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君と運命の糸で繋がっている

記憶の切れ端

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「話して…、くれるか?」

ギュッと鈴海の手を握りしめて、朔也は先ほどの鈴海の言葉の意味を話してくれるように促した。

「はい…」

鈴海は参道の外れにある木の切り株に朔也を誘導し、今まで鈴海が抱えていた事を話しだす。

「…夢を見るんです」
「夢?」
「はい。…ほとんどが凄く悲しい夢で、相手の顔はぼんやりとしていてはっきりとは見えないんですが、誰かが僕の事を『藤、藤』って…。泣き叫ぶような必死な声で…」

思い出して辛くなったのか、鈴海の身体が小刻みに震える。朔也は、彼を握りしめているその手を離して、鈴海の腕を宥めるように擦った。
その朔也の行為に対し、しばらく目を閉じて己の気持ちを静めていた鈴海は、また話を進めようと口を開いた。

「……不思議なんですけど、僕の名前は藤では無いのに、その夢の中では明らかに自分の名前だって意識があるんです」

そう言って朔也の顔を見る鈴海に、頷いて先を促した。

「物心ついてから何度となくそんな夢ばかりを見続けていたから、あり得ない事だとは思ったんですけど、いつも夢に出てくる人は、何か訳があって僕の事を探している人なんだと信じるようになってました」

「そう…か」

朔也にはその夢の心当たりがあった。
藤が殺された時に、信じたくなくて生き返ってほしくて、必死になって叫び続けた藤の名前。それがきっと天国に召されていく藤の魂に届いていたのだろう。
そう思い当たった朔也は、結果的にそれが鈴海を苦しませることに繋がっていたのかと思うと、申し訳ない気持ちと同時に、嬉しいとさえ思ってしまっていた。

ちゃんと届いていた自分の思いと声。
そしてそれがあったからこそ、鈴海が藤の記憶の一端を、ほんのわずかでさえ持つことが出来たのだ。

「…夢はいつも、そんな悲しい声ばかりだったのか?」

出来れば楽しかった事や2人でいる時の幸せな記憶も、鈴海の記憶の一端に繋がっていてほしいと思った。

「いいえ。……優しく、なんて言うか…、嬉しそうに僕を呼ぶときもありました……」
「え……?」

目を伏せた鈴海が、どこか嬉しそうに呟く。
朔也の表情も、それにつられて頬を緩めそうになったその時――、

鈴海の瞳から涙が一粒零れ落ちた。

びっくりして一瞬動きが止まった朔也に、鈴海が慌てて涙を拭いて眼前で両手をパタパタと動かした。

「あ、すっすいません。大丈夫です!」

驚きのあまり心配の表情を変えることの出来ない朔也に、鈴海は苦笑する。

「…逆に、そういった優しく楽しい夢があったりすると、悲痛に僕を呼ぶその人の叫び声が、よけいに苦しくなったりして……。……本当に変な話なんですけど、僕にとってはいつの間にか、現実で起こっている出来事よりも、夢の中で僕を呼び続けるその人の事が、特別な存在になっていたんです」

そして徐に顔を上げ、鈴海は朔也の顔をじっと見る。


「……そしたら、あなたが僕に会いに来てくれた」


朔也の心臓がドキンと跳ねあがる。

真っ直ぐ自分を見つめる鈴海が愛しい。

「藤……」
思わずまたポツリと零れた名前。
朔也は『あっ』という表情をして、言い直そうとしたところを鈴海が止めた。

「構いません、僕は小さい時からずっとあなたにそう呼ばれてきた。……僕の心の奥には、自分が藤だという意識は、ちゃんとあります」

鈴海のその言葉に、必死で平静を装っていた朔也の心の箍が外れた。
腕を伸ばして鈴海を引き寄せ、彼の髪に顔を埋める。そしてきつく抱きしめた。

「藤…、藤……っ、藤……」


うわごとのように名を呼び続け、きつく抱きしめ続ける朔也を、鈴海はじっと目を閉じて受け入れた。
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