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水魔法発動!

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 いや、よく見ると、怖い顔というより青ざめている。唇をかみしめ拳を震わせ、何か悲愴なことを決意しているかのような顔だ。と思ったとたんサラが階段から飛び降りた。

 何? 何考えてんの、こいつ?
 
 とっさに、脳裏に風魔法が付与された剣に助けられたことを思い出した。
 あの時みたいに、今度は僕の水魔法でクッションのようなかたまりを作ることができれば。
 今までにないくらいの勢いで念じ、水魔法を発動させた。大量の水をなるべく固く、ぎゅっとまとまるように。サラの体にまとわりつくように。

「きゃああっ、サラ様!」

 叫び声にハッとしてつぶっていた目を開けると、サラは階段の下でぼくの作った水のクッションを下敷きに、ぽよんぽよんとしている。
 ……無事だった。

 安堵で体の力が抜けた。ヘタッとその場でしゃがみ込む。

「すごいですわ、ノエル様! サラ様の恩人です!」
「すごい水魔法だな! とっさにあんなことができるなんてすごいよ!」
 
 偶然居合わせた人や騒ぎに気が付いて駆けつけた人たちにはやし立てられて、ぼくは力ない笑い声を発するしかできなかった。

「サラ様、サラ様大丈夫ですか?」
 サラは気を失っているみたいだった。近くにいたフローラ嬢がサラを起こそうと、頬を軽くたたいている。

「ん……」
 サラが気がついたようだ。フローラ嬢の顔がパッと明るくなる。
「皆さん、サラ様が気が付かれましたわよ!」
 おおーっ!と歓声が湧き上がった。みんなサラの無事を喜んでいる。

「私……?」
「良かったですわ! サラ様が誤って階段から転落したところ、ノエル様が水魔法
で助けてくださったのですよ!」
 満面の笑みでサラに現状を伝えるフローラ嬢に対して、サラの表情が一瞬強張った。

「サラ様?」
「あ、ごめんなさい。あの……私、誰かに突き飛ばされたかと思ったんですけど……」

「ええっ、そうなのですか? 私が通りがかった時は、ノエル様が一生懸命水魔法を発動しているところでしたの。誰がそんなことをしたのか存じませんけど、良かったですわ、そばにノエル様がいらして。ねえ?みなさま!」
「そうだよな。ノエル様がいなければ大惨事だ」
「ノエル様は大恩人ですわね!」

「え、ええ……」

 サラは力なく笑っていたけれど、握った拳が小さく震えているのをぼくは見逃さなかった。
 、ではなくと本当は言いたかったのだろう。
 
 サラはきっと、ぼくを陥れようとしていた。


★★★★★★★★


 なんで? なんで一番大事な今回に限って、こうもうまくいかないの? 
 おかしいじゃないの、一体何がどうなっているのよ!
 
 悔しいことにサラの体はどこも痛くはなかった。ノエルのとっさの水魔法が完璧だったということだ。
 校舎裏のひと気のない林でサラはひとり歯噛みをしていた。

「ご令嬢がそんな顔をされていては、恐ろしいですよ?」突然声をかけられてビクッとする。
「なにを……って、あなた……」

 男の顔を見て、サラは絶句した。
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