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優しい人たち
変わらない2人
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雫や奏汰と別れて2人になった時、朔也が雫と何を話したのかと藤に聞いた。
その問いに藤はちょっと頬を赤くする。まさか朔也が手が早そうだから、我慢してるのかもしれないと言われただなんて、当の本人に言えるわけがない。
もちろん、諸々の藤の葛藤についてもだ。
「あ…、えっと。お似合いだし幸せそうだねって」
赤い顔で上目遣いにボソボソと言う藤に、朔也はちょっぴり目を丸くした。
遠くから見た感じでは、少ししんみりした話でもしているのかと思っていたので、藤の反応が意外だったのだ。
「そう…か」
嘘を言っているようには見えない藤の表情に、自分の考え過ぎだったかと、朔也は思い直した。
藤がじっと朔也の顔を見つめている。それに気づいた朔也が、藤の肩を抱き寄せた。
そんな朔也にホッとしたように、藤は自分からもキュッと抱き着いた。
「…ぼく、朔也にこうやって甘えていられるのが、すごく嬉しいんだ。…朔也は、ぼくだけのものだよね?」
「ああ。もちろん、君も僕だけのものだけどな」
「うん」
顔を上げて朔也の目を見つめて、しっかりと藤が頷いた。
今はそれだけでいい。
ずっと家族として仲間として在った関係を、突然変えることを危惧し躊躇する2人は、ゆっくり進んでいければとお互い心の中でそう思っていた。
「藤、食事だ」
家に着いて、いつものように朔也から"気"を貰う。
しっかりと朔也に抱き着いて、触れたところから流れ込んでくる温かく気持ちのいい"気"に、藤がうっとりと目を閉じた。
「…藤?」
「…ん~?」
気持ち良すぎて離れたくなくて、しっかりと朔也にしがみ付いたまま藤がトロンと返事をする。
「自分でも食事、したのか?」
「…うん」
朔也が頭を撫でてくるので、もう藤は飼い猫状態だ。気持ち良さに喉を鳴らす猫のように、頬を擦りつける。
「なんで?」
「…え? なに…?」
「僕で練習しろって前に言っただろ? 最近は何も言ってこないから、練習の熱が冷めたのかと思っていたんだけど」
東雲の寮にいた頃、藤が他人で練習していたとき朔也が危なっかしいと心配し、自分相手に練習するように勧めていたのだ。だが結局は、それも藤の飽きっぽさからそう長くは続かなったのだが。
「…褒めてもらいたかったんだけどな」
「え?」
少し拗ねたような口調になった藤に、今度は朔也がキョトンとする。
「前もバレたから、バレちゃうかもとは思ったんだけど…。バレなきゃ"気"を吸収するのが上手くなってから朔也に披露したら褒めてくれるんじゃないかなって思ったから……」
「藤…」
藤の一連の行動の動機が、自分に褒められたかったからだと知り、朔也の胸に温かいものが込み上げてきた。
ぎゅうっと、朔也が藤を抱く腕に力を込める。
「褒めるよ。褒めるに決まってる」
「本当?」
「ああ、本当だ。…だけど出来れば僕で練習してくれた方が安心できるんだけどな」
「そうなの?」
朔也の言葉に納得した藤は、気持ち良さそうに目を閉じる。朔也は藤を抱きしめたままこっそり苦笑し、自分の狭量さや心配性加減に心の中でため息を吐いていた。
その問いに藤はちょっと頬を赤くする。まさか朔也が手が早そうだから、我慢してるのかもしれないと言われただなんて、当の本人に言えるわけがない。
もちろん、諸々の藤の葛藤についてもだ。
「あ…、えっと。お似合いだし幸せそうだねって」
赤い顔で上目遣いにボソボソと言う藤に、朔也はちょっぴり目を丸くした。
遠くから見た感じでは、少ししんみりした話でもしているのかと思っていたので、藤の反応が意外だったのだ。
「そう…か」
嘘を言っているようには見えない藤の表情に、自分の考え過ぎだったかと、朔也は思い直した。
藤がじっと朔也の顔を見つめている。それに気づいた朔也が、藤の肩を抱き寄せた。
そんな朔也にホッとしたように、藤は自分からもキュッと抱き着いた。
「…ぼく、朔也にこうやって甘えていられるのが、すごく嬉しいんだ。…朔也は、ぼくだけのものだよね?」
「ああ。もちろん、君も僕だけのものだけどな」
「うん」
顔を上げて朔也の目を見つめて、しっかりと藤が頷いた。
今はそれだけでいい。
ずっと家族として仲間として在った関係を、突然変えることを危惧し躊躇する2人は、ゆっくり進んでいければとお互い心の中でそう思っていた。
「藤、食事だ」
家に着いて、いつものように朔也から"気"を貰う。
しっかりと朔也に抱き着いて、触れたところから流れ込んでくる温かく気持ちのいい"気"に、藤がうっとりと目を閉じた。
「…藤?」
「…ん~?」
気持ち良すぎて離れたくなくて、しっかりと朔也にしがみ付いたまま藤がトロンと返事をする。
「自分でも食事、したのか?」
「…うん」
朔也が頭を撫でてくるので、もう藤は飼い猫状態だ。気持ち良さに喉を鳴らす猫のように、頬を擦りつける。
「なんで?」
「…え? なに…?」
「僕で練習しろって前に言っただろ? 最近は何も言ってこないから、練習の熱が冷めたのかと思っていたんだけど」
東雲の寮にいた頃、藤が他人で練習していたとき朔也が危なっかしいと心配し、自分相手に練習するように勧めていたのだ。だが結局は、それも藤の飽きっぽさからそう長くは続かなったのだが。
「…褒めてもらいたかったんだけどな」
「え?」
少し拗ねたような口調になった藤に、今度は朔也がキョトンとする。
「前もバレたから、バレちゃうかもとは思ったんだけど…。バレなきゃ"気"を吸収するのが上手くなってから朔也に披露したら褒めてくれるんじゃないかなって思ったから……」
「藤…」
藤の一連の行動の動機が、自分に褒められたかったからだと知り、朔也の胸に温かいものが込み上げてきた。
ぎゅうっと、朔也が藤を抱く腕に力を込める。
「褒めるよ。褒めるに決まってる」
「本当?」
「ああ、本当だ。…だけど出来れば僕で練習してくれた方が安心できるんだけどな」
「そうなの?」
朔也の言葉に納得した藤は、気持ち良さそうに目を閉じる。朔也は藤を抱きしめたままこっそり苦笑し、自分の狭量さや心配性加減に心の中でため息を吐いていた。
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