上 下
58 / 161
形見を探しに

冷えた心

しおりを挟む
朝の苦手な藤が隣の雄大に起こされて、眠い目を擦りながら朔也が寝ていた場所を見ると、そこには既に朔也の姿は無かった。呆然と見ていると、それに気づいた雄大が教えてくれた。

「朔也なら、結構前に起きて顔を洗いに出て行ってから戻ってきてないみたいだよ」
「…そう、なんだ」

これはかなり気合を入れないといけなさそうだと藤は改めて思った。もちろんそれは、藤の食事に関しても言える。朔也がいなかった三日間と同じように、ちゃんと忘れずに"気"を吸収しなければならない。
くよくよしてもいられない。藤は勢いよく飛び起きて、雄大と一緒に顔を洗いに部屋を出た。


授業が始まる前に朔也と話しをしたくて、意気込んで探し歩いたものの、藤は結局朔也を見つけることが出来なかった。そうこうしている内に授業がそろそろ始まる時間になってしまったので、藤は教室へと足を運ぶ。するとそこには既に朔也がいて、天月と楽しそうに話をしていた。

藤はかなりのショックを受ける。
なんで天月? 朔也だって天月の事を毛嫌いしていたはずなのに、なんで?
藤は無意識に朔也の前に歩み寄っていた。天月が睨むように藤を見上げる。だが、朔也は藤を見ようともしなかった。
そんな朔也の様子に藤の手が震えだす。だけど、それでもと、藤はギュッと手を握りしめ朔也に向かった。

「朔…也、あの、ちょっといいかな…」
「…何?」

朔也は藤を見ることもしない。そっけなく、まるで藤になんか話すことも無いと言いたげだ。
朔也のあまりにも冷たい態度に、藤の心が折れそうになる。足も震え出した。

「話したいんだ…。ちょっとで、いいから…」

震えながら話す藤をチラリと横目で見て、朔也はあからさまにため息を吐いた。

「…何?もう、授業始まるし。ここで良いだろ?」

藤に対して冷めた態度を崩さない朔也に、教室中のみんなが息を呑んで見ていた。
雄大や颯太は眉を顰めて。そして論門は、信じられないといった風情で目を瞬かせて。
そしてこの教室にもいる天月の取り巻き達は、ニヤニヤしながら2人の様子を見ていた。

藤はこの時、自分も秘炎で仲間なのだと朔也に告げようと思っていたのだが、一向に外に出ようとしてくれない朔也に、どうしていいのか分からなくなっていた。
本当に自分は朔也に嫌われてしまっているんだと認めざるを得ない状況に、藤の瞳が潤みだす。それを見ていた雄大が、業を煮やして藤の元へと歩いて行った。

「藤、いいからちょっと来いよ。お前、予習はしてあるのか?」
「え? ま、まだ…」
「そうだろうと思ったよ。ほら、来い来い」

戸惑う藤を引っ張って、雄大は藤を彼の席へとイザナった。


雄大と藤の二人の気配を背中で感じながら、朔也は冷たい視線を床に落としていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

当たって砕けていたら彼氏ができました

ちとせあき
BL
毎月24日は覚悟の日だ。 学校で少し浮いてる三倉莉緒は王子様のような同級生、寺田紘に恋をしている。 教室で意図せず公開告白をしてしまって以来、欠かさずしている月に1度の告白だが、19回目の告白でやっと心が砕けた。 諦めようとする莉緒に突っかかってくるのはあれ程告白を拒否してきた紘で…。 寺田絋 自分と同じくらいモテる莉緒がムカついたのでちょっかいをかけたら好かれた残念男子 × 三倉莉緒 クールイケメン男子と思われているただの陰キャ そういうシーンはありませんが一応R15にしておきました。 お気に入り登録ありがとうございます。なんだか嬉しいので載せるか迷った紘視点を追加で投稿します。ただ紘は残念な子過ぎるので莉緒視点と印象が変わると思います。ご注意ください。 お気に入り登録100ありがとうございます。お付き合いに浮かれている二人の小話投稿しました。

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

君がいないと

夏目流羽
BL
【BL】年下イケメン×年上美人 大学生『三上蓮』は同棲中の恋人『瀬野晶』がいても女の子との浮気を繰り返していた。 浮気を黙認する晶にいつしか隠す気もなくなり、その日も晶の目の前でセフレとホテルへ…… それでも笑顔でおかえりと迎える晶に謝ることもなく眠った蓮 翌朝彼のもとに残っていたのは、一通の手紙とーーー * * * * * こちらは【恋をしたから終わりにしよう】の姉妹作です。 似通ったキャラ設定で2つの話を思い付いたので……笑 なんとなく(?)似てるけど別のお話として読んで頂ければと思います^ ^ 2020.05.29 完結しました! 読んでくださった皆さま、反応くださった皆さま 本当にありがとうございます^ ^ 2020.06.27 『SS・ふたりの世界』追加 Twitter↓ @rurunovel

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

【完結・短編】もっとおれだけを見てほしい

七瀬おむ
BL
親友をとられたくないという独占欲から、高校生男子が催眠術に手を出す話。 美形×平凡、ヤンデレ感有りです。完結済みの短編となります。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

処理中です...