上 下
17 / 57

テラス席

しおりを挟む
 一瞬ニコッとまたぼくに笑顔を見せた後、ルークは突然走り出して、そこから姿を消した。
「あれ? どこいっちゃったんでしょうね」
「うん」
 先生に呼ばれたか、それか先生を見つけて質問しに走っていったのか。きっとそのどちらかだろう。成績のいいルークだけど、たとえ地頭が良かったとしても、彼は努力を怠らない人だ。
 言ったことないけど、彼のそういうところをぼくは尊敬していたりするんだ。

 ああ……、でもそれってもしかしたら、先祖からの血筋なのかもしれないな。クラーク家はかつて魔術師追放などのごたごた時に攻め入ってきた他国との戦争で、怒涛の働きで敵を退けた功績によって公爵位を得たのだから。

「あっ、ルーク様だ」
 誰かの一声で、教室内がざわざわと騒がしくなった。
 ぼくもその声につられて入り口をみると、ルークがぼくに手を振った。

 もしかしてぼくに会うために走ってきてくれたの?

 慌てて席を立ってルークの元へ行く。そばには、さっきは気がつかなかったけれど、ルークがこの学園で知り合った友人、ウインター侯爵家の三男クリスがいた。
 彼とは本当に気が合うようでよく一緒に居た。……でも確か卒業近くには、疎遠になってた記憶があるんだよな。

「こんにちは、ルーク様」
「こんにちは」
 ルークは照れたように笑った後、「お昼時間のことなんだけど」と切り出した。
「はい」
「ランチは、テラス席で食べないか?」

 テラス席とは婚約者同士のカップルのために作られた席だ。テラス席は数席しかないので予約制になり、そこを取れなかったカップルは校庭にあるベンチで食べるのが主だったりする。もちろん、普通にみんなと一緒に食堂で食べるカップルも大勢いるのだが。

 この国は人口減少のショックからまだ立ち直れずにいるがゆえに、婚約しているもの、将来を誓いあった恋人同士たちに対してのフォローが細やかなのだ。

  前回もやはり、ルークはたびたびテラス席を予約してくれた。
 だけど今回は――

「いいのですか? ぼくらはまだ正式に婚約はしてませんけど」
「それはちゃんと確認を取ってある。一年以内に婚約する予定だと言ったら、快諾してくれた」
「そうなんですか……」
「ノエル?」

 さっきの、サラがルークに接近している様子を見て怖くなっている自分がいた。今はまだルークが彼女に対して興味がなかったとしても、これから先はどうなる?
 悶々としているぼくを見て、アーネストがぼくの肩をポンと叩いた。

「もしかしてノエル様、私のこと気にしてくださってます?」
「えっ?」
「私にぼっち飯させるの悪いと思っているんでしょう?」
 にこにこと笑いながら言うアーネストに、ぼくは少したじろいだ。だって、アーネストがぼくの背中を押すために、そういう言い方をしているんだろうっていうのはすぐに察しがついたから。

「そうなのかい?」
 ルークの横からクリスがぼくに尋ねた。

「えっ、まあ……」
 モゴモゴと返事をするぼくを見て、ルークもクリスもそうなのかと納得したみたいだった。

「だったらアーネストは僕と一緒にお昼を取りましょう。お互いぼっち飯になるところでしたからね」
「それは喜んで」

 商談成立といった2人を見てルーくがぼくの顔を見る。これはもう、オーケーするしかないようだ。

「それじゃあお昼よろしくお願いします。 ぼくの方から誘いに行った方がいいですか? 」
「何言ってるの。エスコートは僕にさせて?」

 ああ、またキラキラと笑顔が輝いている。これにはやっぱりぼくは太刀打ちできない。

「はい……」

 こくんと頷いて返事をすると背後がざわざわと騒がしくなった。

 あーっ、みんなが聞き耳立ててたんだ……!
 騒がれなきゃいいけど……。

 ちらりとルークを窺うも、彼は何も気にしてる様子はなく、ただニコニコと笑っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵の愛人だったと誤解された私の結婚は2か月で終わりました

しゃーりん
恋愛
子爵令嬢アリーズは、侯爵家で侍女として働いていたが、そこの主人に抱きしめられているところを夫人に見られて愛人だと誤解され、首になって実家に戻った。 夫を誘惑する女だと社交界に広められてしまい、侍女として働くことも難しくなった時、元雇い主の侯爵が申し訳なかったと嫁ぎ先を紹介してくれる。 しかし、相手は妻が不貞相手と心中し昨年醜聞になった男爵で、アリーズのことを侯爵の愛人だったと信じていたため、初夜は散々。 しかも、夫が愛人にした侍女が妊娠。 離婚を望むアリーズと平民を妻にしたくないために離婚を望まない夫。というお話です。

やってしまいましたわね、あの方たち

玲羅
恋愛
グランディエネ・フラントールはかつてないほど怒っていた。理由は目の前で繰り広げられている、この国の第3王女による従兄への婚約破棄。 蒼氷の魔女と噂されるグランディエネの足元からピキピキと音を立てて豪奢な王宮の夜会会場が凍りついていく。 王家の夜会で繰り広げられた、婚約破棄の傍観者のカップルの会話です。主人公が婚約破棄に関わることはありません。

ヘンリエッタの再婚約

桃井すもも
恋愛
ヘンリエッタは学園の卒業を半年後に控えたある日、縁談を打診される。 それは王国の第二王子殿下からの勧めであるらしく、文には王家の金色の封蝋が見えていた。 そんな事ってあるだろうか。ヘンリエッタは第二王子殿下が無理にこの婚約を推し進めるのであれば、一層修道院にでも駆け込んで、決して言うがままにはされるまいと思った。 それもその筈、婚約話しの相手とは元の婚約者であった。 元婚約者のハロルドとは、彼が他に愛を移した事から婚約を解消した過去がある。 あれ以来、ヘンリエッタはひと粒の涙も零す事が無くなった。涙は既に枯れてしまった。 ❇短編から長編へ変更致しました。 ❇R15短編→後半より長編R18へ変更となりました。 ❇登場人物のお名前が他作品とダダ被りしておりますが、皆様別人でございます。 ❇相変わらずの100%妄想の産物です。史実とは異なっております。 ❇外道要素を含みます。苦手な方はお逃げ下さい。 ❇妄想遠泳の果てに波打ち際に打ち上げられた妄想スイマーによる寝物語です。 疲れたお心とお身体を妄想で癒やして頂けますと泳ぎ甲斐があります。 ❇座右の銘は「知らないことは書けない」「嘘をつくなら最後まで」。 ❇例の如く、鬼の誤字脱字を修復すべく公開後から激しい微修正が入ります。 「間を置いて二度美味しい」とご笑覧下さい。

「私が愛するのは王妃のみだ、君を愛することはない」私だって会ったばかりの人を愛したりしませんけど。

下菊みこと
恋愛
このヒロイン、実は…結構逞しい性格を持ち合わせている。 レティシアは貧乏な男爵家の長女。実家の男爵家に少しでも貢献するために、国王陛下の側妃となる。しかし国王陛下は王妃殿下を溺愛しており、レティシアに失礼な態度をとってきた!レティシアはそれに対して、一言言い返す。それに対する国王陛下の反応は? 小説家になろう様でも投稿しています。

未亡人となった側妃は、故郷に戻ることにした

星ふくろう
恋愛
 カトリーナは帝国と王国の同盟により、先代国王の側室として王国にやって来た。  帝国皇女は正式な結婚式を挙げる前に夫を失ってしまう。  その後、義理の息子になる第二王子の正妃として命じられたが、王子は彼女を嫌い浮気相手を溺愛する。  数度の恥知らずな婚約破棄を言い渡された時、カトリーナは帝国に戻ろうと決めたのだった。    他の投稿サイトでも掲載しています。

高貴な血筋の正妻の私より、どうしてもあの子が欲しいなら、私と離婚しましょうよ!

ヘロディア
恋愛
主人公・リュエル・エルンは身分の高い貴族のエルン家の二女。そして年ごろになり、嫁いだ家の夫・ラズ・ファルセットは彼女よりも他の女性に夢中になり続けるという日々を過ごしていた。 しかし彼女にも、本当に愛する人・ジャックが現れ、夫と過ごす夜に、とうとう離婚を切り出す。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

婚約破棄はいいですが、あなた学院に届け出てる仕事と違いませんか?

来住野つかさ
恋愛
侯爵令嬢オリヴィア・マルティネスの現在の状況を端的に表すならば、絶体絶命と言える。何故なら今は王立学院卒業式の記念パーティの真っ最中。華々しいこの催しの中で、婚約者のシェルドン第三王子殿下に婚約破棄と断罪を言い渡されているからだ。 パン屋で働く苦学生・平民のミナを隣において、シェルドン殿下と側近候補達に断罪される段になって、オリヴィアは先手を打つ。「ミナさん、あなた学院に提出している『就業許可申請書』に書いた勤務内容に偽りがありますわよね?」―― よくある婚約破棄ものです。R15は保険です。あからさまな表現はないはずです。 ※この作品は『カクヨム』『小説家になろう』にも掲載しています。

処理中です...