156 / 161
君と運命の糸で繋がっている
ずっと君が欲しかった
しおりを挟む
宿に着いた後、鈴海は仕事をしないといけないからと言って、すぐ裏に回ってしまった。本当はもう少し藤との余韻を味わっていたかったのだが、そんな我儘を言うわけにもいかないので、朔也はそのまま宛がわれた部屋へと入った。
「失礼します」
夕食も風呂も済ませて、かなりの時間が経った頃、鈴海が姿を見せた。
「仕事は? もう済んだのか?」
「はい。もうみんな休んでいます」
かなり緊張しているのだろう。鈴海は落ち着かないようで、立ったままだ。手はぎこちなく、自分の着物を掴んだり離したりしている。
「おいで」
朔也は急く自分の気持ちを押し隠し、鈴海を手招きする。呼ばれた鈴海が、ぎこちなく朔也の前で正座した。
「緊張しすぎ」
「だ…、だって……」
朔也はそっと鈴海に顔を近づけて、少し開いた唇を軽く啄んだ。
一瞬の出来事に、鈴海がポカンとする。朔也にされた事に、どうやら頭がついて来れなかったらしい。
2、3度瞬いた後、真っ赤になった。
「さ、朔也っ!!」
真っ赤になって抗議する鈴海の顔を、朔也は楽しそうに見ていたが、すぐに真顔になって鈴海に向き合った。
「僕と藤は、恋人だった。僕にとっての彼は、唯一無二の存在で、それは生まれ変わりである君に対しても同じだ」
「朔也……」
鈴海は照れているのか戸惑っているのか、目をぱちぱちとさせながら赤い顔で朔也の顔を見ている。
「大丈夫。僕は辛抱強い方だから、君が本当に嫌がることはしないよ」
「い、嫌じゃないです!」
赤い顔のままの鈴海が、朔也の手をギュッと握る。突然の鈴海の行動に、今度は朔也の方が瞬いた。
「…正直、自分の気持ちがぐちゃぐちゃで、よく分からない事はあります…。だけど僕が戸惑っているのは、あなたとの関係ではないです…」
俯いて、ポツリポツリと自分の気持ちを吐露する鈴海。
朔也は急かすことなく、じっと聞き入った。そして、それに押されるように、鈴海は訥々と話を続けた。
「僕の前世は藤で、僕と藤とは魂が一緒だから同一人物だってことは分かるんですけど。…だけど、それなのに、僕は少し藤に嫉妬している。あなたとの過去に関わっている藤に……。同じはずなのに何も覚えていないし、共有できないことが…、すごく悔しくって……」
そう言って、鈴海は握りしめた手をそのままに、どうしたらいいのかという表情で朔也を見つめる。そのすがるような鈴海の表情に、朔也の胸の内に熱いものがこみ上げて来た。
「鈴海…」
朔也は握られているその手をそっと外して、鈴海の背中に腕を回す。そしてしっかりと抱き寄せた。
「藤と呼んでください…。僕は、僕は藤だから…」
朔也の胸に頬を擦りつけて縋るように言う鈴海に、先ほどこみ上げて来た熱い感情が愛しさへと変化する。朔也は鈴海をそっと押し倒して唇を重ね合わせた。
「失礼します」
夕食も風呂も済ませて、かなりの時間が経った頃、鈴海が姿を見せた。
「仕事は? もう済んだのか?」
「はい。もうみんな休んでいます」
かなり緊張しているのだろう。鈴海は落ち着かないようで、立ったままだ。手はぎこちなく、自分の着物を掴んだり離したりしている。
「おいで」
朔也は急く自分の気持ちを押し隠し、鈴海を手招きする。呼ばれた鈴海が、ぎこちなく朔也の前で正座した。
「緊張しすぎ」
「だ…、だって……」
朔也はそっと鈴海に顔を近づけて、少し開いた唇を軽く啄んだ。
一瞬の出来事に、鈴海がポカンとする。朔也にされた事に、どうやら頭がついて来れなかったらしい。
2、3度瞬いた後、真っ赤になった。
「さ、朔也っ!!」
真っ赤になって抗議する鈴海の顔を、朔也は楽しそうに見ていたが、すぐに真顔になって鈴海に向き合った。
「僕と藤は、恋人だった。僕にとっての彼は、唯一無二の存在で、それは生まれ変わりである君に対しても同じだ」
「朔也……」
鈴海は照れているのか戸惑っているのか、目をぱちぱちとさせながら赤い顔で朔也の顔を見ている。
「大丈夫。僕は辛抱強い方だから、君が本当に嫌がることはしないよ」
「い、嫌じゃないです!」
赤い顔のままの鈴海が、朔也の手をギュッと握る。突然の鈴海の行動に、今度は朔也の方が瞬いた。
「…正直、自分の気持ちがぐちゃぐちゃで、よく分からない事はあります…。だけど僕が戸惑っているのは、あなたとの関係ではないです…」
俯いて、ポツリポツリと自分の気持ちを吐露する鈴海。
朔也は急かすことなく、じっと聞き入った。そして、それに押されるように、鈴海は訥々と話を続けた。
「僕の前世は藤で、僕と藤とは魂が一緒だから同一人物だってことは分かるんですけど。…だけど、それなのに、僕は少し藤に嫉妬している。あなたとの過去に関わっている藤に……。同じはずなのに何も覚えていないし、共有できないことが…、すごく悔しくって……」
そう言って、鈴海は握りしめた手をそのままに、どうしたらいいのかという表情で朔也を見つめる。そのすがるような鈴海の表情に、朔也の胸の内に熱いものがこみ上げて来た。
「鈴海…」
朔也は握られているその手をそっと外して、鈴海の背中に腕を回す。そしてしっかりと抱き寄せた。
「藤と呼んでください…。僕は、僕は藤だから…」
朔也の胸に頬を擦りつけて縋るように言う鈴海に、先ほどこみ上げて来た熱い感情が愛しさへと変化する。朔也は鈴海をそっと押し倒して唇を重ね合わせた。
10
お気に入りに追加
224
あなたにおすすめの小説
当たって砕けていたら彼氏ができました
ちとせあき
BL
毎月24日は覚悟の日だ。
学校で少し浮いてる三倉莉緒は王子様のような同級生、寺田紘に恋をしている。
教室で意図せず公開告白をしてしまって以来、欠かさずしている月に1度の告白だが、19回目の告白でやっと心が砕けた。
諦めようとする莉緒に突っかかってくるのはあれ程告白を拒否してきた紘で…。
寺田絋
自分と同じくらいモテる莉緒がムカついたのでちょっかいをかけたら好かれた残念男子
×
三倉莉緒
クールイケメン男子と思われているただの陰キャ
そういうシーンはありませんが一応R15にしておきました。
お気に入り登録ありがとうございます。なんだか嬉しいので載せるか迷った紘視点を追加で投稿します。ただ紘は残念な子過ぎるので莉緒視点と印象が変わると思います。ご注意ください。
お気に入り登録100ありがとうございます。お付き合いに浮かれている二人の小話投稿しました。
花いちもんめ
月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。
ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。
大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。
涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。
「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。
君がいないと
夏目流羽
BL
【BL】年下イケメン×年上美人
大学生『三上蓮』は同棲中の恋人『瀬野晶』がいても女の子との浮気を繰り返していた。
浮気を黙認する晶にいつしか隠す気もなくなり、その日も晶の目の前でセフレとホテルへ……
それでも笑顔でおかえりと迎える晶に謝ることもなく眠った蓮
翌朝彼のもとに残っていたのは、一通の手紙とーーー
* * * * *
こちらは【恋をしたから終わりにしよう】の姉妹作です。
似通ったキャラ設定で2つの話を思い付いたので……笑
なんとなく(?)似てるけど別のお話として読んで頂ければと思います^ ^
2020.05.29
完結しました!
読んでくださった皆さま、反応くださった皆さま
本当にありがとうございます^ ^
2020.06.27
『SS・ふたりの世界』追加
Twitter↓
@rurunovel
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる