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優しい人たち

朔也に似た人

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翌朝、愚図る藤を、朔也は"気"を与えながら宥めていた。朔也は昨日出会った龍二からこっそり"気"を吸収していたし、起きてすぐに大木からも"気"を採っていた。

「やあ、迎えに来たぞ。2人とも準備は出来たか? 朝飯まだだろ? お結び握ってもらったから食えよ」
そう言って、朔也と藤に一つずつ握り飯を渡した。

朝っぱらから元気一杯にやって来た龍二に、藤は眉を顰める。顔いっぱいに『不本意だ』と訴えて。
だが、色々な子供を見ている龍二はそれに動じることも無く慣れたもので、そんな藤に対しても可愛い弟でも見るかのように、にこやかだった。

三人で家を出て、地主の杉原の家を訪問する。藤は家の外で待たされて、朔也と龍二が家の中に入っていった。
しばらくして出てきた龍二と一緒に、今度は寺子屋へと向かう。朔也の事が気になって、何度も何度も後ろを振り返る藤を、龍二は宥めるように藤の手を引いて歩いた。


寺子屋に着くと、既に大勢の子供たちがいた。子供と言っても下は10歳くらいから年長者は17、18歳くらいの幅広い年齢層だ。
龍二に促されて適当な場所に座っていたら、どこか朔也と雰囲気の似た少年と目が合った。なんだか気になってその少年を見ていると、彼が藤のもとにやって来た。

「新入り? 初めて見る顔だよな。俺、奏汰カナタ。お前は?」
「藤…。昨日この村にたどり着いて…。空き家があったから、そこに住むことにしたんだ」
「空き家…。ああ、あの荒れ果てた家か。1人で?」
「ううん、今はいないけど――」
「奏汰!」

藤が奏汰と話していると、突然大声で奏汰を呼び、誰かがものすごい勢いでやって来た。そしてぎゅうっと奏汰の腕にしがみ付く。そして藤をギッと睨んだ。

「……」

どこか見覚えのある態度。少し威嚇の度が強いが、まるで藤が朔也を取られたくないと駄々をこねている時の態度と酷似している。
藤は心の中で唖然とし、うんざりした。
もしかしたら他人には、こんな風に自分が映っているのかもしれないと思ったら恥ずかしくて堪らないと思ったのだ。

シズク…。新しく入った藤だよ。自己紹介くらいしないと」

その奏汰の言葉に一瞬ムッとした顔を作った雫だったが、藤を睨みつけるようにして口を開いた。

「僕は雫。で、こっちは奏汰。奏汰は僕のものなんだから、奪おうったって無理だからな!」
「雫! 何言ってるんだよ、藤に失礼だろ?」

あんまりな自己紹介に藤は唖然として二人を見上げる。その藤を横目に雫が奏汰をグイグイと引っ張って、別の席へと連れて行ってしまった。


しっかり者の奏汰に、甘えん坊の雫といったところか。
そんなところまで自分たちに似ている2人に、藤は苦笑いを浮かべる。


「奏汰かぁ。…朔也より、優しいかも」

朔也に雰囲気の似ている奏汰から、藤はしばらく目が離せずにいて、その様子を見ていた雫の気持ちを更に苛立たせていた。
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