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優しい人たち

戸惑う朔也2

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昼休みに入り、皆が一旦家に帰る準備を始めた。藤のもとに宰牙がやって来る。

「藤、途中まで一緒に帰ろうぜ」
「うん、いいよ。ね? 朔也」
「…ああ」

普段ならこんな時、声を掛けられたのが藤だとしても、返事をするのを躊躇して朔也に意見を求めるのが常だった。やはり今日の藤は明らかに今までとは違っている。
朔也の心の中はモヤモヤとして、落ち着かなかった。

思えば、朔也に藤を甘やかしすぎていると注意してきたのも宰牙だった。自分が藤と仲良くなりたいからあんな事を言ってきたのではないかと穿ちたくもなるが、かと言って、雄大のように一気に危うい方向に流れていくようにも見えないので、あえて警戒心を藤に植え付けるのも行き過ぎなような気もする。

藤に対する独占欲と、保護者としての立場での狭間で、朔也は一人葛藤していた。


「じゃあ、また後でな」

帰宅途中、帰る方向が違うところで宰牙と柊と別れた。2人に軽く手を振って、自分たちの家へと向かう。
朔也はそこで初めて、今までモヤモヤしている疑問を藤に尋ねてみた。

「…藤、どうかしたのか?」
「どうかって?」
「…いつもと違うだろ? 僕の傍にいないようにしてるようにも見えるし」

朔也の言葉に藤は目を丸くする。

「え? そんなわけないよ」
「……」

即座に否定したが、朔也はその返事を気に入らないようで藤をじっと無言のままで見つめている。
その朔也の表情に、藤も仕方がないなという風情で、口を開いた。

「…卒業しようかなって思っただけだよ」
「卒業?」
「…うん。今までぼく、朔也に甘え過ぎだったでしょ? いつまでも朔也に頼ってばかりじゃいけないから、甘えん坊から卒業しなきゃと思ったんだよ」

そう言って、照れたように笑う藤に、朔也は愕然とした。

今まで朔也の中で葛藤し、それでも藤の成長を願うなら受け入れなければならないと考えてもいたことだ。
しかしそれが現実として帰って来ると、嬉しさよりも焦りの方が強まる。

朔也は自分がいかに藤を独占し閉じ込めたいと思っているのかを、突き付けられていた。




「お前、楽しそうだな」

朔也と藤と別れた後、鼻歌交じりの宰牙に呆れたように柊が言う。

「ああ、楽しいよー。やーっと藤と楽しく話が出来るまでになったんだから」
「…友達を横取りするようなあからさまな態度は控えろよ」
「横取り? 友達を? そんな真似しやしないよ。ただ、あんなに朔也にべったりじゃ、2人にとって良くないと思いはしたけど…。そう思って気にして見ていたらさ、もともと可愛いなーって思っていたから、気が付いたらそういう意味で好きになってたんだよな…」

苦笑し、頭を掻きながら気持ちを打ち明ける友人に、柊は軽くため息を吐いた。

「俺の見た感じではあの2人、親がいない同士ってこともあるんだろうけど、絆が強そうに見えるぜ」
「そうだな…。だけど藤を見てるとさ、良いことも悪いことも何もかも、教えてあげたくなっちゃうんだよな」
「…お前な」

呆れる友人に笑いながら、宰牙は藤を思い空を仰いだ。
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