?
「礼人の言ってた部屋割りを、変更してもらいたいんですけど」
「部屋割り? どういう風に?」
「…安いから水とセミダブルって言ってたけど、水はシングルにしてください。それか雑魚寝で」
「だーかーらー、あのホテルに大部屋は無いって言ってんだろ。それにシングルってなんだよ」
さっきから主張を変えようとしない陸に、礼人が呆れて声を張り上げた。礼人だけじゃない、千佳も、何言ってんだと言うように、寝転びながら抗議の声を上げる。
「なに言ってんのさ、クロ。恋人同士だろ? シロほっとくなんて、どういう根性だよ!」
「…お前らとは違う」
目を逸らし、らしくなく弱弱しく答える陸に、千佳が眉根を寄せた。
「何だよ、さっきはあんなに熱烈なラブシーン見せてくれたくせに」
千佳の言葉に、一瞬ピクリと体を揺らし、視線を下に向けた。
そして、しばらくの沈黙。
煮え切らない陸に、みんなが一斉に注目する。
少し間を空けて、陸がぼそりと呟いた。
「…あんなもんじゃねーよ」
それはあまりにも小さな声だったので、俺たちは陸が何を言ったのか聞こえてはいなかった。
「とにかく、みんなで雑魚寝。それか水はシングル、百歩譲って工藤とのツインじゃない限りは、俺は反対だからな」
顔を上げた陸のその表情は、さっきまでのそれとは一変して、意思の強いものになっていた。
「陸…」
頑なというくらいに、俺との2人部屋になるのを拒む陸に、俺の心が情けなく揺れた。
その表情を読み取ったのか、陸が真っ直ぐ俺を見る。
「大事にしたいんだ。ちゃんとやり直したいから…」
まるで傷ついた子供が必死に縋りつくような表情で、俺を見る陸。
もしかしたらアノことで、傷ついてしまったのは俺よりも陸だったんじゃないだろうか。
気にしなくてもいいのに…。だけどきっと、俺が今そう言っても陸は聞かないんだろう。
「分かった。良いよ、それで。だからみんなで一緒に旅行に行こう。良いだろ?」
「ああ」
俺の返事に、陸はホッとしたような顔をした。
ぐらつきそうな心。
だけど、陸の強い思いが俺に向いていることは、自惚れなんかじゃなく、ちゃんとあると分かったから。
だからちゃんと、俺の気持ちを分かってもらう機会を作らなきゃならない。
そのためにもこの旅行を切っ掛けにしなければと、俺は強く思った。
いったん、千佳と一緒のツインにするという事にして、現地で交替しようという話をする。
千佳は大丈夫?と心配するけど、それくらいの荒療治が俺らには必要だと思うから。
2人に気を取られているうちに、陸が涼さんのところに移動していた。
珍しいなと思ってつい陸を見てしまう。礼人も同じ思いだったのか、彼も陸の方を見ていた。
「ん? なんだ?」
「…旅行は、決まりですか?」
「そのつもりだけど? 嫌なのか?」
「…嫌と言うわけじゃ…」
そう言いながら、陸がチラリとこちらを見た。
…何だ?
「礼人の言ってた部屋割りを、変更してもらいたいんですけど」
「部屋割り? どういう風に?」
「…安いから水とセミダブルって言ってたけど、水はシングルにしてください。それか雑魚寝で」
「だーかーらー、あのホテルに大部屋は無いって言ってんだろ。それにシングルってなんだよ」
さっきから主張を変えようとしない陸に、礼人が呆れて声を張り上げた。礼人だけじゃない、千佳も、何言ってんだと言うように、寝転びながら抗議の声を上げる。
「なに言ってんのさ、クロ。恋人同士だろ? シロほっとくなんて、どういう根性だよ!」
「…お前らとは違う」
目を逸らし、らしくなく弱弱しく答える陸に、千佳が眉根を寄せた。
「何だよ、さっきはあんなに熱烈なラブシーン見せてくれたくせに」
千佳の言葉に、一瞬ピクリと体を揺らし、視線を下に向けた。
そして、しばらくの沈黙。
煮え切らない陸に、みんなが一斉に注目する。
少し間を空けて、陸がぼそりと呟いた。
「…あんなもんじゃねーよ」
それはあまりにも小さな声だったので、俺たちは陸が何を言ったのか聞こえてはいなかった。
「とにかく、みんなで雑魚寝。それか水はシングル、百歩譲って工藤とのツインじゃない限りは、俺は反対だからな」
顔を上げた陸のその表情は、さっきまでのそれとは一変して、意思の強いものになっていた。
「陸…」
頑なというくらいに、俺との2人部屋になるのを拒む陸に、俺の心が情けなく揺れた。
その表情を読み取ったのか、陸が真っ直ぐ俺を見る。
「大事にしたいんだ。ちゃんとやり直したいから…」
まるで傷ついた子供が必死に縋りつくような表情で、俺を見る陸。
もしかしたらアノことで、傷ついてしまったのは俺よりも陸だったんじゃないだろうか。
気にしなくてもいいのに…。だけどきっと、俺が今そう言っても陸は聞かないんだろう。
「分かった。良いよ、それで。だからみんなで一緒に旅行に行こう。良いだろ?」
「ああ」
俺の返事に、陸はホッとしたような顔をした。
ぐらつきそうな心。
だけど、陸の強い思いが俺に向いていることは、自惚れなんかじゃなく、ちゃんとあると分かったから。
だからちゃんと、俺の気持ちを分かってもらう機会を作らなきゃならない。
そのためにもこの旅行を切っ掛けにしなければと、俺は強く思った。
いったん、千佳と一緒のツインにするという事にして、現地で交替しようという話をする。
千佳は大丈夫?と心配するけど、それくらいの荒療治が俺らには必要だと思うから。
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